第25話 決着
「良かったですね、先輩。どうです? いたいけな後輩をボコボコにして、トラウマを払拭できる貴重な機会を奪い去った気分はどうですか?」
「……いや、すげぇ誤解生みそうじゃん、その言い方」
「でも事実ですし」
「事実……なのかも知れないけどさ」
橙色の陽が教室へと差し込む。かつて舞島と俺が初めて対面した教室、そこに俺と舞島は二人でいた。
舞島は教卓に座り、足を組みつつ、目の前の席に座った俺を睥睨としている。無論、スカート下からちらちらと覗く太ももに目を吸い込まれるのは仕方ないと言えよう。
現在は授業が終わり、放課後。時刻は既に下校時刻手前に差し掛かっている。
ちなみに舞島との勝負は既に終わり、今は一息吐いているところ。
結果は言わずもがなだが、俺による策が見事当たった事で麗佳が舞島のフォロワーを大きく上回った。当然、舞島も学校随一の人気者らしく大きく抵抗してみせたが、麗佳にはあと一歩のところで及ばなかった。
ちなみに俺はと言えば、麗佳と舞島による戦闘を尻目に、離れたところからその戦況を見守っていた。いや、だって下手に近づいて戦闘の余波受けて気絶したらそれこそ台無しだから、しょうがないね! ……我ながらこう言うところだと思う。
「ふふっ、それにしても見ましたか、先輩? わたしが頭を下げた時に見せた詩羽先輩の表情ったら! あの人のあんな顔初めて見ましたよ!」
麗佳が舞島に勝利した時点で賭けは俺の勝ちとなった事から、舞島は約束通り今までの非礼を麗佳に謝っていた。
これには麗佳も意外そうな顔をしていたが、最後には舞島相手に笑顔を見せていた。
これまでの事からそう簡単に二人が仲良くするなんて事は勿論ないだろうけれども。しかし、麗佳はあれで懐の大きいところがあるし、舞島にしたって少なくとも一部分に関しては麗佳の事を認めている。どうにか収まりの良いところに落ち着きそうで何よりだ。
「ふふ、これからあの人に対して私が慕うような態度見せたり、あまつさえ抱きついてみせたりしたらどうなるんでしょうかねぇ……。ああいう間抜け面をまた見られるかも知れませんね。案外、そういう路線もありか」
「……………………」
前言撤回。まだまだ打ち解けるには時間が掛かるらしい。
「それなら舞島。お前が麗佳に実はファンだったって明かしてみたらどうだ? かなりのドッキリになると思うけど」
「それはごめんです。あくまでわたしは隠れファンとして振る舞うので」
「そこは頑固なんだなぁ……。ちなみに麗佳の直筆サインとか要る?」
「なんですか? 馬鹿にしているんですか? 一万だったら即用意しますけど!? それ以上はお小遣い溜まってからでお願いします!」
「ガチファンじゃん……」
ちょっとからかうつもりだったんだけど……、この反応見せられたらどうにか入手するしかないじゃん。なんだったらさっき一瞬ガッツポーズするの見えたし。からかい目的とか言ったらマジで殺されそう。乃雪へのプレゼント用とかって言いつつ、麗佳に書いてもらうか……。
「それにしても舞島」
「なんですか? わたしのサインならあげませんよ?」
「要らねぇよ……そうじゃなくてお前、負けた割にはいやに機嫌良さそうだなって」
実のところ、その辺りが俺は気になっていた。
すると、
「機嫌良さそう? いきなり何わたしの事を分かった風な口を聞いてるんですか?」
などと返されてしまう。
しかし、それもどこか機嫌が良さそうに思える。
何故だろうか。そもそも俺は勝負が終わったあとに舞島と話すつもりなんて無かった。バトルロイヤルで負けたのであれば勝者に対して多少なりとも怒りを覚えるのは当然のように思える。
だから、勝負のあとに舞島に呼び止めれた時、俺はビンタくらいされるのは覚悟していた。相手の願いを潰すのだからそれくらい甘んじて受けようと。
だが、舞島はそんな事をするつもりは毛頭無さそうだった。
「別に。ただ、わたしの願いは別の形で成就した、そう思っただけですよ」
「別の? それって――――」
「なんでもないですよ。ただ、そんな気がしたってだけで大した事じゃありませんから」
それに、と舞島は続ける。
「わたしにとってバトルロイヤルなんてそれこそ人生におけるちょっとしたお遊びみたいなものですよ。負けたところでわたしの人生は終わらないし、なんならまだまだやる事はあるはずです。そうでしょう?」
「……まぁ、そうかも知れないな」
舞島は多少叶えたい願いがあったかも知れないが、彼女は人生においてそれなりに報われている方だろう。少なくとも学生の中では。
もし、そうであるなら、バトルロイヤルで負ける事なんて大した問題でもないのかもしれない。
「……どうやら先輩にとっては違うみたいですけど」
「そう見えるか?」
「だって先輩、底辺ですし」
「言うなぁ……」
とは言え、舞島の言葉は的を射ている。
俺は自分の命を賭してでも叶えたい願いがある。
こんなところでは――――負けられない。
「ま、このわたしに勝ったんですから、少しは善戦してくださいよ、先輩も」
「そりゃ、どうも。お前もダンス大会だっけ? ぶっちゃけよく知らないけど、応援してるよ」
「……お気持ちだけは受け取っておきますよ。言われなくても頑張りますけどね」
そう言って舞島は立ち上がる。そして、おもむろにスマホを見つつ、言う。
「…………。ただ、先輩はバトルロイヤルの前に頑張らないといけない事があるかもですよ」
「前に? なんだよ、それ」
怪訝な表情を浮かべる俺に対して、舞島はびしっとスマホ画面を突きつけて、言う。
「ほら、わたしの友達間でも話題になっているみたいですよ? 『あの糞気持ち悪い先輩が放送室に勝手に忍び込んで、昼休みに流す曲を勝手に変えた』って」
「…………えぇ」
俺は舞島の示したスマホ画面を見やる。
すると、確かに俺の話題が話されていた。軽めでこそあるものの勿論、『炎上』という形で。
どうやら昼休み前の授業時間中にトイレだと言って抜け出した際、こっそり放送室に忍び込んでいたのをたまたま見かけた奴がいたらしい。
どうやら俺の勝利のためには、いつものように犠牲がつきものであったようだ。
そんな中、教室に設置されたスピーカーから前置きのチャイムが流れたあと、渋い男性教諭の声が校内に響き渡る。
『――――円城瓦太一、まだ校内にいたら至急、職員室まで来るように。繰り返す――――』
どうやら今回の炎上事は教師の耳にも届けられてしまったらしい。炎上内容的に証拠写真まであるらしく、言い逃れはできないっぽい。
わざわざ教師に言わなくても……と思わないでもないが、それこそ隙を見せた俺が悪い。放送室に忍び込んだ際に、もっと慎重になるべきだった。
「あははは! 先輩ってばこれから怒られるんですね! だっさ、だっさ! わたしの事を裏切って詩羽先輩なんかに付くからですよ! ばーか」
「……、負けた癖に随分デカい態度してんな、ニーナちゃんは」
「ほんっとその名前で呼ぶの止めてくださいよ! まったく……人の嫌がる事をするなって教わってないんですか!?」
「お前がそれ言う?」
そんなこんなで俺は教師数人にこってり絞られた挙げ句、大量の反省原稿を提出する事により、どうにか許されたのだった。
ちなみに今回の炎上により微妙に俺のフォロワーが上がってた。……他人からの評価が下がった事を数値で分かるのは時としてちょっと辛い。




