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第11話 失敗

読者による評価は二日連続投稿とかいう不可能を簡単に可能にする(万歳三唱)

(……なあ、麗佳)


(なにかしら)


 手のひらの中に隠した小型マイクを通して小声で言葉を返す麗佳は、ロッカーの隙間を遮るように、立ちふさがっていた。


 なぜ立っているかは言わずもがなだろう。


(どうも息が苦しいんだ。お前がロッカーの入り口から少しでもズレてくれたら、もっと新鮮な空気がバカバカ入ってくると思うんだが)


(それなら今すぐこの扉を開けてあげるわ。新鮮な空気を思う存分吸い込めるはずよ)


(……すいませんでした。言ってみただけなんです、許してください)


 俺の浅ましい考えなどお見通しの麗佳。倫理の門番は思っていた以上に手強い。



(まぁ私の撒いた種だし心配しなくても庇ってあげるわよ。でも、私も覗きのお手伝いをするつもりはないわよ? 今いる娘達が出ていくまでの間だから息苦しいくらいは我慢してよね)


 麗佳は俺が覗きを働きたいがためのウソにすら気遣ってくれる優しさを見せていた。


 ……なんだろう、人間的に比べるのも烏滸がましいレベルに釣り合ってないな俺とこいつ。今更だけど。


そんな中、


「あら? 詩羽ちゃんだよね? どうしたの、着替えなくても良いの?」


 ――――と他の女子から声を掛けられる。


 考えてもみればこいつは友達らしい存在のいないぼっちでこそあるが、かなりの有名人。間違いなく周囲からは一目置かれる存在だろう。きっと遠慮もあって声を掛けられづらいだけで、きっかけさえあれば普通にしゃべりかけられる。


 相手もリア充だけあって声を掛けるくらいなら楽勝だろうが、その声には少し緊張が聞き取れた。



 さて、着替えていなかった事を問いただされた麗佳だが、ここはちょっとはぐらかす感じで対応すれば大丈夫だ。それにさっきの俺の対応を聞いていたのだから対策くらい立てているだろう。


 だが、


「え、ええ! ううん、今から着替えるわ!」


 と、誤魔化しもせず普通に返してしまう。


 えぇ……なにやってんの、こいつ……。



(ばっかお前! そこで普通に返してどうすんだよ! さっきの俺みたいにごまかさねーとまずいだろうが! 俺の対応見てなんか考えてなかったのかよ!)


(し、仕方ないじゃないの! 考えている間に蜘蛛が出ちゃったんだもん!)


(だもんじゃねぇだろ!? 変にかわいこぶってないで、さっきの言葉を訂正しろ! あと教室に居場所がないとかなんとか言ってこの場を誤魔化せ!)


(嫌よ! 私だってメンツがあるんだから! 『学校ではクールで颯爽とした格好良い女の子』って立ち位置を守る事でギリギリ友達のいない寂しさを我慢してたんだから!)


(いきなり闇を見せてくるな! 不覚にも面白そうに感じちまったよ!)

 つうかそんな考え方で学校生活乗り越えてたんかい!


 こいつみたいなリア充でも学校での立ち位置とか考えてんだなぁ……。いや、明らかにこいつは特殊だろうけど。


 俺好みの変な闇見せられて深くにもワクワクドキドキしちまうじゃねぇか、こんな状況なのに!


(つうか、じゃあ何か!? このままお前はここで言葉通りに着替えて良いんか? 俺に見られてると知りながら、着替えられるっつーんか!?)


(…………ッッッッッ!!!!!!!!!!!!!)


 明らかに今気づいたって反応してやがるこいつ。


 大丈夫なんか、こいつ……。よくこの鈍感力で芸能界とかいう魔窟(偏見)を渡り歩いてきたな。いや、だからこそなのかも知れないが。



 はぁ……と俺は嘆息しつつ、そして小声で言う。



(お前、ひとまずこっからズレて、離れたとこで着替えろ)


(な、なに言ってんのよ! それじゃあ誰かに開けられちゃうかもしれないじゃないの!)


 そこは麗佳の言うとおりだった。


 彼女が使っているという体でなくては、このロッカーは未使用だと思われてうっかり開けられてしまう危険性が生じる。


 そうなれば俺の社会的ステータスはそこで終わる。


 だが、最早そうも言ってられない状況だ。



(って言ってももう仕方ねぇだろ。それにこのロッカーはかなり端。となれば使われる可能性はかなり低いんじゃないか?)


 などと口からデマカセを言う。

 心理学的にはどちらかと言えば真ん中よりも端にあるものの方が選ばれやすいそうだが……、とは言ってもこんな状況で正論を言って麗佳を困らせても仕方がない。


 ここは彼女を素直に着替えさせてあげる方が良い。


(でも、そうしたらあんた隙間から他の娘見ちゃうじゃないのよ!)


(我慢する)

 できるかどうかはさておき……。いや、この場合はこいつに悪いからマジで我慢するかもしれない。俺はこいつの背徳感を無視して覗きに走るほどの馬鹿じゃない……と思いたい。


(で、でもホントに開けられちゃったら……)


(そうしたらこのバトルロイヤルを優勝した願いでどうにかする)

 取らぬ狸も思わず吹き出してしまうようなデマカセ。しかし、この場がどうにかなれば良い。


 しかし、

(……いや。そんな無責任な事できないわ)

 麗佳が口にしたのはそんな言葉だった。


 ……どこまで人間できてんだよ、こいつは。


(無理すんな、ホント。俺なら問題ないから)


(駄目に決まってんでしょ、そんなの)


(じゃあちょっとしたストリップ劇場やるってぇのかよ! できんのか!? 無理だろ!)


 当然無理に決まっているだろう。


 なんだったら俺も無理だ。青春アンチとかいうその実、現実での刺激にまったく耐性のない陰キャなんかに、いきなり下着姿なんか見せたらリアルの過剰投与でそれこそ死んでしまう。


 リアルは用法用量を守って正しく摂取しなければ。最早、自分で何を考えているのか分からなくなってきた。俺はもう駄目かも知れない。


 そんな中、麗佳は、


(だ、大丈夫よ! こうすれば!)

 そう口にしたかと思えば片方の手を使って隙間を埋めた。


(これで貴方から見られないで着替えられるから!)

 実に混乱した様子を見せる麗佳。


 だが、そんな様子で着替える奴なんて普通いるわけない。そんな事をしていれば――――


「う、詩羽ちゃん!? もしかして気分悪いの!?」


「ひゃう!?」

 ――――という風に声を掛けられるのは当然だ。


「ずっと手ついてるから、気分とか悪いんじゃないかって」


「ねー、着替えないで立ったままだし……。体調悪いなら私達が保健室まで付き添うよ」


「だ、大丈夫よ! 心配してくれてありがとね! す、すぐ着替えるから……」


 などと今すぐ着替える事を明言してしまう麗佳。

 退路を無くすところか自爆までするとか、こいつ大和魂に目覚めすぎだろ。



(だ、大丈夫よ。円城瓦君、私は、だいじょ、うぶ……)

 隙間から見えるのは耳の先まで真っ赤になった麗佳の顔だった。


 どう見ても大丈夫ではない。だが、麗佳は止まらない。



「じゃ、じゃあ着替える、わね」

 おそらくは自分に言い聞かせながら、とうとう麗佳は自分の上着に手を掛け始める。



 ゆっくり、ゆっくりとだが着実に。麗佳は付けていた体操服を脱ぎ捨てていく。

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