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第31話 居場所消失

三月を超えたので、ようやく小説が書ける幸せをかみしめる男。やったぜ。


「――――球技大会までの準備について、担当をそれぞれ決めていきたいと思います」


 球技大会実行委員長の話を聞きつつ、欠伸が出そうになるのをどうにか噛み殺す。


 どうやら実行委員の話し合いとやらはほぼ毎日行われるらしく、青春イベントの裏には誰かの犠牲があることを俺は身をもって知った。



 今回の実行委員長は選出された各クラスの実行委員の内、三年生から選抜されているのだが……、この実行委員長は和を重んじるタイプと言うか何と言うか、はっきり言ってしまえば仕切り方がかなりお粗末だ。


 一つひとつの担当を決める際にも一々立候補だの、推薦だのという行程を挟んでいたからいつまで経っても終わらない。そのせいで会議が長引き、その分だけ会議の回数が増えているかと思うと、欠伸も出るというものだろう。


 これが生徒会の仕切りであれば、“あの”会長が全てを十全にこなしてくれていたかと思うと、やりきれない。


 正直に言ってしまえば出きるだけ早くにバトルロイヤルの対策を進めたいのだが……。



 実はと言えば、昨日の痴女メイドについて、進展がない訳でもなかった。



 あいつと遭遇して逃げる最中、実は隙を見てスマホで写真を取れていたのだ。



 走って逃げている最中であったし、焦って操作したものだから、肝心の写真はぶれているし、遠目ではっきりとは写っていない。



 だが、


「酷い写真だけど、解析すればどうにか使えると思うの。これを元に学校の生徒名簿と照合すれば、相手が見つかるかも知れないの」



 とこの手の情報収集に関しては最強と言っても過言ではない妹に任せればどうにかなるとの事だった。さす妹。


「けれど、元の写真はこのままだと使えないから画像を整えたあとに、解析プログラムを作成してから走らせるまでにちょっと時間が掛かると思うの」


「それってどれぐらい掛かるんだ?」


「徹夜して、次の日の夕方くらいまでにはどうにか……」


「天才かよ」

 妹がこの手の事に関しては有能過ぎて怖い。


 という訳で、今は乃雪の昨日から始めた情報解析待ちの状態だった。

 

 現在は待機状態で暇だから実行委員の話し合いが少しくらい長引こうが構わないが……、乃雪からの連絡が入ったら、適当な理由つけて話し合いから抜け出そう。


 そんな中、俺は隣をちらりと見遣る。


「………………」

 隣には副実行委員である地味なクラスメイトの娘が俯きがちに、ちょこんと座っていた。


 その間には通常よりも距離があった。何だろう、俺にゆとりのあるスペースを使って欲しいという配慮かな?


「………………ッッ」

 その内、俺の視線に気づいたらしい副委員の娘は、小動物のごときビクリ、と反応しつつ、顔を赤くして視線を外す。


 そして、より一層の距離を取った。……なんだろう、普通に傷つく。


 そんな中、間違いなく無視され続けるであろうと思っていた俺に、そのクラスメイトは話しかけてきた。



「あ、あの……な、なにか?」

 おっかなびっくりとした様子である一方、その言葉には悪意や嫌悪感と言った感情はなかった。


 ……なんだろう。こんな普通に対応してもらえると、結構感動する。俺の感動のハードル低すぎぃ!



「いや、なんでも……」


「そ、そうですか」


 そんな風な対応ですぐに会話が止まる。コミュ力に重大な欠陥が発生していた。



 一方の副委員の娘は胸に手を当てて、息を吐いていた。

 どうもあっちも人と話すのはあまり慣れていないタイプらしい。



 なんだろうこの庇護欲が刺激される感じ……。手で撫でてみたいが、そんな事をした瞬間、俺は社会的な地位の全てを失うであろう事は想像に難くない。



 その後、しばらくの間、ぐだぐだとした会議の進行を見守っていた中、突如として「あ、あの!」と隣の副委員の娘が立ち上がって声をあげる。



 突如として会議が止まり、実行委員の面々の視線がその娘に集中した。


 すると、副委員の娘はあわあわと焦った様子を見せたあと、「え、えと、その……、あの……」と要領の得ない言葉で説明しようと試みるが、伝わらない。


 そこで何人かの嘆息が漏れ出る。当然の反応にも思えるが、もう少し手心を加えてやって欲しい。


「えと、すいません……」

 とその内、席に座り、しゅんとうなだれてしまう。


 周囲からは「なんなんだよ、マジで」などと糾弾の声が上がる。



 ……仕方ないか。



 俺が手を挙げると、副委員の娘に向いていた視線が一斉に俺へと向けられる。


 中には「うわっ……、きも瓦じゃん」と明らかな嫌悪の声が聞こえてくる。

 えぇ……、こいつら俺が今から何を言うか分かってるみたいな嫌悪感じゃん。いや、それ正しいんだけどね。



「すいません、実は俺トイレ我慢してたんですけど、会議がめちゃくちゃぐだぐだな上、あまりにも無駄に長い所為で、そろそろ限界だったんですよね(笑)」



「は?」

 実行委員長の眉間に皺が寄る。


 さらに他の連中からも「いや、実行委員長は頑張ってるじゃん」「ただ、見てただけの癖にお前何様のつもりだよ」「トイレ我慢とか……、黙って抜け出せばいいじゃん。わざわざ何言ってんの、汚っ」「二年の癖に調子乗ってんなよ」などというヤジも飛ぶ。いや、マジでその通りです。



 だが、俺はまだ煽りを続けた。



「俺のクラスの娘は、俺がトイレを我慢しているのに気づいて、代わりに許可を取ろうとしてたんじゃないですかね? でも、まあ恥ずかしくて言えなかったとかそんな感じじゃないですか?」

 そんな事をぶっきらぼうな調子で言うと、「ああ、それならそっちの娘は仕方ないけどさ……」「つーかきも瓦に気を遣うとか聖人じゃね?」「あんなのの隣に座ってるとか……マジかわいそー」と副委員の娘への非難が、俺への非難へと変わる。



「じゃあ、そんな訳で俺はトイレに行くんで」

 と席を立ち、会議に使っていた教室を出る。



 教室を出る間にも俺への非難と、実行委員長を擁護する声は続いた。


 ……これ、戻ってきた時に俺の椅子はまだ残っていますかね?



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