第19話 誘い
感想を見返す事により活力を経て、さらに更新する男。好循環じゃん!
「ひとまず話を戻すぞ。どうして、俺と麗佳が参加者だと分かったんだ?」
「勘……って不確かなモノじゃないんですけど。まず詩羽先輩があの更衣室使ってんのおかしいなって」
あの更衣室とは前日の身体測定で作戦を結構した更衣室の事だろう。あそこは基本的にリア充が使うものって共通認識が生徒間にある。
「どうしただ? 麗佳がみんなの憧れだし、使っていてもおかしくないだろ」
「いや、どうでしょう。詩羽先輩ってスペックめちゃくちゃ高いですけど、ぶっちゃけぼっち気質じゃないですか」
「……お前、それに触れてやんのは止めてやれよ、ホント」
「違いますよ、ぼっちは事実ですけれど、それ以上に詩羽先輩って気質がもうぼっちなんですよ。変に気遣うタイプって言うか、色々気にしぃっぽいっていうか……、色々消極的なんですよ、あの人」
「……ああ、まあそういうタイプかもな」
数日、あいつと行動を共にして分かったのは、あいつは人付き合いに対して一歩退き気味と言うか、どうも気遣いが過ぎるタイプである気がする。
こう言うタイプは確かにリア充的と言うよりはどちらかと言うと、ぼっちタイプっぽい。
「だからああ言う場所で着替えるってよりは基本、教室で着替えるタイプでしょ、あの人。それに加えてなんとなーく視線感じてましたし。それでピーンと来たんですよ、参加者かもって」
俺のたれ込み関係なしに若干疑われていたのか……。
それにしたってこいつ、意外と勘鋭いな。
「それで、なーんか証拠掴めそうだなって思って、友達と別れてそれとなく更衣室の方見張ってたんですよ、そしたらもう笑っちゃいましたよ。なにせ先輩が出てくんですもん。さすがに詩羽先輩が痴漢を手引きしたとは思えないから、もう参加者で確定じゃないですか。わたしってホントついてる♪」
「そりゃ、まあ、失策だったな……」
俺、今日の朝、『アドバンテージはこっちが握ってる』とか考えてたんだけど……。馬鹿かな?
「ん、あれ? そう言えば、あの状況で詩羽先輩が先輩を庇ってるとしたら、先輩は詩羽先輩のロッカーに入っている訳で、それで詩羽先輩は確かキャミソール姿になって、それでロッカーにはちょっとした隙間が……、……………………、あのちょっと良いですか、先輩」
「何でしょうか?」
どうやら要らぬ事にまで気づかれたらしい。俺は判決を下される前の死刑囚のような面持ちになる。
「ぶっちゃけ、わたし、先輩は覗きって行為までしたとは思ってないんですよ。詩羽先輩と一緒だった時点でそういう事ができたとは思えなかったし。けど、その……もしかして、あの時、詩羽先輩の事、……覗いてました?」
「…………」
「うーわ、さいっていですね、ホント」
舞島の目つきがゴミを見る目つきに変わる。おおう……、普通に話していた手前、こういう目つき向けられると、常時蔑まれるよりきついな、マジで。
「それ詩羽先輩は知ってんですか? 何て言ってたんですか?」
「知ってて一応、許してくれたな」
「聖人君子ですか? ……ちなみにわたし達は覗いてませんよね?」
「それはマジで覗いてない」
「それは、……まあそうなんでしょう。でも、うわぁ……、わたしとしても良いネタ入手してるし、これ以上何も言いませんけど……、詩羽先輩凄いですね。わたしとしては、この件に関しては他人事なので、これ以上追求する気もないですけど。でも、うわぁ……」
うん。蔑みの視線に慣れているとは言え、これは普通にきついわ。死にたい。
結構鉄の意志で覗かなかったんだが……、まあこの蔑みは仕方ない。甘んじて受け入れよう。
「それにしてもお前、何で麗佳の事、あんな敵視してんだ?」
この話題では体裁が悪すぎるので、かねてより気になっていた事を尋ねる。
すると、
「それを先輩が気にする必要がありますか?」
と返された。
つまりは聞くなと言う事であるらしい。
「ま、少しだけなら教えてあげても良いですけど。昔、わたしは詩羽先輩から酷い事されてるんですよ。それで、ちょっと敵対モードって訳です」
「酷い事ねぇ……。あいつがそんな事するとは思えないけど」
麗佳はここ数日から分かる通り、意味もなく人をイビったり、嫌がらせするタイプじゃない。しかも、あいつはその事に憶えがない。恐らくだが、事実だろう。
「腑に落ちないって顔してますね。分かりますよ? あの人自身はわたしから嫌われている事実に見に憶えがないんでしょ?」
だからむかつくんですけどね――――と舞島は静かに言う。
「わたしと先輩の事について教えてあげるのはここまでですよ。そんな事はさておき、詩羽先輩を裏切ってもらいますよ。そして、あの人を一緒に倒します。良いですよね? せーんぱい♪」
※※※
その後、俺は舞島に麗佳と俺の信仰度や現在までの対戦経験、麗佳や俺の戦略(『炎上』によるフォロワー集め含め)などバトルロイヤルに関わる情報を全て開示させられた。
その上で俺は「わたしが詩羽先輩を倒せる算段を立てますから、それまで待機でお願いします。裏切ったら……分かってますよね?」との念押しをもらった上で開放された。
正直、今この状況で舞島を攻略できる算段はない。
なにせこのバトルロイヤルはかなり特殊だ。その内の一つが、参加者が脱落したところで死んだりしない事が挙げられる。
例えば舞島のスキを突いて、あいつを倒したとしてもそれで舞島が死ぬわけではない。
つまりバトルロイヤルから舞島が脱落したとしても、舞島はその後も日常生活へと戻るだけだ。脱落した姫崎は今日も元気に学校へと来ていたのだから、それは間違いない。
つまり、舞島を倒したとしたら、その報復として舞島はあの写真を然るべき場所へ流すだろう。そうなってしまえば、俺は破滅するしかない。
つまりどう考えても俺は舞島を裏切れない。……まぁこのバトルロイヤルが相手を殺せてしまうなんてルールなら、それこそ俺は何がなんでも参加を拒否しただろうけど。
現状、俺は麗佳のスパイとなるより他に道はない。
正直、あまり考えたくはなかった。
麗佳はいずれ敵となる存在でこそあるが、それは別に今でなくても良かった。
それはあいつが仲間として役立つからでもあり、仲間として結構うまくやっていけそうだからでもあり、
そして、あいつが存外良い奴という理由意外には他にはない。
俺は自分が合理主義者であるという自覚がある。必要であるならば、目的を実行するために冷徹にもなろう。
しかし、そこに感情を挟まないなんて奴には決してなりたくない。
俺は親父とは違うのだから――――
しかし――――なんて論点がループしそうになる。
もう結果は出ている。俺は麗佳を裏切るしかない。俺は目的を達成しなければ――――乃雪を救わなければならない。
その為なら、麗佳を犠牲にする覚悟がある。
くそっ、結論が出ているのに俺は何故こうも恐れている?
俺は学園の連中が言うように最低な人間で、クズで、糞で、人間性の欠片もないスクールカースト最底辺の陰キャで間違いない。俺はそれを間違っているとはまったく思っていない。
今こそそうした自分になってしまえば良い。ただ、それだけなのだ。
よし――――そうしよう。今すぐにでも作戦だと称して麗佳を学校に呼び出して、罠を――――――
「――――円城瓦君ったら、死にそうな顔してるけど、大丈夫?」
はっとして顔を上げる。場所はまだ学校の校門から出たばかり。
俺は彼女の予定を確認しているし、彼女自身も先程「用事だ」との事で帰ったのを知っている。対策会議の延期についてのメールも送信している。
だから彼女が、ここにいるはずがない。
だが、そんな俺の目論見からは外れ、ここにいる筈のない彼女――――麗佳詩羽がそこにはいた。




