第14話 反省
後輩である舞島がバトルロイヤルの参加者であると判明した以上、早急に情報の収集と対策を検討しないといけない。
そこで例のごとく麗佳との作戦会議をする事と相成り、さらに乃雪が心配だという例の理由により、その場所は俺の家で行われる事となった。
ただし、まだ陽の明るい内という事から俺と麗佳は別々に家まで向かう事にした。理由は当然、麗佳のフォロワー低下を防ぐ為。俺と一緒のところを学内の連中に見られるのはフォロワー低下を招きかねない。
『そこまで気にする必要はないと思うんだけど……。ま、貴方がそれで納得するならそれで良いわ。私は乃雪ちゃんへのお土産も買っていくから少し遅くなるからね』
そのような内容のメールが俺の下に届く。あいつもあいつでお土産なんて買う必要はないと思うのだが……。律儀な奴だ。
そして、学園から徒歩二十分の場所にある自宅マンションへと到着する。
麗佳がまだのようだが、先に上がって待っていても構わないだろう。それに、俺が乃雪の世話で手が放せない時に備えて、合鍵も渡してある。俺は十一階にある自宅へと急いだ。
「ただいま」
「にぃ〜〜」
家の玄関を開けた瞬間、奥から聞こえる愛らしくも、情けない声。
「ど、どうしたんだ!?」
その声に何かあったのかと部屋の奥へと急行する。
そこで見たのは、
「本当に申し訳なかったの」
冷たい鉄板の上で泣きながら正座しつつ、なぜか裸になっている愛しい妹の姿だった。
えぇ……なにしてんの、こいつ……。
「状況を説明してもらえる?」
「そのね、ノノの作った通信機が原因でピンチになっちゃったから反省を体中で表現しているの……」
「それがどうしてこうなった」
「まず謝罪の基本は正座からなの」
正座しているのまでは理解できる。そこまでは人類による思考回路だ。おーるおっけー、お兄ちゃんついて行けてる。
「そして、普通に土下座するだけじゃ足りないと思ったの。だからあっつあつの鉄板の上で正座すればいかな極悪非道のにぃでも許してくれるって考えた」
「そんな事したら別の理由でくっそ怒るけどな」
しかもパクリじゃん……。さらに言えばやった奴、再起不能になる奴じゃん……。
「でも、断念したの」
「成程。小学校の頃は国語で毎回十点以下を取っては『国語は出題者の気分で答えが変わるから問題として適正じゃない』『アメリカ人に英語の授業は無いのに、日本人に日本語の授業があるのは日本語に欠陥があるからで、ノノは悪くないの』だのとイキリ反論しまくってた乃雪にもようやく理解力が備わったか」
あと、そんだけ小憎たらしい反論ができるなら、小学校程度の国語ならせめて平均点以上は取れるよね?
しかしながら妹が成長したと感動する俺に対して、乃雪はかぶりを振る。
「違うの。鉄板を熱々にしようと思って台所のコンロを使おうとしたら、火が点けられなかったの」
「そこからかよ」
「IHってなんなの……? 英語を使ってシャレオツ気取ってんじゃねーぞ」
「口悪っ」
一部の知識を除いて小学生程度の頭しかないであろう乃雪には、まだ早かったらしい。
「それによく考えたら、乃雪がこんな重い鉄の塊、コンロの高さまで上げられるはずがないの。構造的欠陥だった」
「……じゃあその鉄板は一体どっから持ってきたんだ?」
「通販で頼んだあとは、たまーに来てもらっているハウスクリーニングの人にここまで運んでもらった。勿論、指示はメールだけで、ノノは一切顔見せない。現代は引きこもりに優しい世界なの」
「だ、代金は?」
「鉄板とハウスクリーニング代で二万。ハウスクリーニングの人は『ホントに鉄板運んだだけで帰って良いんですか?』って狼狽えてたの」
「無駄遣い甚だしい!」
土下座しているし丁度良いから、頭潰してやろうかこいつ――という衝動をなんとか抑え、ひとまず説明の続きを促す。
「それで、裸になってんのは、どういう心境?」
「え、だって、これが謝る時の究極の作法だって、書いてあったよ」
「……どこに?」
「にぃの持ってる18禁電子書籍の中に――――失言なの」
ぶち、と堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた。
「てめぇ! お兄ちゃんの大切なプライバシーをなんだと思ってやがる!! だいたいスマホでしか読んでねぇし、スマホも貸した事もねぇだろうが!」
「ネットに繋がってりゃ、ノノにとってそれは貸してるのと一緒なの」
「堂々と犯罪自慢してんじゃねぇ――――ッ!!」
そんな妹に俺は愛の鉄拳制裁をしようとすると、
「待って、にぃ! あと一つ、ノノの話を聞いて欲しいの」
「言ってみろ」
乃雪の言葉に俺はすんでのところで踏みとどまる。
愛する妹が相手だ。これでもうしないと誓うのであれば鉄拳制裁までは止しておくとするか――――
「あれ、見て」
すると、乃雪は鉄板のそばを指差す。
そこには彼女の脱いだであろう服が置かれており、まるで展示品でもあるかのように綺麗に置かれていた。
さらに脱いだ服の一番上には可愛らしい桃色のパンツが置かれ、その横にはこれまで一度も外に持ち出した事が無いであろう、ピカピカの生徒手帳(顔写真付)が――――
「脱いだ服はああして置くのがセオリーだって聞いたから、きちんと置いておいたの。にぃ、偉い?」
「馬鹿じゃねぇのか!? どこの世界の兄なら妹にエロ本のセオリーを求めるんだよ!! はっ倒すぞ!!
畜生! どれを! どの本を見られた!? あれか、あれなのか!?
「でも、にぃの本には妹キャラとの禁断の本が――――」
「ぎゃあああああああ!!!!!!」
違うんです、別にそういうじゃないんです! ただ、ちょっと魔が差したと言うか、現実と創作の区別はついているって言うか!!!
「くそっ! くそっ! 生娘がなにそんな年齢指定の本なんか読んでやがる!?」
「ノノはにぃの事が好きだから、なんだって知りたかったの。と言うより年齢制限はにぃだって同じ……」
「はぁ、そんな日本にあって存在しないのと同じな、形骸化した法律なんか知るか! 日本の男の子なら大なり小なり件の法を破ってるわ! 思春期の性欲なめんなよ!?」
「開き直ったの……、にぃはいけない子なの……」
「だったら、てめぇはプライバシーの侵害やらネット犯罪やらで役満だろうが! くそっ、こうなったら熱した鉄板の上で踊らせてやる! 二万円の元を取ってやるわ!」
「『きゃあ! 止めて、お兄ちゃん、私達兄妹なんだよ? こんな事したらイケないんだよ』……だっけ? 凄かったの」
「音読してんじゃねぇ!!!!!!!」
そうして、俺は兄の尊厳を取り戻すべく、そして妹への教育を行うべく、乃雪へと飛びかかる――――
「……えっと、何、してんの?」
底冷えのする、恐ろしく低い声が俺の背筋を凍らせた。
ゆっくりと視線を声のする方へと向ける。
そこには見たことのない、感情の起伏の失くした麗佳詩羽の無表情があった。
そういや麗佳には合鍵を渡してたんだった……。
「いや、待って。ホント、待って? お前は誤解してる。間違いない」
「誤解、ですか?」
聞いた事のない声色で、聞いた事のない口調。さらに麗佳の綺麗で透き通るような声が恐ろしさを助長していた。
「どんな誤解があれば、うっすらと涙の浮かべた裸の女の子、しかも妹を前にできるのか理由を教えて頂けますか?」
「いや、それは――――」
俺はちらりと乃雪に視線を向け、フォローのお願いをする。
しかし、
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ」
ふるふるふると首を振り、終いにはこの場所から逃げ出した。
いや……くっそ人見知りで対人恐怖症の乃雪に鬼をその身に宿した麗佳の相手は無理だったか!
とは言え、今この状況でそれはかなーり不味いんじゃないのか……?
そして、案の定、麗佳による視線にさらなる蔑みの感情が加わった。
くそ、こうなったら敵意がない事を伝えるしかない。
俺は手を挙げ、降参のポーズをしつつ、麗佳へと近づく。
しかし、
「ち、近づかないで!! このケダモノ!!」
麗佳は体中から嫌悪感を表しつつ、俺から後ずさる。
「ホントに違うんだよぉおおおおおおお!!!」
ホント、どうしてこうなった……?
この誤解を解くのには一時間もの時間を要した。
蔑まれる事にはまあまあ慣れているが、この手の嫌悪感を示されたのは経験のなかった事だった。辛みが深い。
プロットを見返したら、今回のこれ、一行でしか表示されてませんでした。
一体私は何を書いていた……?(自問自答)




