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第38話 好意

 次の日も、その次の日もこのリア充生活(仮)は続いた。


 とは言え、二人きりになる事はほとんどなく、昼食の間くらいだったが。


 その間ずっと実葉は俺に手作りの弁当を作ってきており、俺はそれを戴いた。


 美味しくないと言えば嘘になるし、この甘い雰囲気を味わえたのも決して悪くはない。


 だが、ふとした時に思うのだ。結局、実葉は姫崎を始めとしたリア充達に命令されているだけに過ぎず、全ては俺に苦汁を舐めさせる為のものだと分かっていれば、どうしようもない虚無感に襲われる。



「……、きょ、今日こそは、その、一緒にか、帰りませんか?」

 球技大会実行委員会への出席後、委員会連中からの視線を集めている中で、実葉にそう言われる。



 周囲からは口々に「調子に乗りやがって」「ほんとに、のん気なものだよな」などと罵声が聞こえてくる。以前の件も手伝ってか俺のここでの評判は害虫よりも酷いものだろう。


 そんな中で俺ははっきりと答える。


「……それだけは遠慮しておく。前にも言っただろう」


 放課後二人きりになるのだけは基本的に避けていた。


 何故なら二人きりになった瞬間に俺はこいつに襲われ、バトルロイヤルからリタイアする羽目になるかも知れないからだ。


 脅されれば為す術はないと思っていたが、これに関しては実葉もそれ以上の事を言わなかった。


「……そうですか」

 と口にしつつ、実は今日も一人で委員会の活動を行っていた教室から去っていく。


 次の瞬間にはまた周囲から陰口を叩かれる。「うっわ、何で上から目線で断ってるの、あいつ」「実葉さん可哀想、どうせ何かしら脅されてんでしょ?」「先生とかに言ってどうにかして貰えないの?」「いや、無理でしょ。もっと酷い事されなきゃ良いけど」などの声が俺へと突き刺さる。


 無論、断ったのは実行委員連中への牽制でもある訳だが。こんな場所で露骨にイチャイチャすれば、実葉もいずれは俺と同じような扱いになる可能性もある。


 俺みたいな存在は俺だけで十分だ。他人を巻き込む気は元より毛頭ない。



 そして、俺は実葉が出ていった時から五分程経ってから席を立つ。


 以前のように人気のなくなったところで狙われないよう、目につきやすい場所を通って歩いていく。これならどうにか――――


 そんな最中、


「あんたが、円城瓦?」

 などと男子生徒に呼び止められる。



 呼び止めた男子生徒は、いかにもな体育会系と言った感じの青年であった。程よく鍛え上げられた体格に坊主頭、少々威圧的であった。


 さらに話しかけてきた男子生徒の後ろには幾人かの連れがおり、合計で五人と言ったところだ。



「……そうだけど、何だ?」

 ぶっきら棒に返すものの、嫌な予感を覚えて仕方がなかった。


「お前の事、炎動先輩が呼んでんだよ。何の用かは知らないけれど、俺たちに付いてきて貰うぜ」

 炎動――炎動光輝。確かバトルロイヤルの参加者の一人で、『グループ』って組織のメンバーだったか。


 つまりこちらが実葉の対策に掛かりきりになっていたところで、あっちから仕掛けられたと言ったところか。


 一方で俺に話しかけてきたこの男子生徒達は炎動のパシリで、恐らくは参加者ではないだろう。


 確定はできないが、それなら逃げ切る事も可能であるかも知れない。


 だが、そうなれば、フォロワーによって底上げされた力の一端を一般人に見せる事になってしまう。


 ……ある意味、厄介な奴らをパシリに使っているもんだ。


 俺は仕方なく彼らについていく事にする。勿論、乃雪に『炎上』してもらうようお願いするメールを打ち、且つ麗佳にも応援要請を頼む。


 『グループ』に手を出すのはもう少し後に残しておきたかったが……、仕方ない。


「お前、炎動先輩に何しでかしたんだ? あの人、怒るとかなりヤバいから不味いんじゃねぇの?」


「ばっか、お前。そいつはうちの学園で一番の嫌われ者だぜ? それに最近、調子に乗ってるとか聞いた事あるし、炎動先輩の呼び出し食らったって事はもう決定だろ?」


「ああ、そっか、可哀そうになぁ。同情しますよ、先輩」


 パシリの男子学生が憐みと蔑みの入り混じった視線でこちらを見遣る。まあ俺みたいな奴が呼び出し食らったらそりゃそういう風に捉えるか。どう考えても弱者側だもんね、俺。


 連れてこられたのは、視聴覚室だった。


 成程、少々騒いだところで防音設備が整っている事なら騒ぎが外に漏れる事もないだろう。



「炎動先輩、連れてきました」


「ああ、ご苦労さん。お前らもう行って良いぞ。ちなみにこの事は誰にも言うなよ」


「分かってますよ。じゃあ、ごゆっくり」

 男子学生ら五人は嘲笑を残し、視聴覚室を後にした。


 後には俺と俺を呼び出したらしい男――炎動の二人が残される。


「……で、お前が円城瓦太一で間違いないな? ほんっと非リアの典型みたいな顔してやがるから、間違いないだろうけどよ」


「あんたが炎動光輝か?」

 視聴覚室に設置されたスクリーンの前に立っているのはいつか写真で確認した炎動光輝に間違いなかった。色黒の外見に、写真よりも幾らか明るく染め上がった髪色、こちらを侮蔑し切った表情だけが写真で確認したものとは幾分か違っていた。



「あんた? ……おいおい、口の利き方に気を付けろよ、嫌われ者。どうやら同級生らしいが、俺とお前で同等でも思っているのか? 歳以外に俺とお前で対等なモノは何一つねーんだから、もっと媚びへつらっとけよ、学園のゴミがよ」

 吐き捨てるような言い方だが、まあさして言いがかりでも無かったので放っておく。


 ……物言いはともかく嫌われ者なのは事実だからなぁ。正論ですよね。


「大体よ、お前みたいなカースト最下位の糞陰キャがバトルロイヤルに参加している事自体が不思議でならねぇよ。したら何? みんなから嫌われる事で逆に注目度を集める戦法? いや、ホントある意味お前みたいな屑にしか使えない戦法でほんと参っちまうわ。……まぁ、そんな屑を許すのもここまでだ。お前は今、この瞬間にこの俺に敗北させられんだからな」


「……、俺の事は誰から聞いたんだ?」

 俺の戦法について知っているという事は、誰かを介して情報を得たのは間違いないだろう。


 まあ、大方予想は付いているけど。



「はっ、今からリンチされるのにお気楽だな、お前も。…………入ってきて良いぜ」

 炎動はどこかしらに電話を掛けると、ものの一分足らずで視聴覚室の入り口から誰かしらが入ってきた。



「実葉と姫崎か」


 入口から入ってきたのはクラスメイトである姫崎と、そして実葉だった。


 姫崎はしてやったりと言わんばかりのドヤ顔で、一方の実葉は目を逸らして如何にも気まずそうという風だ。


「キャハハー、ねぇ、クソ瓦、今どんな気持ち? ほんっと、どう思ってるの? それとも馬鹿だから状況とか理解出来てないのかしら?」

 くっくと楽しそうに喉を鳴らす姫崎は実に楽しそうで、嗜虐的な笑みを浮かべている。



「いやさ、あたしってばちょっと油断しちゃって偶然、ほんっと偶然が重なってあんたに負けちゃったじゃない? ま、それもあんたが炎上とかいう汚い手を使ってただけって話なんだけどー。でも、あたしってばやっぱり負けたままってのも性に合わないからさ、あんたをぶっ殺せる機会を伺ってたって訳よ。そしたら、そこにいる光輝があたしに協力してくれるって言うからさ、色々頑張って見ちゃったわけ。あたし、光輝のいるサッカー部のマネージャーだからさぁ、持つべきものは光輝みたいな頼りになる友達だよねー」


「おいおい、お前は幽霊部員だろうが。練習になんてほとんど顔出した事ねぇじゃん(笑)」


「えー、試合の時には応援しに行ってあげてるじゃない」


「それはマネージャーの仕事じゃないだろうが」

 続いて視聴覚室に響き渡る二人分の笑い声。その笑い声は頂上で奴隷達をしり目に嘲笑う特権階級さながらであった。


「でもー、例え光輝が協力してくれるって言っても、あんたがまた前みたいなズルを使わないとも限らないしー、あたしなりに保険を用意したって訳よ。それがこの子よ」

 姫崎はぐい、と実葉の首根っこを掴むようにして引き寄せる。


「いたっ」

 実葉はいきなりの事に顔を歪めるも、姫崎はそんな事には意も介さず言葉を続ける。


「この子、すっごい“優しい”からあたしのお願い何でも聞いてくれるのよ。しかも参加者だって言うんだから使わない手は無いわよね。そこで円城瓦と同じ球技大会実行委員にして繋がりを作らせて告らせたら、クソ瓦みたいな童貞はコロッと落ちちゃうって寸法よ。でも、残念、好きだって言ったのも全部あたしが指示しただけだから! まぁ女の子と付き合うなんて経験した事が無いでしょうクソ瓦は騙されたでしょうけど」


「姫崎、お前すっげーゲスい事考えんな。関心するわ」

 炎動は笑いながら感想を述べる。当の姫崎は得意満面のご様子だ。



「これで精神的にとことん追い詰めつつ、あんたをバトルロイヤルから脱落させるってのがあたしの作戦よ。どう? あんたみたいなクソ陰キャがイキった罰よ、あははは!!」

 姫崎は高笑いを浮かべつつ、ドンと実葉の背中を押した。



「それじゃあ、彼氏彼女で戦いあって貰おうかしら。そんで弱ったクソ瓦を光輝がぶっ殺す。んー、我ながら完璧な作戦よねぇ」

 つまりは二対一という状況を作られた訳だ。


 ただでさえ厄介な存在であろう実葉に加えいかにもリア充っぽい炎動を相手どらないといけない。正直、骨の折れる状況だ。


 とは言え手は打ってある。現状で既に俺のフォロワーは乃雪による炎上により高い値に達している。さらに麗佳にも応援の要請は行っている。


 つまり、ものの数分、炎上状態で耐える事ができれば、麗佳の援軍が期待できる。そうなれば麗佳と一緒にこいつらを蹴散らしてしまえば良い。決して難しくはないはずだ。


 懸念材料があるとすれば実葉が例の十五禁エロアカウントを利用しての炎上を目論んで、戦力が大幅に上昇する事か。


 あちらは現状こちらを舐め切っている。姫崎が実葉の奥の手についてどこまで知っているかは分からないが……、まだ使わせてはいないと見るべきだろう。まだ実葉にはそれ程のプレッシャーを感じないからだ。


 よって実葉は短期決戦で倒し、最低でも炎上するための準備段階に必要なスマホでの操作を許さない。それと同時に炎動を相手取る。これが今回の戦闘での最低条件だ。


 倒す事は考えなくて良い。負ければ終わりだ。生き残る事を考えなくては。


 そして、俺は実葉を視界に捉え、炎動の気配を耳で探っていた。


「さあ、クソ瓦を始末して! 実葉!」

 そんな姫崎の激と共に実葉は動いた。


 だが、向かっていく対象は俺ではなく、まさかの炎動であった。



「は? はぁああああああああ!?」

 炎動は全くの無警戒だったのだろう。実葉への攻撃に対する対応がかなり遅れていた。


 さらに言ってしまえばどうやら炎動のフォロワーはそれ程の強さでは無いようだった。反応の鈍さ、実葉の攻撃をガードし切れない運動能力の低さから察するにそれは明らかだった。


 後輩連中を顎で使うような横柄な態度を見せていたのだから、それが仇となったのだろうか。


 だが、それでも最後の意地とばかりに実葉の左拳を掴み取った炎動は、必死で口を動かした。


「て、テメェ! 何だよ! お前の相手はあっちだろうが! なに調子くれてんだ、ああぁん!?」

 先程俺にやった時と同じように青筋を立てて実葉に対して凄んで見せるも、実葉は全く意に介さず力を緩める気はない。



「今です、炎上瓦さん!」

 それどころか実葉は俺に合図を送り、攻撃のチャンスを整えた。


 そこからは簡単だった。


 身動きの取れない奴一人、それも炎上状態にある俺のフォロワーには遠く及ばない。


「や、やめっ――――」

 炎動の悲壮に満ちた表情をしり目に、彼を一撃で楽にしてやる。


 あまりにも呆気ない幕引きだった。


「な、なんだよ、それぇ!!! ありえないでしょ!」

 炎動が倒れた事を理解した姫崎は金切り声を上げた。彼女にしてみれば、せっかくの作戦が水の泡となったのだから当然だろう。


 続けて姫崎は糾弾の声を上げ続ける。


「何してんのよ、実葉ぁ! あり得ないでしょ、何? そのクソに情でも移っちゃったの!? はぁ!? このあたしがあんなに良くしてやったのに、あり得ないでしょ!? はぁ、もうあんた、明日からクラスに居場所ないと思いなさいよ! つーか、何? もしかして実葉ってばなんか勘違いしちゃったの!? まさかこんなクソに惚れちゃったの、あり得ないでしょ! 男の趣味、悪すぎ! ま、ある意味お似合いだと思いますけ――――」


 ドカン、と視聴覚室の壁が破壊され、視聴覚室に破砕音が響き渡る。


 実葉が姫崎の傍らにある壁を破壊した音だった。実葉は高速で彼女の傍らに移動した直後、青筋を立てて姫崎を見遣る。



「ひぃ!?」


「なにも――――なにも知らない癖に、円城瓦さんを悪く言うのは止めて戴けますか?」

 怒りの籠もったその表情が決め手となったのか、姫崎は脱兎のごとく視聴覚室から去っていった。


「それで……どういうつもりなんだ、実葉。これも作戦とやらの一種か? それとも――――」


「円城瓦さんは憶えておいででしょうか。先日の昼休みに言った、私の過去を」

 俺の質問に答えなかった実葉は代わりにそんな事を口にした。


「……過去? お前が虐めに遭ってたとかいう話の事か」

 確か恋愛に関わる事でトップカーストの女子の顰蹙を買ったとか何とか。


 俺の返答に実葉は頷く。


「その虐めは周囲から見れば大した事のないものであったのだと思います。ですが、上がり症でこれと言った友人もいない私にとってはそれはもう辛い出来事でありました」


 学校の教室とは言わば小さな小さな箱庭だ。


 そこに居場所がないと言うのは何も知らぬ他人が想像している以上にきつい。


 まさに針山の中に放り出されたかのように、身体中が視線という針に突き刺されているような気持ちになるのだ。視線の一つ一つに意味もなく怯えてしまう、俺にもそれは痛い程分かる。


「そのストレスから少々エッチな事にのめり込む事もありましたが……、それもちょっとした遊興に過ぎず、あの時の私はかなり追い詰められておりました。そんな時の事です。私を煙たがっていた方に対して、一言こう申し上げた者がいらっしゃいました」


 曰く『好きだった男子取られたくらいで、何陰湿な事をしてんだよ恥知らず』と件のカースト上位の女子に言い放ってしまったらしい。


「それからは私への嫌がらせは目に見えて減り、代わりにその者に対する嫌がらせは日を経る度に増えていきました。ただ、私と違うところはその方はまるでめげませんでした。それどころか粛々と一人で立ちまわっておりました。物が壊されれば写真を撮って教師に報告、下手な文句や脅しをされればそれを録音して、職員会議にまで発展させる。証拠の残らないような地味な嫌がらせには目もくれない。さらに首謀者の方の虐めの実態がなぜかネットを介して匿名で暴露された事もあり、騒ぎは沈静化していきました。私にとってはその方はヒーローでした。貴方の事です、円城瓦太一さん」


「……………………」

 違う、こいつは酷い誤解をしている。


 確かにそんな事があったのを俺は憶えている。


 だが、俺はただただ居心地の悪さを感じていただけに過ぎない。


 かつての自分を見ているようで耐えられなかった。だから首謀者の女に正論を叩きつけただけだ。誰もが知っていて、けれど空気を読んで言わなかった一言を、自分がスカッとするためだけに言ってやった。それだけの事だ。


 実葉を助けようとして言った訳ではない。そもそも俺は実葉の事を認識してすらいなかった。クラスにいる地味な女子生徒、という認識でしかない。そんな奴が周囲から糾弾され続けている状況に自分を重ねたから、ちょっとした行動を起こしたに過ぎない。


 それに虐めに対して一人で立ち向かったなんて眉唾も良いとこだ。ある程度の証拠を集めて、後は妹の力を借りただけ。そもそも最初は行動を起こそうともしてなかった。妹に言われて、言われるがままに行動した。


 だからヒーローになるべきなのは乃雪だ。俺ではない。


 俺は騒ぎを起こす切っ掛けづくりしか、『炎上』させる事しか能のない男だ。



 だから実葉、俺をそんな目で見ないで欲しい。


 そんな、直球の好意をぶつけられるに相応しい人間ではないんだ、この俺は。


「いつかあの時のお礼と、好意を口にしたいと思っておりました。でのその勇気が出なかった。学年が上がって同じクラスになったのにも関わらず、その幸運に胡坐を欠いていたのです。そんな時に姫崎さんに言われたのです。『円城瓦太一に告白して、彼女のフリをしろ』って。私は姫崎さんの言う通りにしました。『フリ』という点には命令に背いて」


 俺はそれ以上の内容を聞いてられなかった。


 嫌悪感こそが俺に向けるに相応しい感情だ。


 俺は自分をいつも罰してきた。自分の――あの忌まわしい「過去」を決して許せなかったからだ。


 だから好意を受けている事が分からない。頭がぐちゃぐちゃになっていくのが分かる。


「改めて言います、円城瓦太一さん。私と付き合ってください。勿論、これは強制ではありません。貴方の素直な言葉を聞かせてください」


 付き合って? 付き合ってとは何だ? 俺を好きって事か? 俺を好きになる奴なんているのか? そんな馬鹿な――――


「…………」


「……すいません。そんな顔をさせるつもりは無かったんです」

 実葉は悲しそうにそう言った。


 顔? そんな顔ってどんな顔だ? 俺は今、どんな表情をしているんだ?


 それよりも実葉の告白に答えなければならない。無理だって言わなきゃ。いや、違う。そんな言い方じゃ、まるで実葉が駄目だって言っているみたいじゃないか。


 そうじゃない。俺が付き合うに値しない人間だって言わなきゃ。分からせなきゃ、それを。


「――――戦おう、実葉。今なら俺はお前を倒せる。例えお前が炎上しようとしても関係ない。その前にお前を倒せれば……」


「……、その必要はありません」

 そんな事を口にしながら実葉はスマホを操作する。やはり炎上を目論んでいるのか? 効果が出るまでに倒さなければ――――


「円城瓦さん、私を倒す必要はありませんよ。……と言うよりも私では貴方に勝てません」


「勝てない? だったら奥の手を使えば良いじゃないか。今お前は現に炎上しようとしていて――――」


「それは違います。私が使っていたアカウントはたった今、削除しました。データも全て消去しました。これで私は『炎上』する方法を失いました」


「……なんだって?」


「バトルロイヤルからも辞退致します。私に叶えたい願いはありません。だって今、貴方に告白した事で私の願いは達成されましたから」


「…………」


「それでは円城瓦さん。後の戦い、陰ながら応援しています。それと…………麗佳詩羽さん、どうか円城瓦さんの助けになってあげてください。それでは」


 はたと俺は後ろを振り返る。視聴覚室の入り口に目を走らせると、そこには麗佳が立っていた。


 彼女はいつものように、しかし冷静な表情で俺を見つめている。


「お前、いつから――――」


「実葉さんから貴方が告白された時から、かしら」


「…………、だったら言い訳してもしょうがないか。見てただろ、俺の最低なところ」

 せっかく女の子が告白してくれたのにも関わらずそれに応える事もしない、そんな男として最低なところを。


 どう取り繕っても言い訳なんてしようがない。俺はやはり最低な糞陰キャだ。


「円城瓦君、貴方。過去に一体何があったの?」

 叱るでもなく、蔑むでもなく。麗佳は俺にそう聞いてきた。


「そんなの聞いてもしょうがないだろ。それに……調べればすぐに分かるさ。だってあんなに炎上したんだから」

 以前も俺はこの過去の炎上を敢えてもう一度流布する事で炎上、フォロワーの数値を上げた事すらある。だからネットで少し調べれば俺の事はすぐに分かる。本名も、一時期は住所や電話番号だって特定されていたのだから。


 しかし、麗佳はただただ無言でかぶりを振る。


「いいえ、私は貴方の口から直接聞きたいわ。……勿論、惨い事を言っているのは分かる。けれど、炎上した後に出て来た情報はどこか捻じ曲がっているから。私もそれは知っているわ、経験上ね」


 麗佳は俺の目をまっすぐに見つめた。俺はその視線に対して、目を合わせるのを躊躇う。


 しかし、麗佳は二の句を告げて、訊く。


「貴方、過去に何があったかは分からないけれど、どれだけ自分を恨んでいるの? ……はっきり言って異常よ」


 異常。その言葉が脳裏に何度も繰り返される。


 異常――――果たしてそうなのだろうか。俺の所為で”あんな事”になってしまったのだ。俺が俺を許せないのは当然なのではないだろうか。



「…………まあ、お前になら良いか」

 どうせ嫌われるなら、骨の髄まで嫌って欲しい。例え麗佳と袂を分かつのだとしても。


 そして、俺は後悔してもし足りないあの過去について、語り始める。

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