第47話 誠意
その後、常人の軽く数倍は仕事を熟したであろう天城の尽力により、間に合いそうになかった球技大会実行委員の仕事はみるみるうちに片付いていった。
これで、休日に実行委員に出てくるというブラック企業さながらの事態は避けられただろう。
「ふー……、それでは帰りましょうか、円城瓦さん」
「ああ……あ?」
俺が鞄を持って廊下へ向かって歩き出そうとする中、それが自然であるかのように実葉が横に並ぼうとする。
「どうかしました?」
きょとんとした様子の実葉だが、この様子に疑問を呈さない訳にはいかない。
「いや、ちょっと待て。お前、俺と一緒に帰るつもりか?」
「いけませんか?」
「いけないって言うか……えぇ」
何と言うか女子と一緒に二人きりで下校なんて、それこそ青春の一幕みたいで……。いや、そう言えば麗佳とは何度かそういう事もあったが。あれは事情が事情だし。
「もう日も暮れて、女の子が一人で歩くには少し危ないです。それとも円城瓦さんはそういう事を許してしまうタイプの御人なのでしょか」
「……いや、そういう訳じゃ」
そう言った観点から責められると辛い。俺は溜息を吐きつつ、頷いた。
「……分かった。駅までで良いか?」
「ええ。……ま、こんな夜道を歩く事なんてザラなので、それ程心配して戴かなくても本来は構わないのですけど」
「おい」
「良いじゃないですか。告白の返事を待っている手前、これくらいのご褒美は戴かないと」
「…………」
それ、盾に取ってくるのずるくない?
仕方なく俺は実葉の横に並んで、一緒に下校する。
そんな中、
「……ふふっ」
ふと横を歩いている実葉が笑みを零した。
「どうした?」
「いえ、感慨深いなって」
「感慨深い?」
「ええ。あの時は円城瓦さん、一切一緒には帰ってくれませんでしたけれど、今は帰ってくれるなって思ったらつい」
「この前の恋人(仮)の期間の時か。だってあれは……」
あの時は実葉は間違いなく俺を裏切るものだと思っていたし、そんな奴と一緒に帰る危険性はどうしても犯せなかった。ただ、それだけの話だ。
「そうですね。けれど、そんな円城瓦さんも今では一緒に帰ってくれている。少しは私の事を信用してくれるようになったのかなって」
「まあ、そりゃあなぁ」
あれだけやってもらって少しも信用していなかったら、それこそ人間の屑だ。
いや、まあ今も大概だけれども。それでも、少しは他人からの好意に向きなおれるようになった。
「これで、もっと甘い雰囲気になれたら私としては文句なしですけれど。ねぇ、円城瓦さん」
「………………そうだね」
だからこそ良心の呵責がズキズキ痛む訳だけど。
こいつ、すっごい攻めてくるじゃん。恋愛界のフォワードかよ。
いや、まあこれも俺の所為なんだけど。でも、まあ下手な返事はできない以上、待たせるしかない。しかないってなんだろう……、胃が痛い。
それも俺の我儘なのだろう。となれば誠意は見せないといけないと思う。
甘えてばかりでは駄目だ。
「実葉」
「ええ。何で御座いましょう」
「告白の返事、来週一杯には答えを出すから。構わないか?」
「先程も申し上げましたが、私としては一向に構いませんよ」
「……実葉はすげぇな」
「…………はい?」
実葉は面食らったかのような声を出す。
そんな彼女に俺は本音を告げる。
「いや、自分の気持ちをちゃんと伝えるってやっぱり難しいよ。怖すぎて怖すぎて堪らない。しかも、俺は期限を設定しただけ。お前はそれ以上だ。人に好きって言うだけの事がこれだけ怖いなんて……。しかも俺は好きって言われる事からも逃げてた。嫌いとか死ねとかゴミとかクソとかなんて言葉は吐き捨てられてきたのにな。逆も怖いなんて知らなかったよ」
実葉は無言を返し、俺は言葉を続ける。
「それもお前はすっげー上がり症だった。そんなハンデの中にあっても気持ちを伝えてきた。しかも今ではかなり克服している。それがどれだけの事か、俺には分かるよ。過去を乗り越えてきたお前がどれだけ凄いのか」
「……円城瓦さんは卑怯です」
ぼそりと実葉は言葉を告げた。
気づけばその表情は夜の帳ですら隠せない程、真っ赤に染まっている。
「そういう事を平気で言えるなんて……、そんなのもっと気持ちが溢れそうじゃないですか」
「……悪い」
「良いんです。そういう人だから好きになったんですから」
そして、お互いの間に変な空気が流れる。
あれ、もしかして俺やべぇ事言った? 思い返してみると……うん、やべぇな。風呂かベッドの中で死ぬ奴だ、これ。つうか今死にそう。




