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第28話 『グループ』


「という訳で、今話した通り色々と情報を入手する事に成功した」


 自室のリビングにてソファーに座りながら、俺はそう報告する。話を聞いてくれていたのは家に居るのにもかなり馴染んできた麗佳だ。




「あら、そう」


 俺の報告を一通り聞き終わった麗佳は卓に置いてあるミルクティーを口に含みつつ、端的な返事を返した。






 ん? あれ、もっと成果を喜んでくれると思ったが、反応がいまいちだな。






「麗佳、もしかして何か引っかかる事でもあるのか」




「え? え、いや、そんな事は……」




「一応、何か気になる事があるなら、ちゃんと言ってくれよ。今はそういう場だからな」


 麗佳が家に来ている理由は当然、情報の共有も勿論だが、今後の方針をしっかり定める為にある。


 もし、何か俺の気がついていない落とし穴があるならば、適宜報告してこそこうしてわざわざ集まっている意味があるのだから。




「えっと、じゃあ……ちょっとよ、ちょっとだけ気になる事があったんだけど……」




「おう、聞いてくれ」




「貴方、どうやって舞島ちゃんから、その情報を貰ってきたの?」




「…………え?」


 何を聞かれるのかと身構えていた俺だったが、あまりにも想定外過ぎる質問につい突拍子のない声が漏れ出る。




「どうやってって……今、確認した方が良いことなのか」




「え、うん、いや……その、ちょっと気になっただけだけどね」


 歯切れの悪い返答の麗佳。今まであまり見た事のない感じだ。




 とは言え、もしかすれば言語化できないものの、何か引っかかるようなことがどこかにあったのかも知れない。そういう事は往々にしてあるものだ。




 だが、


「いや、普通に聞いたら答えてくれたぞ」


 と俺は答えるしかなかった。




 なにせ舞島の立場がある以上、俺は本当の事を言えない。




 もし『実は舞島は麗佳詩羽のファンで、お前のサイン色紙あげたら快く喋ってくれたぜ』とでも言おうものなら、俺は舞島に末代まで祟られそう。


 既に俺が色々な人から恨みを買っているのは間違いないと思うが、わざわざ要らぬモノまで買う必要はない。



 たが、麗佳は苦虫を噛み潰したような表情で、「そう……」と納得のいかない返答を返す。まさか舞島の事情に心当たりがあるとは思えないが、こればっかりは話せないので仕方ない。




 そんな中、麗佳はまたも俺の予想だにしなかった言葉を口にする。


 


「円城瓦君、貴方もしかして舞島ちゃんと付き合い始めたの?」




「ぶっふぉ!!」


 そんな言葉に俺は飲んでいたコーヒーを卓にぶちまけてしまった。




 え、なに!? こいつは今、何を言ったんだ!?




「ねぇ、どうなの?」




「お前! 俺とあいつが付き合う!? 馬鹿を言え!!」




 そんなの例え異世界転生したとしても無理だ。




「いや、もしかしたらと思って……」




「いやいや……、俺とあいつじゃ釣り合わないにも程があるだろ!! つうか俺みたいな友達すらもできない社会のゴミ同然の奴が女の子に好かれる訳ねぇだろ!! びっくりするわ!!」


 最早こちとら孤独死への覚悟が完了している身の上だ。とっくのとうにそう言う事には縁の無い身だと分かっている。




 そんな中でお前がそんな事を思っていたって俺はともかくとして舞島の奴が知ってみろ。あまりの気持ち悪さに俺の事殺しに来るぞ。




「…………ゴミだなんてそんな事ないと思うけど」

 すると、麗佳は悲しげな表情を浮かべる。


 そんな彼女に、俺は息を吐きつつ、



「そうかね、まあお前がそう思ってくれたら、少しは気が晴れるよ」

 と口にする。


 どこまでもお人好しな奴だ。そうでなければフォロワーなど伸びないだろう。俺とは正に真逆の人間だ。



 そんな中、廊下側がガチャりと空いて、気味の悪い被り物を付けた乃雪が姿を表す。


 最近はダンボールから格上げして、被り物をした状態であれば麗佳の前には出てこれるようになっていた。




 まだまだ素顔での対面は無理そうだが、こいつを昔から見てきた俺からすれば驚くべき成長である。




 そんな可愛い妹であるところの乃雪が、廊下を開けた瞬間、まるで立ちくらみを起こしたかのように床に倒れた。




「乃雪!!」


 倒れた乃雪のもとへ俺は瞬間的に駆け寄った。




「どうした、乃雪!? 何かあったのか!? 気分が悪いのか? どこか痛むのか!?」




「…………るい」




「どうした、乃雪。何か俺にできる事はあるか!?」




 乃雪の小さな身体を抱き止める中、顔を青くさせた乃雪は一言、




「……なんか、青春っぽいキラキラオーラを感じて気持ち悪いの」


 と口にした。






「……何て?」




「いやね、ノノ、基本的に青春とは無縁の狭苦しい穴蔵に住んでそうな存在でしょ? それで一生ノノには縁の無さそうなキラキラとした空間の青春粒子を浴びると、なんかお腹の底にこう黒黒としたものを感じるの。それを浴びすぎた結果、ノノはばたんきゅーなの」




「いや、その言葉はなんとなく分かるんだけどさ、なんで今?」


 もしかしてそういうアニメだか映画だかゲームでも見てしまったのだろうか。




「かーぺっ、これだからにぃは」


 今こいつツバ吐いたぞ、しかもカーペットに。




「ごめんなさいなの、詩羽さん。にぃは青春コンプレックスを拗らせに拗らせて、とうとう人の心がなくなってしまったの。頭おかしいの……」




「それ俺、お前だけには言われたくないんだけど」


 一方の麗佳を見ると、なぜかそっぽを向いていて頬はほんのりと紅い。




 ……なに、この状況。




「ノノ、天岩戸の話っておかしいと思うの。閉じこもっている中、外でガヤガヤ騒がれたら、普通に嫉妬で狂いそうになるの。だから天岩戸はリアルじゃない、糞物語なの。はい、論破なの。本日はこれにて店じまいです本当にありがとうございましたなの」




「なんでお前息を吐くように全方向敵にするの?」


 あと、こいつの言い分をなんとなく分かってしまう自分が哀しい……。




 だめだ、相手の価値観を認められるようになるんだ……、それが戦争を回避できる一番簡単で確実な方法……。






「それはそうと、にぃに言われた通り、炎動光輝と冷泉玲奈について調べてきたの」




「お、さすがだな」


 相変わらずこういった事に関しては半端ない情報収集能力を発揮するな。これで普段からの奇行が減れば……うん、無理だな。



「まず最初に冷泉玲奈って人から。学年は三年、性格は冷静かつ消極的であるにも関わらず、目立ってしまうタイプで、男子からは勿論、女子生徒の多くから羨望の眼差しで見られるタイプみたい。また、女子バレー部に所属していて、前年のインターハイではかなりの活躍を見せた事で多くのファンを獲得したみたい、なの」






 俺はタブレットに表示された写真の少女、冷泉玲奈へと目線を向ける。


 


 色素の薄い髪色をしたショートヘアで、どちらかと言えばボーイッシュな美人という感じのタイプだった。勿論、人気者であるだけに容姿は整っていて、これでハスキーボイスであれば女子生徒からの受けも抜群に良さそう。




「私も知っているわよ、玲奈先輩。クールだけど、気の遣える人って評判だもの」


 と麗佳。なんとなく機嫌は治っているようで、どこか一安心。




「ちなみにこの人はSNSの類はやっていないみたいで、これ以上の情報を調べるのはもう少し時間が必要だったの――――ただ」




 と乃雪はタブレットを操作して、次の写真を映す。




 表示されたのはいかにも明るくてスポーツ万能と言った外見をした色黒の青年だった。髪色は校則でも引っかかりそうなくらい染めていて、顔つきも大人びていた。細面であるところから、女子受けも良さそうなタイプである。




「その人が炎動光輝なの。学年は二年。性格は前向きである一方、冷静さに欠けて怒りっぽい一面のあるタイプ。サッカー部に所属していて、今年度の県選抜メンバーに選ばれていて、次期主将は確定的と言うくらいには部内での信頼も熱いの。それで、ここからが重要」




 乃雪がタブレットを操作すると、おそらくは炎動のものであろうSNSの画面が表示された。




「この人、『グループ』って組織の勧誘にSNSを利用しているみたいなの。勧誘時にはオンラインゲームと称してバトルロイヤルへの参加を集っている。その際に本当の参加者かどうかをある程度判断しているみたい。けれど、いわゆるSNSへたくさんの個人情報を流出させちゃっているタイプなの……ふふ、怖いモノ知らずなの。もうこの人の運命は乃雪の手の中なの。下手したら人生壊すくらいにはいたぶれちゃうの……所詮、リア充なんてこんなものなの」




「闇漏れてるぞ。あと、そういう倫理的にNGな事は禁止で」


 被りモノの中から「ひひひ」と獣じみた呼吸が聞こえる妹に対して、静止を促す。




「にぃは甘いの。みんな、みんな、乃雪のところまで落ちてきたら良いの。みんな最低な環境にあるディストピア最高なの」




「……なにか黒いオーラが見えてきそうね、今日の乃雪ちゃん」




「危険思想の塊かよ。……でなくて、そいつから有用な情報は取れそうか」






「うん、掘れそうなのは間違いないの。けど……情報の精査に少し時間が掛かるかも知れないの。この人、肝心要の話し合い時には通話を利用しているみたいなの。タイムスタンプからしてキー入力の遅いタイプみたいだから、多分長い話し合いの時は自然とそうしているみたい。くそっ、能力の低さが逆に身を守る事に繋がるなんて、ラッキーな奴なの」




「それで、精査にはどれくらい時間が掛かる?」


 うーん、と乃雪が唸って、三本の指を立てる。






「多分、三日くらい……なの。この人のSNSでの送受信履歴から洗って、他の人のSNSを洗えば何か出てきそう。ほんとリア充はネットに個人情報を流す事の恐ろしさを理解してないみたいで、大助かり」






「……お前みたいな特定厨がいるからこういうネットになってしまったのだろうな」


 ネットの危険の一因を我が妹が生み出したようで、申し訳なくなる。




「でも、三日で事態が好転するなら、本当にありがたいわ。さすがは乃雪ちゃんね。よしよし」




「こ、これほどの幸せをリア充ごときが味わえるとでも!? ノノは今、引きこもりであった事を誇りに思える!?」




 麗佳に撫でられた事による嬉しさでビクンビクンと丘に上がった魚を彷彿とさせる動きを見せる乃雪。引きこもりであった事に誇りを持つな。






「それはそうと、にぃ。ネット、というかこれは学校全体での事だとは思うんだけど……」


 乃雪はさらにタブレットを操作して、新たな画面を写した。




「これは……」


 そこに映っていたのは、とある個人間でのメッセージのやり取りだった。




 しかし、そこには確かに「学校でのバトルロイヤル」という言葉が表示されていた。




 しかも、かなり何気ない話の中で唐突にそのワードが出てきたのだ。




「乃雪。まず聞くが、こいつらは参加者か?」




 そんな俺の質問に乃雪はかぶりを振った。




 これが意味するところは、一つだろう。






「にぃ、バトルロイヤルの話題が学校内で広がり始めている。参加者、参加者でない人を問わず」




「ちょっと、これ、結構不味いんじゃないのかしら? どうなの、円城瓦君」




「…………どうだろうな」


 いや、当然の事ながらこんな事が表に露見したら、それは一大事だ。




 あまりにも奇天烈な事過ぎて、これが表に露見した際の影響がどうなるか。俺にもよく分からない。






 とは言え、こんな事がそう簡単に露見するはずがない。なにせ『証拠』が出てこない。




 参加者の印である幾何学模様は参加者以外には見えないし、証拠になりやすい神様の力を受けた超人的能力だって基本的には学校外ではなんの効力もない。ほかの参加者もあまりに馬鹿でないなら、関係ない第三者の前で早々露見しようとは思わない筈だ。




 よって直近で問題になりそうな事は一つ。






「戦う場の確保が問題になるだろうな」


 この噂がかなりの広範囲で広がった場合、好奇心の強い奴はその超人的な戦闘シーンを見たいと思うのではないだろうか。




 つまり、隠れて参加者同士で戦うのが難しくなる。






 例えば放課後、人気のない校舎で戦う事も難しくなってくる可能性が出てくる。






「現時点ではまだ噂クラスだと思うけど、そういう状況になりつつあるというのは頭の片隅に置いておいた方が良いと思うの」




「ああ、分かっている」


 正直、あと何人参加者が残っているかは分からないが、この神事とやらの長期化は難しくなってくる可能性がある。




 場合によっては神の奴が中止にするという可能性も……。いや、そんな事などさせるか。ここまで付き合ってやったんだ。




 つまり、今後は行動をさらに広げていく必要があるだろう。






「なら俺が今分かっている参加者のどちらかに接触するしか――――」


 乃雪の情報の精査を待つというのも一つの作戦だが、それでは状況がさらに悪くなった時に取り返しがつかない。




 しかし、そんな俺の言葉を乃雪が遮る。


「ううん、にぃ。その必要はないの。むしろ、一つ早急に調べた方が良い事がある」




「調べた方が良いこと?」




「これを見て」


 乃雪のタブレットに表示されたのは、いくつかのSNSのやり取りをキャプチャした切り抜きだろう。




 そこには全て『学校の七不思議』と書かれてあった。




「七不思議? この学校にそんなものあったのか?」


 麗佳に目線を向けると、彼女は小首を傾げた。どうやら麗佳も知らないらしい。






「今、生徒内の間で持ち切りの話題の一つなの。学校の七不思議、と言うか校内に出没するらしいメイドさんの噂なの」




 乃雪の話を纏めると、こうであった。




 現在、部活などで遅くなった生徒がふと校内の窓を見ると、瀟洒なメイドさんが佇んでいる、なんてことがあるらしい。




 通常、不審者で済ませれば良い話だが、それが突如として視界から消えるなんて事があれば、背筋が寒くなるものだ。




 それも何人も見かけただけあって、今や「校内に出没した謎の幽霊」とか「校舎が建てられる前、その地にあった豪邸に勤めていたメイドさんが化けて出た」とか様々な噂が飛び交っている。




「えぇ……なに、その話。そんな事言われたら私、夜遅くに残って参加者とバトルとかするの怖くなっちゃうんだけど」




「いや、麗佳。そうじゃねぇだろ。この話」




「え? どういう事?」


 まだピンと来ていなさそうな麗佳に対して、説明を始める。




「つまりこういう事だ。この幽霊とか噂されているメイドは参加者じゃないかって事だ」


 突如として姿を消す、なんてのはフォロワーの多い参加者がまるで消えるかのごとく高速で移動してみせたのだと言えば、説明がつく。




 しかも、話題になっている、という事はフォロワーが多くなるという事だ。こいつはバトルロイヤルの為にこのような行為に及んでいる可能性が高い。






「今はまだ詩羽さんほどのフォロワーには達していないと思うの。けど、場合によっては……」




「かなりの驚異になるって事だな。よし分かった」




「……え、え? 円城瓦君、まさかとは思うけど」




「勿論、そのまさか」


 俺はすっくと立ち上がると、麗佳に向けてこう言い放つ。






「今から学校に行って、真相を確かめるぞ」




「えぇ……」


 今までにない程、嫌な表情を浮かべる麗佳を引っ張って、俺は夜の学校へと侵入しに行くのだった。



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