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第29話 ロッカーⅡ

 久々にポイント入った気がするので更新する男(過激派)

 幼い頃、深夜の学校に忍び込んだ小学生の生徒が、たくさんの幽霊に襲われるという内容の映画を見た事がある。


 どうやら昔の映画であったらしいが、たまたまテレビでのスペシャル放送で放映していたのだ。




 以来、夜の学校には本物のお化けがいるのではないかと思い、成長して幽霊なんて迷信など思うようになった今でも暗くなった校舎には独特の不気味さをなんとなく感じてしまう。




 だからこそ夜の校舎に侵入するなんて体験は必要でない限りはしたくなかったが……、状況が状況だけに仕方がない。




 俺達はフォロワーにより底上げされた身体能力を用いて、校舎二階の鍵の閉め忘れられた窓から中へと侵入。スマホライトを片手に夜の校舎を回る。




 月明かりが窓から差し込んでいるために思ったよりも暗くはないものの、昼間の校舎とのギャップを感じると言うか……、判然としない不気味さを覚えて思わず生唾を飲み込んでしまう。




 こういう時の想像力は厄介だ。廊下を歩く中、今にもいきなり教室のドアの隙間から細長い真っ白な手が伸びて中に引きずり込まれるんじゃないか、とか。そんなことばかり考えてしまう。




 しかし、それもしょうがない事だ。廊下を歩くたびにこつ、こつと足音が細長い廊下に響き渡る。そんな静寂がどうしても想像力を掻き立ててしまうのだ。




 そして、懸念事項はもう一つあった。




「うぅ……、なんでこんな事になるのよ……」


 今にも泣きそうな声で泣き言を言うのは当然、麗佳だ。




 身を丸めるようにしつつ、右手は俺の服の裾をちょこんと握っている麗佳にはいつものような快活さは見られない。ちょっとした物音にもビクリと野生の猫のような反応で驚き、その度にさらに身体を小さく縮こませる。




「……おい、大丈夫かよ」


 思わず声を掛けると、麗佳は少々恨みがましい視線をぶつけてきた。




「…………、貴方にはこれが大丈夫なように見えるのかしら?」


 眉を釣り上げつつもその目は少しだけ涙で滲んでいた。




「……お前、そんなに怖がりだったのかよ」




「べ、別に怖がりなんかじゃないわ!」




「そんな様子で強がる意味とは……」


 へっぴり腰かつ内股になっている中では説得力もなにもあったものじゃない。




「……本当よ、別にホラーは苦手じゃないもの。けど、これは少々予想外と言うか……こんな不気味な場所で平然としている貴方の気が知れないわ」






「そうなのかなぁ……」




「……、忘れているようなら思い出させてあげるけれど。私も女の子なのよ。こういう暗がりは怖いに決まっているわ」




「……、そういう事なら少し納得するよ」


 確かに考えても見れば女の子をこんな暗がりに連れて来るなんて考えても見れば、少しばかり厳しかったか。




「麗佳なんだったら、先に帰って良いぞ。なんなら明るいところまでなら送って行くよ。後は俺が調査しておくし」


 そう提案するも、麗佳はブンブンと小さくもしっかりと首を横に振る。




「……もしも、参加者が出てきたら、貴方一人じゃ危ないじゃない。そういう時のために私は居た方が良いんでしょ?」




「それはそうだが……」




 それに、と麗佳は言葉を続ける。




「私だって一人なら、こんなところには来ないわ。頼りにしているわよ」


 との麗佳。目線は合わなかったが、暗がりの中でも頬が赤くなっているのが分かる。




「…………」


 考えてもみれば、今は女子と二人きりで暗がりにいるという状況なわけだ。




 当然、作戦中だという意識はあれども、周囲が静かであるためにそれを考えずにはいられない。




 落ち着け俺……今は作戦決行中だと自分に言い聞かせるのだ……。




 そして、暫く二人で無言のまま、暗がりの校内をスマホのライトを頼りにしながら回る。




 その空気がどこかむず痒く、何か間を埋めないといけないというような責任感のようなものが芽生える。




 なに、この空気? くっそ息苦しいんですけど?




 そんな中、乃雪から連絡が入る。実は例の小型通信機を改良して、乃雪からの連絡が気軽にできるようにしてある。


 


 ナイスだ。乃雪、今この状況で間を埋められるものがあるのは正直、ありがたい。




「俺だ。どうした?」


 小型通信機で音声を繋げると、乃雪は少々焦った声で用件を伝える。




『にぃ、まずいの。今現在そっちに設定してある幾つかの監視カメラとリンクを繋げてモニターで監視してたんだけど、警備員が四名くらい見回りに入ったっぽいの』




「四名? 定期巡回にしては多くないか?」


 乃雪の下調べによると、通常、この学校での定期巡回は警備員が一人でやっているらしく、それも主要場所の見回りくらいで、廊下などを含めた細かい場所までは見回りされていないとの事だった。




 それが、四名ともなれば今俺達のいる廊下も見回り場所に含まれるのは間違いない。




 一体何故いきなりシフトが変わったんだ?




「多分、例の七不思議の事が警備会社にも伝わったのだと思うの。それを不審者によるものだと判断して一時的に警備を強化したんじゃない?」


 との乃雪の推論入り混じった回答。警備員の職務を考えれば至極、当然な対応だった。




 とは言え、俺達には現在、フォロワーによる身体能力の強化がある。聴力も強化されているから警備員の足音を感知するのはそれほど難しくない。




 だが、できる限り見つかるのは避けたい。身体能力を使えば捕まる事はないだろうが、見つかれば警備の強化が入るのは間違いないだろう。そうなればバトルロイヤルに支障を来しかねない。




「円城瓦君、こっち!」


 おそらく俺よりも聴力による感知能力の高い麗佳が先導して、静かに場所を移動する。


 


 それにより警備員は遠ざかり、校舎四階の開けた踊り場で一息ついた。




「それで、円城瓦君、これからどうするの?」




「そうだな……」


 これからとは勿論、例の七不思議の噂元についての調査だ。




 噂元の七不思議を主導している可能性のある参加者を捨て置く事はできない。噂への注目度は今も刻一刻と広がり続けており、放っておけば麗佳のフォロワーを追い抜かんとする勢いだ。ここで真相を確かめ、対策を打っておきたいところ。




 だが、そのために大きなリスクを負うのはどうだろうか。警備員に見られれば警備強化されかねない。警備シフトのさらなる強化が入れば、今以上に動きづらくなる可能性もある。




 要素を一つずつ挙げ、現在の状況と照らし合わせ行動を思案する。




 そして、




「撤退しよう。今後、この件に立ち入るかはともかくとして、今はとりあえず撤退だ」




「そうね、そうしましょう」


 と麗佳はホッとした表情を浮かべる。彼女からしてみれば一刻も早くこの場を去りたい状況であるのは当然だろう。




 そして、俺達は、警備員の足音を聞きつつ、校舎を出るべく行動を開始。




 そんな中、ふと麗佳の足が止まる。




「おい、どうした? 早く撤退した方が良いんじゃないのか?」




「え、いや、その…………」


 と煮えきらない言葉を口にする麗佳の目線はとある一点を向いていた。




 疑問に思った俺は彼女の向いている方へと視線を走らせる。




 すると、




「…………あれって」




 そこにはメイドが一人、佇んでいた。




 足音もなく、ただただ立っていたために気づかなかったのだ。




 黒色のロングヘアで、色白。どちらかと言えばスレンダーな体つきで、比較的地味な雰囲気にも思えた。




 だが、それは彼女自身の話で、彼女の着ている服に関しては間違いなく学校という場所には似つかわしくなかった。




 所謂アニメにでも出てきそうな見栄えのするメイド衣装で、ヒラヒラとしたレースの装飾に加え、胸元がぱっくりと割れて、スカートの裾はミニ。思わず「見え……見え……」と言ってしまいそうなくらい太ももが露わになっている。下手をすればその先まで見えてしまいそうだった。また、太ももの奥からは黒色のベルトが伸びている。




 さらによくよく見れば背中も大きく露出しており、肩甲骨の辺りから背中、お尻の上辺りまでも見えている。そこは網目状になっており申し訳程度に肌を隠しているが、それもまた扇情的的な様子となっている。




 そんなメイドさんを見て思った言葉は一つしかなかった。




「ち、痴女…………」


 高校生が見るにはまだ早いと思えるエロメイドを、まさか学校で発見する事になるとは……。出現場所にバグが発生してる。




 一方、俺達の姿を認めたらしいメイドはと言えば、無表情のまま息を吐き、何かを思案したかと思えば、




「…………ッッッ!!!」


 無言のままこちらに向けて猛ダッシュで迫ってきた。




「うおおおぉおおおおおお!?」


 瞬間、俺と麗佳は回れ右をして猛ダッシュで痴女メイドから逃げ出す。




「円城瓦君、あれ!? あれ、一体どっち!? 参加者と幽霊、一体どっちなの!?」




「いや、待て! もう一つ、なぜか学校で撮影しているエッチな女優さんかも知れないだろ!」




「その可能性は絶対考えたくないんだけど!! あと、そういう女優さんがあんなに速く走れる訳ないでしょ!!」


 後ろを見れば某未来からやってきた暗殺ロボットを彷彿とさせるようなフォームで迫ってくる痴女メイドは、明らかに常人の走るスピードを逸していた。




 このスピードで走る女優さんが仮にいたとすれば、その方には転職を勧めたい。




「じゃあ参加者か!? 迎い撃った方が良いか!?」


 今なら二体一でおそらく麗佳のフォロワーの方が上。明らかな数的有利で相手を沈める事ができる。




 しかし、並走している麗佳は必死にかぶりを振った。




「で、でも万が一! 万が一にも幽霊だったら、どうすんのよ!? 呪われちゃうわよ!!」




 ……あんなやべぇ格好している幽霊の呪いってなんだよ。



「良いからお願い! 今は逃げさせて!!」


 涙目で訴える麗佳に思わず屈する。そこまでされてはさすがに反論できない。




 それにこれでは麗佳も本来の実力は発揮できないだろう。今は退くのが無難か。




「こっち!!」


 先を走る麗佳の誘導で階段を一気に飛び降り、階下へと転がり出る。




 しかし、




「ヤバいわ! 挟まれた!」


 麗佳は悲鳴にも似た声を上げた。どうやら廊下の先に警備員らしき人物がいるのを感知したらしい。




 後ろからは痴女メイドが追いかけてくる。どうにか視界からは振り切ったものの、もたもたしていれば確実に追いつかれる。




「くそッ! 仕方ないな、やり過ごそう」


 俺は近くの教室を無理やりこじ開け、中へと入る。鍵が壊れただろうが、その辺は神の力で勝手に直してくれるだろう。




そして、教室に基本的に設置してある掃除用具入れへと走る。


 設置してある用具入れは二つ。それぞれに入れば姿を隠す事はできるはずだ。




 俺は麗佳に目配せしつつ、掃除用具入れへと入る。




 すると、俺の入った掃除用具入れの扉が開き、麗佳が入ってきて扉が閉められた。




 ……なに、やってんの? こいつ。




(ばっか、お前ばっか!! なんで隣の掃除用具入れに入らねぇんだよ! 二つあんだから、もう一つに入れば良いだろうが!!)




(ご、ごめんなさい!! 幽霊かも知れないメイドさんが追いかけてきて、ちょっと混乱してたのよ!! すぐに隣にーーーー)




(もう遅ぇよ! そのメイドか警備員が外から見てたらアウトだぞ!!)




 外に漏れないように小声で言い争う俺と麗佳。




 何故、体育館近くの更衣室ではきっちりとこの展開を回避していた癖に、今になってやらかしてしまうんだ、こいつは!?




 一時はそういう展開になるのも悪くないと考えていた俺だったが、この数日の間に無駄に色々あった所為で今この状況になってんのがめちゃくちゃ恥ずかしいんだが!?




 しかも更衣室での事を思い出した所為で、あの時目にした綺麗過ぎる柔肌が目の前にあると言うことに気づいてしまう。




 きめ細やかな肌、健康的かつ適度にしまった体つき、年相応に膨らんだ胸元などが手を伸ばせば遠く距離にある。しかも今回は柔肌の柔らかな感触とセットだ。は!? なんで、女の子ってこんな肌柔らかいの? マジ筋肉何処行ったんだよ、あとくっそ良い香りするのなんで!?




 などと考える内に今抱けば不味い事になりそうな生理現象がむくむくと湧いてくる。




(ご、ごめんなさい……今、はお互い我慢、しましょ……)




(お、おう……)


 待て、待て待て待て待て!!! なぜこんなにも気まずい空気が流れる!? ともすれば次の瞬間に水を求める魚みたいに目を白黒させてパクパクと口を開閉させてて果ては窒息してもおかしくはない。こういうシチュエーションって憧れる事がなくなくなくなくなくなかったが、こんなにも気まずいものか!?




 今この両手で太ももの辺りでも触ったらどうなるだろうか。いや、多分死ぬ。こいつのフォロワー考えれば、塵も残らずこの世から消えてもおかしくはない。




 だが、この両手で太もものあたりの感触を確かめたいという邪な考えが屹立して仕方がない。理性を……理性を保つのだ……。






(ちょっと、円城瓦君、腕の位置、動かすわよ)




 崩壊しそうな理性の彼方から声が聞こえる。おそらくは麗佳の声だろうが、定かではない。




 などと考えていた次の瞬間、麗佳が身じろぎをした事により彼女の一点の膨らみが背中にやんわりと当てられる態勢へと変化した。




 え? おっぱいってこんなに柔らかいの? 俺、これから死ぬの?




 乃雪、すまん。兄はもうこれから死ぬかも知れないが、あとは任せた。




 などと走馬灯までもが見えかけた中、




 ギィと横開きのドアの開く音が聞こえた。ふと我に帰る。




「…………ッ」


 麗佳の息遣いが抑えられ、息を飲む音がこちらに聞こえてきた。




 こちらも息を殺し、教室のいるであろう者の気配を探る。




 その者はゆっくりと教室へと入ってきたかと思えば、すたすたと教室の角、つまりは掃除用具入れへと近づいてきた。




 間違いなくバレているらしい。


 もしも警備員であればこの状況はかなり不味い。最悪の場合、夜の学校での不純異性交遊が疑われかねない現場だ。




 そして、掃除用具入れに手がかかり、ゆっくりと開かれた。




 開かれた瞬間、人工的な灯りによりこちら側が照らされ、暗闇に目が慣れていたせいで顔を顰めた。


 万事休すかーーーー




「……なにをやっているんですか、先輩達は」




 かしゃり、というカメラ音とともにそんな声が聞こえる。




「お前がどうしてここに?」




「それはこっちのセリフですよ。……まぁ、新しい先輩への脅迫ネタが握れたので、こっちとしては大助かりですけど」




 にしし、と小悪魔的笑みを浮かべつつ、撮った写真をこちらに見せてくるのは誰であろうかつての仇敵である舞島ニーナであった。



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