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第18話 放課後の邂逅

 放課後、死んだような目で一年生の教室棟へと向かう。元々死んだように覇気のない目なので、最早ゾンビにしか見えなかったと思う。実写ハリウッドからの出演依頼来ないかな?


 ちなみに麗佳に対して「本日の舞島についての対策会議は延期しよう」という旨のメッセージを送ると、麗佳からは「用事があるので丁度良いわ」との返信が返ってきた。既に先に帰宅しているらしく、これからの事を考えれば都合が良かった。


 バトルロイヤルの参加者が俺にとって非常に都合の悪い情報を握って、かつ俺を呼び出すという事はつまりはそういう事なのだろうから。


 俺は指定された場所、空き教室の扉を開ける。

 放課後、しかも授業終了から一時間半近くは経過している。外からは部活動生による掛け声などが聞こえてくる一方で、教室棟からは人気はほとんど感じなかった。


 そんな空き教室に、舞島はいた。


「あ、先輩、来てくれたんですね」

 空き教室の真ん中あたりの机の上に腰掛けていた舞島は、俺が来たのを認めると立ち上がり、人懐っこい笑みを見せた。


 ともすれば惚れてしまいそうになる。おっぱい大きいし。


 まあそんな訳にはいかない。つうか惚れたところで玉砕して、SNSに晒された挙げ句、俺の黒歴史が一つ更新されるのは明らかだ。と言うよりも俺を脅迫しておいて、なおあんな表情を浮かべられる相手に惚れるのがそもそもの間違いだった。


「始めまして、先輩。わたしは一年の舞島です。えっと、わたしの事はご存知ですよね?」

 彼女の言い方は『有名人のわたしを知らないわけがないですよね』という言葉が暗に含まれていた。自信家であるらしい。


「……俺は円城瓦太一だ。宜しくな」


「ええ、先輩も『有名人』らしいですよね、噂は聞いたことありますよ。……んー、噂ほど気持ち悪い見た目はしてないですけどね」


「……それって、どんな噂を耳にしたか、確認しても良い?」


「良いですけど、絶対泣かないでくださいね?」


「そんなきつい噂なんだ……」


「わたしだったら……そうですね、すぐに仏門に入りますね」


「悟らないといけないレベルなんだ……」


「良いじゃないですか、お坊さん。将来の心配が減りますよ?」


「暗に俺がハゲる事を示唆するのは止めろ」

 ……え、大丈夫だよね? 四十くらいまでは持つよね……?


「ふふっ、先輩は面白い人ですね。もっとやべぇ、ゴミみたいな人が来るかとばかり思ってましたよ」


「噂的にはゴミみたいな奴なのか、俺って」

 まあSNSとかの書き込みみても、噂を総合したら客観的に見て俺、かなりのゴミだしな。しかも学校では存在感皆無だから、むしろ噂の俺の方が存在感があるまである。ネットに住まうタイプの怪物みてぇだな、俺……。


「それで? 俺をどうしたいんだ?」

 お互いに自己紹介も済ませたところで、本題に入る。正直、写真の事が気がかりで正気を保ってられないので、用件ははやく済ませたい。



「じゃあ一つ確認させてもらいますね?」

 そんな中、絶対的有利に立っている舞島は実に楽しそうだった。いや、まあ楽しいだろうな。


 なにせ舞島は俺の人生を握っているに等しい。あいつの機嫌次第で元々終わっていた俺の人生は完膚なきまでに壊される事になる。その立場が楽しくない訳がない。


 そんな舞島は俺に言う。


「先輩ってもしかしなくても『参加者』ですよね?」

 

「参加者? なんの事だ、頼むから写真の件は黙っていてくれると――――」


「しらばっくれないで下さいよ、先輩。もしウソだったら、わたし、写真データをうっかりSNSかなんかに流出させちゃうかも。それに参加者かどうかは肩見れば分かるんですから。もし肩を見て印があったりなんかしたら……ふふっ、その時、先輩は性犯罪者としても有名になっちゃいますね」

 

……まああっちも何かしらの根拠があってこの話題を振っているのだろう。下手な誤魔化しは逆効果になるに違いない。


「分かったよ、俺は参加者だ。それで、どうする? 俺をバトルロイヤルから退場させるか?」


 そう言いつつ、俺は「炎上」のネタの投下すべく、事前に待機してもらっていた乃雪にいつでも連絡を送れる体制を整える。


 正直、写真のネタを然るべき場所に提出された元も子もない。俺は然るべき処置を受け、停学か退学――――親父からは乃雪との二人での生活を奪われるだろう。


 だが、そんなどうしようもない状況でも神様の願いでならどうにかできるかも知れない。


この件で『炎上』すれば、それさえも俺の力に……なんてお気楽に考えられたらどんなによかったか。


つまり停学か退学になった俺に果たして神様の加護とやらを受けられるのかが問題になる。


 神様は学校の敷地内でなければ力を行使できず、さらには信仰の対象者は学校内関係者でなければならないという限定条件がある。なら停学者、あるいは退学者はその範疇に入るのだろうか。


このケースまでは想定しておらず、神様への確認を済ませていない。


 とは言え今、負ければそれで終わりなのだ。場合によってはやるしかない。


 だが、俺は舞島の返答を待った。今回、予め『炎上』させていなかったのは、舞島は交渉の余地があるかと思ったからだ。


 こうして呼び出して話をしている時点でそれは間違いない。予め『炎上』させていないのはその為だ。『炎上』は同じ人間が、似たようなネタを何度も投下すれば次第に注目度を失っていく。よって大事を考えれば、安易に『炎上』は使いたくない。


 そうして返答を前に緊張する中、舞島は口を開く。


「まあわたしとしても最終的には先輩もぶっ倒す予定ですけれど。でも、それはまだです。わたしは先輩と交渉がしたいんですよ」

 その言葉に俺はポケットの中のスマホから手を離す。少なくとも今は延命できているらしい。


 とは言え、この交渉が俺に有利なものではない事は明らかだった。



「先輩、詩羽先輩を裏切って、私と手を組みませんか?」

 そう来るか……、とは言え予想外であったとは思わなかった。


 舞島は俺に対して命令を好きにくだせる、絶対的なカードを手に入れている。さらに心臓を握られているに等しい俺は、舞島を裏切る事ができない。


 裏切らない仲間がバトルロイヤルでいるなんて、それほど有利な状況はない。バトルロイヤルで仲間を作るのは一種常套手段と言えるだろうが、常に悩まされるのは組んだ仲間からの裏切りだろう。


 俺は麗佳の性格上、早々裏切る事はないと思っている。しかし、万が一に備えて奥の手は用意している。


 だが、その恐れが一切要らないというのは普通に考えて最高だ。

 だからそう来る可能性があるのは最初から分かっていた。


 まあ「自害しろ」と命令をくだされるよりは、いくばくかマシだったと言ったところ。


 この場合、話を受け入れるより他にない訳だが……、その前に最後の抵抗はしておこう。


「麗佳? なんでそこで麗佳が出てくるんだ? あいつは参加者なんかじゃ――――」



「せーんぱい♪」

 舞島はそれだけ口にしつつ、にこりと笑った。


 ……何が言いたいかはそれだけで分かってしまう。



「……分かったよ。麗佳も参加者で、俺はあいつと手を組んでいた」

 麗佳、すまん! と俺は心中で謝罪する。


情報の流出。これもまた、バトルロイヤルで手を組む事のリスクの一つ。


 だが、バトルロイヤルで手を組むメリットはそれを上回る。だから舞島は俺を勧誘している。



「ひとまず聞いて良いか?」


「ブラのサイズをですか?」


「舞島、俺はもっと真面目な話をしようと思ってだな本当に聞いて良いんでしょうか?」


「うわぁ……ホントに聞いてきちゃいましたね、先輩。録音しとけば良かったです。もっと使える証拠握れたのに」


「しまった、つい」

 でも、ずるくない? そのおっぱいでその言葉言われたら我慢できる奴っている? 

 まあ普通、我慢はできますよね、そうですね。俺がクズでした(開き直り)



「くすくす……でも、そういう隠し事のできない人、わたしは好きですよ。正直、ちらちら胸に目線落とすのは勘弁して欲しいですけど」


「……そういうのって気づくものなの?」


「まあ、大体」

 じゃあ俺、今すぐ目潰すしかないじゃん。



「いやらしい人ですね、先輩は……。童貞臭くてキモいです、ホント」


「まあ、童貞だしなぁ」


「…………、そういうの普通は隠さないですか?」


「高校生で経験してる奴なんてそんなにいないから大丈夫だろ、多分」


「…………」


「え、何その意味深な無言。いないよね?」

 え、いるの? 高校生で!? わぁ、リア充ってすげぇなぁ! 大人だなぁ!(現実逃避)


「ぶっちゃけ経験してる人はいっぱいいると思いますけど、経験していない人もいると思いますよ、普通に。それとは関係なく先輩はキモいですけど」



「じゃあ童貞臭いってなじる意味ないよね?」

 小生意気との前評判だけあって、意味なく凄い勢いで存在を否定されている気がする。俺、先輩なのになぁ……。経験値では間違いなく、こいつに俺は負けてるけど。先輩としてイキれるだけの人生経験がなかった。辛い。

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