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第30話 嘘から出た誠

違うんです、やる気なくなったとかじゃないんです。ただ、ちょっと3月越えるまでは仕事がクソ忙しいと言うか……(血涙)

 舞島の話を纏めるとこうであった。




 いつものように部活動の居残り練習を済ませたところで帰ろうとすると、ふと見上げた校舎の廊下に俺と麗佳の姿が見えたらしい。




 さらに舞島の角度からは教室のドアが開くのが見え、興味本位でここまで来たら案の定……と言うことだった。




「よくお前警備員に見つからなかったな?」




「いえ、見つかりましたよ。挨拶して忘れ物があるから取りに行くって体で言いくるめました。ちょっと媚びたらすぐ通してくれるんですから、おじさんってちょろいですよね」




「…………」


 なんか女子高生全員がお前みたいな腹黒的考えを持ってそうに感じてくるから、そういう発言は謹んで欲しい。




「え、ええと……こんな時間まで大変ね、舞島ちゃん」




「ええ、詩羽先輩にボコられたお陰で、こうしてバトルロイヤルの事なんて忘れて黙々と部活動に打ち込めますよ。本当にありがとうございます」




「…………」


 皮肉力の高い返しに思わず押し黙る麗佳。



 なに、こいつ二重人格者かよ。ファンである事、バラしたろかいな。




「それで……何してたんですか? 不純異性交遊ですか? うわぁ……先輩達ってば、校舎とかでそんな事をする変態だったんですか? マジドン引きです……」




「違う(わ)」


 舞島による煽りに対して、俺と麗佳が同時に答える。




 そんな俺達の返答に対して、舞島は満足したかのようにくすくす、と笑う。






「ま、そうですよねー。先輩ごとき糞童貞が、詩羽先輩みたいな人とお付き合い出来てたらそれこそ天変地異ですよ。矢でも降ってきかねない勢いです」






「いや、それこそ矢どころか隕石降ってくるだろ、それ」






「まあ、そ、そうかしらね」


 俺に続いて、麗佳も同意する。




 そんな中、


「………………?」


 まるでありえない事でも起きたとばかりに呆然とした表情を浮かべる舞島。






「どうしたよ、いきなり。幽霊でも見たのか?」


 それが痴女メイド的幽霊だったら即刻逃げる必要があるが。




「……いえ、もしかしたら、と言うか何というか。猿にタイプライター叩かせていたら奇跡的に名作小説が生まれちゃった、みたいな」




「何を言っているんだ、お前は……」






「い、いえ……、まだそうとは決まってないですから」




 ? 何だこいつは……。割とバッサリ言うタイプの奴なので、こういう煮えきらない言動をするのは珍しいような気がする。






「ま、まあ良いです。それより、なんでこんなところに居るんですか? ロッカーの居心地でも確かめてるんですか?」




「なんだその解釈は……」


 ロッカーに居心地を求めていたとしたら、それは日常的にロッカーに閉じ込められるような奴だけだ。俺だって過去数回くらいしかそういう経験はない。






 俺はここにいる経緯を説明する。すると、




「成程、七不思議ですか。確かにそれが参加者である解釈もありますね」




「お前は何か知っているのか?」




「そりゃ話には聞いてますけど、その真相がどうかなんて知りませんよ? つうか痴女っぽいメイドってなんですか? 馬鹿なんですか?」




「すげぇ言うじゃん」


 それメイドが聞いてたら、お前殺されない? 大丈夫?




「いやいや、つうか発想がそもそも陰キャって言うか……。なんですか? 七不思議になりきって注目度上げるって……もっと他に目立つ手段考えたらどうですか? しかも痴女メイドの格好してるとか、もう救えませんね。馬鹿の極みプレイですね。あははは――――」




 と、舞島が高笑いを浮かべていたそんな時の事だった。






 ふと、視界の隅に、映ったのだった。天井にへばりついている件の痴女メイドが。








「ぎゃあああああああ!!」


 真っ先に悲鳴を上げたのは、今まで痴女メイドを馬鹿にしていた舞島だった。






「逃げるぞ!!」


 腰を抜かしている舞島を抱きかかえた俺は、先行した麗佳に続き、破壊された教室の横穴から廊下へと躍り出る。






「ぎゃああああああ!!!」




「もう大丈夫だ、舞島。どうにか逃げ切るぞ」






「彼氏でも何でもない先輩にお姫様抱っことかいう憧れシチュの一つ奪われた!? 許さまじ、先輩……。それはそれとして、助かりましたありがとうございます!」




「悲鳴の理由そっちかい」


 まあきっちりお礼言う辺り根は悪い奴じゃあないんだよなぁ……。もう少し角が取れれば扱いやすいのだが。






「とりあえずしっかり捕まってろ!!」


 逃げた先で窓ガラスを破って校舎外へと飛び出す。ここが二階で助かった。四階だった場合、フォロワーの恩恵を受けている俺達はともかくとして、場合によっては舞島の負担が大きかった。




 校舎から飛び出した後は痴女メイドはどうやら追っては来ないらしかった。俺達は一応、学校敷地内までトップスピードで駆け抜ける。




「う……おもっ……」


 学校敷地内から出た途端、舞島の体重がずっしりと腕に響いだ。




 フォロワーの恩恵がなくなれば、お姫様抱っこしながらの疾走はさすがに無理がある。




「失礼な先輩ですね、誰が重いですか、誰が。そういうとこですよ、マジで。ほら、ほら!」


 舞島は不敵な笑みを浮かべつつ、わざとゆらゆらと揺れ、俺に負荷が掛ける。




「お前……ッ! もう良いだろうが、早く離れてくれッ!!」


 俺がそう言っても、舞島は首後ろに回した腕を緩めず、それどころかさらに強く抱きついてみせる。




 さすがに腕への負担が凄い。運動部でもない俺ではきつい。






「ふっふっふ、大丈夫ですか? でも、先輩からお姫様抱っこを始めたんですから、少しくらい責任を取ってもらわないと」


「待って……そろそろ、マジでキツい。早く離れて、くれ」


 ぶっちゃけ俺が手を離せば勝手に舞島が離れるかも知れないが、さすがにこちらから手を離せば怪我をしかねない。




 しかし、そろそろマジでキツい。こんな事ならもっと筋トレしとくんだった。




 あまりの疲労に正常な判断力を犠牲にしつつも、どうにか踏みとどまる。




「ほらほら、先輩。もっと根性見せてくださいよ♪」




 そんな風に面白がりつつ、舞島がさらなる負荷をかけようとする中、




「舞島ちゃん!」


 と麗佳が普段よりもワントーン大きめの声を上げる。




「そ、それくらいにしてあげたら? ほら、円城瓦君も、もう限界みたいだし」




「……ふーん」


 と舞島は意味ありげな表情を浮かべつつも、思ったよりも素直に手を離してくれた。




 ようやく解放された俺は、ぜぇぜぇと肩で息をしつつ、乳酸の溜まった腕を気に掛ける。明日は間違いなく筋肉痛だ。




 そんな中、


「せーんぱい♪」


 と何やら満面の笑みを浮かべながら舞島が近づいてくる。






「まあまあ。先輩ってば思ったより頑張れるじゃないですか! 帰宅部にしては凄いですよね? ちょっと筋肉とか触ってみても良いですか?」




「ちょっと今、乳酸溜まってるから勘弁し――――」






「ふーん、結構筋肉あるじゃないですか。ふふ、立派ですね」




 などとまったく人の話を聞かない舞島が、俺の上腕辺りをペタペタと触る。




 なに、こいつ? 筋肉に甚大なダメージを与えたあとに、さらに筋肉にダメージ与えてくるとかどんだけサディストなの?




 などと俺が声にならない悲鳴を上げている中、


 


「………………」


 じぃっと麗佳が無言のまま、俺と舞島の方を見ていた。




 そこにはどこか恨みがましい視線を感じる。




 なんだろう、男であるならこれくらいの筋肉疲労で根を上げるなという麗佳による声なき非難だろうか。かなり温厚な麗佳にすら、そんな視線を向けられるとか……。たまにしかやってなかった筋トレ、もう少し習慣づけるか……。




「あの……マジでそろそろ手を離してくれ」


 などと舞島に向かってどうにか抗議の声を上げる中、舞島はなぜか麗佳の方へと視線を向けていた。




 えぇ……俺を虐めながら、俺を無視するとか、なんなの? 教室で無価値と定められた俺の存在感のなさも遂にここまで来たか。ステ振りミスり過ぎて、初期レベルからやり直したい。




「ふふ、分かりました、離れますよ」


 と口しながら離れる舞島。なぜか俺には言っていないような気がしたが、気のせいだろうか。








「ところで、先輩」


 と舞島がようやく俺の目を見て一言、言う。






「先輩の癖に思ったよりも、上手い事やってたんですね? 糞キモいです」




「めっちゃ筋肉にダメージ負って、そういう事言われる俺の気持ち考えた事ある?」




 おまけに麗佳は今日の別れ際までどこか不機嫌だった。


 いや、確かに今日の作戦は失敗に終わったと言って良いだろうが……、なんだろう。色々腑に落ちないのは俺だけだろうか。




 まあ、努力や行動が徒労に終わるのは、いつものことなんですけどね。





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