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第49話 自己犠牲



「二名様で宜しいでしょうか」

 ファミレスの店内に入ると、思ったよりもすんなり入る事ができた。


 店員さんに窓際の席を案内され、俺達は二人席に着く。



「勿論、会計は私が持ちますので、お好きなモノを注文して下さい」


 早速とばかりに柔和な微笑みを讃えながら太っ腹な事を言う天城。




 俺だって男だ。こういった時、女子に奢られると言う事に抵抗がない訳ではないが、天城は学生の身でありながらかなりの金持ちと見た。何せ寄付だか何だかであんな金の掛かる特典を球技大会に用意できるほどの財力の持ち主だ。




 ここは彼女の財布に甘えておいても良いだろう。




 そう思い、俺は今の気分から頼むモノを決めた。




「それで、お前が決めたなら呼ぶが、どうだ?」


 パンフレットを眺める事もしない天城に対して尋ねると、何故かかぶりを振る天城。




「私は頼みませんので、どうぞお好きになさって下さい」




「なんだ? 腹減ってないのか?」




「いえ、お腹は減っていますよ」




「? じゃあ何で?」




 なんだろう、こいつ。さては人前で料理を食べるのが恥ずかしい、とかそういうたまにいる珍しいタイプの人物なのだろうか。




「そういう訳ではなく、お金が無いのです。貴方の分を頼んだら、私の分のお金がなくなった、ただそれだけの事ですよ」




「……はぁ?」




「何故そんな表情をなさっているのですか? 物を頼むにはお金が要る。これは経済社会における常識ではないですか。貴方は一般常識をきちんと持ち合わせているタイプの御人だと思っていたのですが」




「そうじゃなくて。お金が無いなら何で俺に奢ったりなんかしてんだよ。……じゃなくて、そもそもお前、金持ちなんじゃないのか?」


 そんな質問をぶつけると天城は小首を傾げた。






「え? どうしてそのような事を思われたのですか?」




「いや……だって球技大会の特典だって、お前の寄付だか何だかで実現したんだろう? だったら――――」




「ああ」


 ポン、と手を叩く天城。




「勘違いさせてしまって申し訳御座いません。ですが、あれは決して私が金持ちである事の証左ではありません。あれは単に私の生活費から捻出したに過ぎません」




「生活費? つまりお前の生活費はそれを出せるくらい余裕なんだろ?」




「違いますよ。もう生活費の殆どはあの費用を捻出させた事で底をついてしまいました」




「は、はぁ!? じゃあ、お前、明日からどうやって生活するんだよ!?」


 そんな俺の当然生まれる疑問に対して、天城はさも当然かのように言ってのける。




「そんな事、『我慢する』以外に何かありますか?」




「……え、えぇ」


 俺は声にならない声を上げた。




 え、こいつ何どういう事? 頭バグってんのか?






「い、いや我慢するったって、これからお前どうやって生きるつもりなんだ?」




「成程、具体的な事が聞きたいんですね。私が生きていくには勿論、お金が掛かります」




 でも、と天城は続ける。




「ご飯なんてそれこそ三日くらい食べなくても死なないでしょう?」




「…………」


 俺はそれを聞いて押し黙るしかなかった。




「今回のお金の使い道で、皆さんが幸せになれた。私のフォロワーが増えたのがその証左です。であるならば、このお金の使い道は間違っていない。その代わり私が多少不便になる事は致し方のない話です」




「お前……そこまで自分を犠牲にしてまで、今回のバトルロイヤルに勝ちたいのか?」




「バトルロイヤルですか? まあ……負けたくはないとは思ってますが、何故?」




「いや、お前そんな事をしてまでフォロワーを上げたんだろ? だったら――――」




「ああ、いえ。それはそういう事では無いのです。今回の特典は日々頑張っている皆様に対して私が出来る事を私の出来る範囲で行った。それだけの事ですよ。なのでバトルロイヤルは関係なくて、つまり私のちょっとした心づもり。端的に言って気まぐれ、あるいは我儘の類ですよ」




「………………っ」




 こいつ、これを本気で言っているのか?




 自分を犠牲にする事を何とも思っていない。




 俺が炎上する事で自分の地位を犠牲にしている、そんな次元の話じゃない。




 自己犠牲。こいつにとってはそれが当たり前の事なんだ。自らを犠牲にして、他者を幸せにする。それがこいつにとっての在り方なんだ。






 何だ、何なんだ、この化物は……。





「……さて、次の話に行きたいのですが。それよりも――――」




「……?」


 天城は一旦話を区切り、横へと視線を反らす。




 すると、そこには店員が居て、怪訝な顔つきでこちらを見ていた。




「どうやらそろそろ何か注文しないと。こちらを追い出されてしまうのでは?」




「あ、ああ。成程」


 天城にそんな風に急かされた俺は先程決めていた注文を店員に向かって告げる。




「そちらのお客様はいかが致しましょうか」


 店員さんは天城に向かって、注文を聞こうとする。




「あ、いえ。私はお水を戴けます――――」




「天城。お前はお前で好きなモノを注文しとけ。金は俺が出すから」




「え、いえいえ。太一さんは私が呼び出したのですから。それは失礼と言うものでは?」




「そんな訳にいくか。腹減っている奴の目の前で、一人飯なんて食ってられるか。良いから何か頼め」




「え、良いんですか? さすがは太一さんですね。心づもり、誠に感謝致します」


 今まで以上に嬉しそうな笑みを見せた天城は、パンフレットをパラパラと数秒捲ったかと思えば、すぐに店員に注文する。




 なお、天城が注文したのはガッツリとした肉料理に、サイドメニュー数点。つまり俺の頼んだ注文のおよそ倍以上の値段に達していた。




 いや、俺がお前の分出すからとは言ったけどさ……。いや、言ったからには仕方ない。




 どうやら天城はあまり気遣いの出来るタイプじゃないらしい。あるいは分かった上でする気がないのだろう。


 完璧超人のちょっとした人間味のある部分が見えて、ある意味ホッとしてしまった。


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