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第50話 加護の中の病


 注文した料理を勢いよく平らげていった天城は、気品さこそ失われてはいないものの食べる速度は尋常ではなかった。フードファイターかな?




「…………それがこれから我慢するって奴の食い方かよ」






「我慢しなきゃいけないからこそですよ。この先、お肉を食べる機会が殆ど失われるからこそ、今日の味を覚えておく事で明日を乗り越えるのです」




「…………」


 完璧超人生徒会長から聞こえてきたとは思えない程、虚しい返答だった。




「……つうかお前。家族とかもそんな感じなのか?」


 純粋な疑問からポロリと聞いてしまったが、聞かなければ良かったと瞬時に思った。




 と言うより生活費を自ら無駄遣いしても許される境遇である以上、察しておけただろうに。




「家族はいません。より正確に言うなら一緒に暮らしてはおりません」




「……聞いたら不味い話か?」




「いえ、と言うより本日はそう言った身の上話をしたくて来たのです」




「え?」


 俺は渋面を彼女へと向けた。




 一体こいつはどういう話を俺にする気なんだ?






「何でお前が俺に身の上話をしないといけない? どういう事だ?」




「言ってませんでしたか? 円城瓦太一さん、私は貴方に興味があるんですよ。これはどういう感情ですかね? 端的に言って……共感と尊敬、ですか?」




「共感と、尊敬?」


 こいつの、天城麗の言っている事がますます分からなくなっていく。




 共感と言えば、俺とこいつの価値観や境遇に共通点がなくてはならない。




 そんなの無い。ある筈がない。尊敬なんて言わずもがな、だ。






「分からない、そう言いたげですね。だからこそ身の上話をしたくて来たのです。それを知った上でなら私は貴方とは目的を達成できる、そう思っているのですから」




「その為にお前の境遇を俺が知る必要がある、と」




「そうです。では、まず何から話せば良いですかね」


 うーん、と一瞬だけ唸った後、天城はこう言った。






「まず現在、私は一人で暮らしています。両親の内、母が今留置場に居ますので」




 俺は飲みかけだったアイスコーヒーをあやうく吹きかけるところだった。






「びっくりしました?」




「びっくりと言うか……それをいつもの調子で笑顔で言える胆力に驚きだわ」


 今日も天気が良いですね、くらいのノリで言ってきたから一瞬脳がバグったわ。




 えぇ……つうかファミレスでいきなり何言い出してんだ、こいつ。




「ちなみに父親の顔は知りません。『候補』は何人かいるんですけど」




「……激重い話じゃねぇか」


 まあそれなりのシリアス話になるのかと思ってたけど、そんなん簡単に超えてきたわ。




 いつ何ぶっ込まれるか分からないから、アイスコーヒー飲めなくなっちゃったじゃねぇか。やべぇよ……やべぇよ……。




「ふふっ、リアクションが良いと話をするのが楽しいですね」




「お前これリアクションが良いとかそんな判断するの?」


 え、こいつ情緒大丈夫?




 いや……まぁ、それくらい楽に捉えてくれる方がこっちも楽だけど。




 それくらい怖い。これから何が飛び出すんだろう、一体……。






「まあ重い事実は先に言っておいた方が後が楽ですからね。こう言った事はさっさと済ませておいた方が良いと思いまして。さすがは太一さん、きちんと受け止められている。器が大きいですね」




「そういう気遣いはありがたいけどな。こっちは結構アップアップだよ?」


 いや、まあ実際話を聞くにあたってそういう姿勢はありがたいけどさ。




 これ以上のヤバい事実は飛び出さなさそうなら、聞きやすいと言うものだ。




「そういう訳で境遇をお話しますと、私の家はかなりの田舎でして。そこで私達の一家はいわゆる宗教で村を仕切っておりまして」




「お前平気で嘘を吐くのな」


 何がこれ以上ヤバい事実は飛び出してこないだよ。やべぇよ、現代日本ではあり得ないくらいヤバい話だったよ。




「そうですか? 隔絶された田舎にはよくある話では?」




「田舎に対する風評被害やめろ」


 まあ一旦聞いてしまったからには最後まで聞かないといけないのだろう。




 俺は覚悟を決め、居直った。




「それでですね。幼い頃、私は『生き神』として村で崇められてまして。後になって知った話ですが、当時は戸籍や名前もありませんでした。あの時は周りから生き神様なんて呼ばれてまして、ふふっ」




「笑うところが見当たらない……」


 少なくとも誘い笑いでこっちも笑って良い話ではない。




 壮絶過ぎる……よくそれで俺と共感できるとか言ってのけたな。いや、こっから話がどうなるのか分からないけど。




「でも、結構チヤホヤされていて待遇は良かったですよ。よくお菓子とか貰えました」




「まあ、本人が思っているならそれでも良いけどさ……」


 それ多分お供えモノとかそのレベルの奴だぞ、絶対。






「けれど、当時は家で掟がありまして。私は絶対家の外に出てはいけないと母から何度となく言い聞かされておりました」




「はい出たよ、ネグレクト」


 いや、絶対どっかでそういう話に繋がるとは思ってたけどさ。




「でも、尊敬する母の言うことでしたから。私はそれに従っておりました」




 とは言え、と天城は続ける。




「ちょっとした切っ掛けで外がどうなっているのか、知りたくなってしまいまして。当時はテレビやラジオなんて存在も知りませんでしたから、外がどうなっているのかなんて分からなかったのです。けれど、どうやら家以外にも他の場所があると知ってしまって、好奇心から外に出たくなってしまったのです。それから見張りの者の目を盗んで、外に出ました。私としては悪戯くらいの気持ちもありましたが、あの時見つかったら…………ふふっ、私はどうなっていたのでしょうね?」




 いつもの調子で天城は笑うが、到底笑えない。捕まったら絶対ヤバい事になっていただろうし……。


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