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第27話 情報収集



「なんですか、先輩ってば、もうわたしと先輩の関係は切れたでしょ? なんで普通に会いに来るんですか? 来るなら普通に会いに来てくださいよ、思いっきり無視しますから」




 栗毛色のポニーテールが荒ぶらせ、もともと吊り目気味の目元がさらに釣り上がった状態で俺を睨みつけている。ついでに腕組してるから、胸が強調されている。やばいぜ、こいつは……。




「関係切れたとかって言うと、マジでなんかそういう関係があったみたいだよな」




「うわっ、きもっ……」


 などと早速の罵詈雑言を受ける事により今日の悪口ノルマを達成しつつ、早速本題に入る。






「いやな、ちょっと情報を仕入れ時たくてな」




「……情報って、つまりバトルロイヤルの情報をわたしから仕入れたいって事ですか」




「ああ、お前は話が早くて助かるよ。つまるところ、他の参加者の手がかりが今のところなくってな。少しばかり情報が欲しかったんだよ」




 昨日、麗佳とも話し合ったのだが、次の攻略目標についての手がかかりがさっぱりなかったのだ。




 そんな中、妙案を思いつく――――そうだ、舞島に聞こう、と。




「そんな訳で今に至る」




「そんな訳じゃねーですよ、このすっとこどっこい」


 呆れたようにあんぐりと口を開く舞島。なんかレアな罵倒が飛び出したな、今イベントスチル出たかな? 




「いや、お前仲間もいなかったみたいだし、もうバトルロイヤルには関係ないし、別に良いだろ、減るもんじゃないし」


 すると、舞島ははぁ、と溜息を吐く。




「……あのですね、確かにわたしにデメリットはないようですが、メリットもないじゃないですか。あと、なんでわたしを倒した相手であるところの貴方達に協力しないといけないんですか。警察呼びますよ?」






「普通に怖い脅し文句は止めろ」


 そんなにべもない返答を受けてしまった俺だが、当然だがこの状況を予期していないわけがない。


 このクソ生意気な小悪魔系後輩が、俺の頼みを普通に聞いてくれるはずなどないのである。




 というわけで、




「当然、手土産がある。俺達に有益な情報をくれたら、それを渡す」


 早速、俺は買収工作へと走る。実弾打つのは手慣れたものよ。




「はぁ? 先輩の手土産? なんでそんな童貞臭そうなもの受け取らないといけないんですか? 知ってますか、アイドルへのプレゼントって大体がゴミ箱行きだそうですよ? 信用できない人からもらったプレゼントなんて怖いだけの代物で、つまりわたしが先輩からの手土産なんて受け取るはずが――――」




「ここにあるのは麗佳詩羽の直筆サインだ」




「まあわたしに対してデメリットはありませんし、話してあげても構いませんよ? 良かったですね、わたしが縦社会を重んじる礼儀正しい後輩で」




「ツンデレかな?」


 あと、ちょロインかな?


 まあ実のところ駄目元ではあったのだが、釣れてくれて助かった。




「それで、聞きたいのはバトルロイヤルの参加者の事ですよね?」




「勿論だ」


 それがわかれば苦労は軽減する。


 


 前みたいにほか参加者を体よく探れそうな学校行事などがあれば良いのだが、生憎校内球技大会までは禄なイベントは起こらない。




 普段からバトルロイヤル参加者については探っているが、どうやら身近にはいないらしい。基本このバトルロイヤルはリア充有利であるからして、リア充に注意を向けるのがセオリーだ。それでも奴等がボロを出してはくれない以上、クラスメイトや合同クラスの奴ら辺りにはいないと思った方が良いだろう。




 なお、麗佳からの返答もそんな感じだった。索敵能力、この辺が交友関係の少ない俺達の最大の弱点とも言える。




「だったら、割と良い情報持っていますよ、わたし」


 そんな中、舞島は期待の持てる事を口にする。




「先輩は『グループ』って知ってますか? いや、まあ先輩ごときが知る訳ありませんよね」




「勝手に簡潔するな」


 いや、まあマジで知らないんだけど。




「簡単に言えばバトルロイヤルで徒党を組んでいる連中の事ですよ。そいつらが『グループ』って名乗っているそうですよ」




「はぁ!? 徒党を組んでいるだと、卑怯すぎるだろ!」




「どの口がそれを言うんですか?」


 いや、まあ分かっていて、言っているだが。




 成程、バトルロイヤルがスタートしてからもう一週間は経過している。そうなれば、利害の一致した者達同士で徒党を組むのは当然だ。




 しかも負けた者でも大したデメリットはない。そうなれば少なくとも仲間の一人を勝たせた方が合理的とも言える。




「それを知っているって事はお前……」




「ええ、一度わたしも『グループ』に誘われています」


 舞島はかなりの爆弾発言を口にする。




「マジ? つまり、お前仲間がいたのか?」


 そんな俺の言葉に舞島はかぶりを振った。




「いえいえ。タイミングが悪かったんですよね」


 舞島の話を要約すると、どうやら『グループ』に誘われたのが先週の土曜日であるらしい。




 その時には舞島は既に攻撃対象を麗佳詩羽に定めていた。


 ただ、『グループ』に入ってしまうと、その方針を一度変えないといけなくなる。




 さらに舞島は個人的感情から麗佳とは一人で戦いたがっていた。




 それもあって加入を断ってしまったらしい。




「まあ、詩羽先輩と先輩をぶっ倒したら、加入しても良いとも思ってたんですけどね。ひとまずは」




「ひとまずはって事は、お前そいつらの事裏切る気満々じゃねぇか」


 すると、舞島はにっこりと笑ってそれ以上の事を言わない。なにこいつ、怖いんですけど……。




「まあ言っちゃうと方針の違いって奴ですよ。『グループ』ではある一人の願いを叶えるために動いている組織だそうですよ。」




「一人?」




「ええ、その中の一人の願いを叶えたいそうで、他の人達はそれに協力していると言うか、協力させられていると言うか……つまりは縦社会特有のあれですよ」




「ああ、なるほど……」


 つまり先輩だかなんだかの命令に抗えない集団って事か。




 このバトルロイヤルは基本的に日常と地続きに存在している。叶える願いにもよるだろうけれど、このバトルのためだけにすべてを犠牲にするのは難しい。何せバトルロイヤル間で敵対関係になれば、否が応にも日常に影響を及ぼす。

 それこそある程度構築された人間関係の中にいるであろうリア充達にとっては、日常の方を優先する奴もたくさんいるはずだ。




 つまり『グループ』はそういう連中による組織という訳だ。




「わたし、普通に叶えたい願いがあったので、利用するだけ利用しようと思ってんですよ。それに利害の一致ならともかく縦社会の構造に従うだけってのも癪なんで」




「お前そういうところは格好良いな」




「そうですか? まあ、自分を殺してその場に居座るキョロ充は嫌いってだけですよ」


 ああ、そういう言い方ならちょっと分かる。




 キョロ充なぜかすっげぇ嫌われるもんなぁ……。なんだろう、日本人にとっては同族嫌悪的な存在なのだろうか。




「ところでそいつらの名前とかって知らないのか? 誰が在籍しているか、とか」


 そんな風に俺は核心であるところに迫る。




 そいつらの名前がわかっていれば、場合によっては各個撃破も可能になってくる。




 しかし、




「いえ、わたしも所属した訳じゃありませんので、全員の名前を知っている訳じゃありませんよ。けれど、既に十数人は在籍しているそうですよ」




「……多いな」


 思っていたよりもずっと数が多かった。




 こりゃ正面から当たれば、例え麗佳詩羽がいたとしても間違いなく負ける。




 あいつは強いが、それほど万能ではない。戦いどころを間違えば全滅するのはこっちに決まっている。






「でも、何人か知っていますよ。教えましょうか?」




「ホントか、助かる」


 何人かでも知っていれば、それこそ攻略のヒントにもなるし、情報をそこから入手できる可能性もある。






「では、その前に……ほら、渡すもの、あるでしょ?」


 舞島は適当な手提げバックに入れた麗佳詩羽のサインへと目線を踊らせる。




「ああ、まあ構わないけど」


 そう言って俺が手提げバックからサインを取り出そうとすると、




「あ、待ってください! そのまま、そのままで良いです! 先輩が触ると価値が下がりそうなので!」




「いや、それは酷くない!?」




 幾ら俺でもそれはちょっと傷つく。あと、その昔女子に偶然触っただけで、泣かれた事思い出した。女子ってなんなの? 触っただけで傷つくの? J-POPの歌詞かよ。






「やった、やったぁ! 麗佳詩羽のサイン! 本物だ! どこに飾ろうかなぁ! ……こほん、嘘じゃなかったみたいで、良かったです」




「いや、なに取り繕うとしてんだよ」


 かなり無邪気にはしゃぐ姿初めて見たわ……。あと、今のを麗佳に見せてやったらかなり嬉しがりそう。さすがに舞島の事を考えると無理だけど。




「では、約束は守りますよ。どうやら『グループ』の中心は三人みたいです。それが中心となって勧誘したり、他の参加者を潰したりしているみたいですね。その内の一人が――――炎動えんどう 光輝こうき先輩です」




「なんかリア充っぽいと言うか、漫画の主人公っぽいと言うかな名前だな。顔写真とかあったりしない?」




「名前教えたんですから、それくらい自分で調べてくださいよ」




「いや、俺、顔写真とかないと基本的に人の名前憶えられないんだよね」




「ああ、それは確かに先輩っぽいかも知れないですね。基本的に人との関わりを持っていないから顔認識の能力が退化したんでしょうか」




「そうかも知れないな……。つうか、なんで他の奴は普通に顔憶えられるんだ? 基本的にみんな顔のパーツ同じだから、特徴ないだろうが」




「先輩ってば壁のシミと人間の顔の区別ついてなさそうです死ね」




「なんかさらっと物凄い罵倒の言葉浴びせなかった?」


「DEATH死ね」


「悪意100%だな」


 隙あれば罵倒してくる辺り、もうノリで言ってるだろ、お前。




「と言うより顔なんて人との関わりが多い人ほど慣れて憶えられるようになりますよ。わたしのパパ……じゃなかった、父は人と会う事の多い仕事だそうですけど、顔一発で憶えますよ」




「パパ」




「先輩のそういう空気読まずにすぐ人の揚げ足取ろうとするとこほんっと嫌いです」


 身体をすくみ上げる舞島。いいじゃん、たまには。そういうとこでしか俺、お前にマウント取れないし。哀しい生き物だな、俺。




「あと、冷泉れいぜん 玲奈れいな先輩も『グループ』の一員とかって聞きましたよ。どちらも校内での有名人ですから、強いと思いますよ。一時期のわたし程ではないと思いますけれど」




「なんだこいつ自己顕示欲の塊か……」


 すっごい自分アピールしてくる。いずれネットで炎上しそうだ。






「知っているのはこの二人ですね。勧誘の時にこの二人が所属してるからってPR半分、脅し半分で言われましたから。ちなみに当然、勧誘された時に声掛けたのは知り合いなんで、知っていますけれど、その人の名前は口外できませんよ」




「どうしてだ?」




「友達だからですよ。先程の二人は知り合い程度なんでどうでも良いですけど、友達の情報売るのはちょっと……」




「律儀なこって」




「こう見えてリア充ですから」


 とよく分からない返答を言ったところで、気づく。確かにリア充って身内には優しい生き物ってイメージだ。






「あと、その友達の娘が参加者でないって可能性もありますしね」




「そうなのか?」




「そりゃそうでしょ。メッセンジャーだけ努めている、とか。『グループ』が縦社会で構築されているなら、そういう事も起こり得るんじゃないですか?」




「…………確かにな」


 言われてみればこのバトルロイヤルは神的パワーだとか、不思議な能力だとか、常人には理解しがたいところもあって、暗黙の了解として秘密裏に行うものだとは思っていたが、あまり広まりすぎない程度であれば、参加者でない一般生徒を巻き込む者が現れてもおかしくはない。




「ちなみにさっきの二人が中心人物とは限らないので、注意した方が良いですよ。そうですね……、わたしが先輩の立場なら今は手を出さないで様子を見ますね」




「一応聞くが、どうしてだ?」




「そりゃ、『グループ』の情報が少なすぎるからですよ。思わぬ反撃をもらっても困りますし、戦力の規模も分からない。そういう輩は放っておくに限りますね……ってどうせ先輩もそれくらいの事は考えているんでしょ?」






「そりゃあ、まあな」


 バトルロイヤルで重要なのは戦力の規模もそうだが、無論情報が一番の武器だ。




 さらに言えばこのバトルロイヤルは基本フォロワーの奪い合いで勝敗のほぼ九割が決まる。実際には情報戦による戦いなのだ。






 だったら、下手な手出しで巣穴を突くよりも少しばかり様子見するのも悪くない戦略だ。




「あと一つ、先輩に情報を教えてあげますよ。まあこっちはどちらかと言うとあまり聞きたくない情報だとは思いますが」




「……なんだそれは」




「あくまで噂なんですけれど……うちの『会長』も、参加者かも知れないそうですよ」




「……本当か」


 それを聞いただけで、俺はその情報が誤報である事を信じたかった。




 会長と言えば、うちの高校では一人しかいない。勿論、俺も知っている。知らないはずがない。




 だが……正直、絶対相手にしたくない。




 『あの』生徒会長が参加者だとしたら……あまりにも不利すぎる。




「ま、しっかりしてくださいよ。なにせ先輩はこのわたしに勝ったんですからね! 糞みたいな負け方したら許しませんからね」




 などというツンデレ的な激励を受けつつ、俺は今後を決める重要な情報のいくつかを入手する事に成功したのだった。



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