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第9話 作戦決行



「――身長百六十九センチ。体重は――」


 俺の身長、体重を測る担当教諭。……今年も170センチへの夢は儚く散った。




 そう、本日は新学期に入った事により行われる恒例行事、身体測定の日だ。


 俺は身体測定が行われていた教室から足早に去った。他の生徒は談笑しながらその結果に一喜一憂しているが、俺にそんな暇はない。なんなら一緒に一喜一憂できる友達もいない。ないない尽くしで体重まで軽くなりそうだ(周囲から浮いている的な意味で)。




 体重、身長を始め聴覚などの身体測定の項目を俺は効率良く終わらせていく。




 そして、全ての測定が終わった俺は体育館横の更衣室へと急いだ。


 


 うちの高校での身体測定は午前中の時間を使って全校生徒一斉に開始する。順番なども然程決まっておらず、測定項目さえ終わるのなら自由である。一応進学校であるにも関わらず呑気なものである。とは言え、気が楽なので生徒達には受けが良い。




 そして、身体測定は体育着に着替えて行う決まりとなっており、教室か体育館横の更衣室で着替えるのが通例だ。




 その体育館横の更衣室と言うのがいわゆる人気スポットで、広めに取られたスペースと幾つか設置されたシャワーが人気の理由だ。




 この更衣室は誰でも自由に使える事になっているのだが、どうしてかリア充――言わばスクールカースト上位の連中しか使ってはいけないような空気がある。オタク層などのイケてない組に入る連中の多くはおとなしく教室で着替えている。




 この更衣室を使えるかどうかがスクールカースト上位に属するステータスのような扱いだ。




 つまりスクールカースト最底辺を這いつくばっている俺のような人間は、本来逆立ちしても更衣室を使えない訳だが……。そこはただの不文律、ルールとして明記されているのでは勿論ない為、俺は気にせず堂々と使用していた。




 着替えている最中も俺は周囲の者達がジロジロと視線を向けられる。『どう見てもお呼びじゃないのに、どうして居るのか?』と言わんばかりの不躾な視線だ。




 だが、そこは言葉に出される事はない。この悪辣な空気に耐えられるのであれば、俺を止める者は誰もいないのだ。止まるんじゃねぇぞ……ッ。




 ……いや、ごめん。本当はこんな空気悪いところ、すぐにでも去ってしまいたい。教室ですら針のむしろだが、ここは本当に俺とは違う人種が集まっているとだけあって居心地の悪さが半端ない。ともすればオセロみたいにリア充とリア充に挟まれて俺もリア充になれないだろうか。……いや、なれないよね。むしろ圧し潰されて圧死しそう。




 とは言え、ここで逃げる訳にはいかない。今この時、俺は作戦を実行中なのだから。






 バトルロイヤルの参加者の証である肩の幾何学模様を確認する為には姫崎がやったように強引に肩を捲るか、あるいはこのように着替え中に肩を確認するより他に方法はない。その内、自然なのは着替え中の確認だろう。




 ただ、通常の体育ではクラスメイトと合同体育を行っている隣のクラス、それも俺でならば男子生徒くらいしか確認のしようがない。しかし、この日この時ばかりは数々の生徒がこの更衣室を利用する。この日に限れば広い範囲で参加者の特定が可能になるのである。




 ちなみに女子生徒は麗佳に確認してもらっている。これで男子、女子のどちらのカバーも可能になるのだ。




 とは言え、この更衣室を使うのは基本リア充のみで、その他の生徒は確認できない。だが、実はこれも俺達に有利に働く。




 なにせ俺のような例外こそいるものの、このバトルロイヤルは基本的にリア充が強い。なにせ注目度こそが戦闘力に直結するのだ。それこそ「炎上」のような邪法にでも手を染めない限りは、スクールカーストでも下の連中が麗佳詩羽のようなリア充の中のリア充には敵わない。




 つまり言ってしまえばこの更衣室を使用しない者はマークする必要がない。例え参加者であったとしても対策する必要はないし、そもそも俺達が倒さずとも脱落するのは自明だ。




 と言うわけで俺と麗佳はそれぞれ更衣室に籠もりながら、着替え中の生徒達の肩を確認する作業に勤しんでいる。




『ザザ……ザザザザザ……らくん、円城瓦君、首尾はどうかしら』


 同更衣室で談笑しながら着替えている生徒三人の肩を確認していた最中、耳につけた通信機から麗佳の透き通るような美声が聞こえてきた。






「何十人か確認したが……見つからないな。そっちはどうだ?」




『私もまだね』




 通信機を通して麗佳と状況を確認しあう。


 この通信機は乃雪が用意してくれたもので、片耳につけても傍目にはそれと判断できないほど小型のもので、手で覆い隠せるマイクを通して通話が可能な代物だった。




 スマホでも問題ないと思ったが、この方が不審に思われないからと乃雪が用意してくれていた。まったく……めちゃくちゃ生活力がない事と他人とまったくコミュニケーションが取れない事、ネットで変なところに首突っ込んで工作活動しては無意味に炎上しかけて警察沙汰になりかける事を除けば、本当に有能な妹だ。有能さと無能さのバランスがピーキー過ぎない?




『それはそうと……』


 生徒三人が体操着から制服に着替え、更衣室から出ていくところを見送る中、麗佳の通信を聞く。




『これ、ずっと更衣室にいたらすっごく不審に思われない?』




「今更気づいたのか」


 最初から気づいた上で作戦に同意しているものだとばかり思っていた。天然か、こいつ……。




『ちょ、ちょっとどうするんのよ!? このままだと他の人達から変な目で見られちゃうわよ!!』




「そんな事言われても……。俺は変な目どころか、いつも蔑みの視線でしか見られないから」




『ホント開き直っているわね……』




「それにもし誰か来たとしても方法もなくは――――すまん、次が来た」


 麗佳にそう言って通話を繋げたまま会話を途中で止める。




 しばらく更衣室には誰もいなかった事から普通に通話していたが、周囲に人がいるとなればさすがに奇異の目は避けられない。そういった事に諦観を貫いている俺だが、必要のないのにわざわざ疑惑の目を向けられる事は避けたい。




 更衣室の扉の奥から複数人の笑い声が近づいてきたかと思えば、更衣室の扉が開く。身長が高くガタイの良い、いかにもリア充だと言わんばかりの五人組だった。恐らく部活生だろうが、学年などはさっぱり分からなかった。まぁ例え同じ学年だったとしても、基本的に人の顔を覚えない俺では分かるはずもなかった。他人に興味がなさ過ぎる。




 リア充五人組はガヤガヤと騒ぎつつもシャワーを浴び、その後で体操着から制服へと着替え始める。その間、着替えるような素振りを見せつつもリア充五人組の肩を確認する。どうやら参加者ではないようだった。




 そんな中、


「おう、お前ずっと着替え終わらんねぇけど、何まごついてんだ?」


 リア充五人組の内、とりわけ体格の良い一人が俺へとそんな言葉を浴びせる。



 口調から察するに疑問半分弄り半分と言ったところだろうか。周囲の友人らしき者らが堪えきれずに吹き出しているものの徹底的に蔑んでやろうという風にはまだ見えない。




 そして、俺は予め用意していた言葉を口にする。




「実は教室に居場所がないんだ。もう少しここでゆっくりさせてくれ」




「お、おう……」




 すると、リア充らは哀れみの視線を向ける以外には特に何もする事はなく、さっさと更衣室から出ていった。




『さすがと言うか何と言うか……、一切のプライドをかなぐり捨てるわね、ホント』




「誇りなんて埃といっしょで捨てた方が実は気持ちよく生きられるものなのさ」




『さも名言かのようにそんな哀しい事を言われても……』




 通信機を通して麗佳の嘆息が聞こえてくる。




 まあこれはどう考えてもうまく行き過ぎたパターンだが。あれで哀れむだけで済むとかあいつら実は良い奴なのでは?




「麗佳も誰かに不審に思われたら、ドン引きされたら以外と楽だぞきっと」




『その境地にはまだ達せないから、もう少し自分でやり方を考える――――あっ!』




「どうした? 何かあったのか!?」


 麗佳の側から何かが崩れる音と複数のノイズが聞こえてくる。


 


『ご、ごめんなさい。ちょっと……その、驚いちゃって』


 続いて聞こえてきた麗佳の声だが、少しだけ声が遠くなったような……。


 だが、聞こえないレベルではないので、構わず通話を続ける。




「敵じゃないのか?」




『ええと、……ええ、敵じゃないわ』


 麗佳のその言葉に胸をなでおろす。




『でも、その、少し……いや、すっごい問題が発生しちゃって……』




「問題? 何があった? 通信機のトラブルならこちらから乃雪に連絡して――――」




『違うの。その、……くもが』




「え、何だって?」




『その、蜘蛛が出たのよ!』


 麗佳は悲鳴が入りじまった声で叫ぶ。




「……お前、蜘蛛苦手なのか?」




『そ、そうよ! 悪い!? ひっ!』




「キレてんじゃん」




『少しでも感情を昂ぶらせないと、すぐにでもすっごい泣いちゃいそうなのよ!』




「何それ超見たい」


 ……などと言ってる場合じゃないか。




「麗佳。ひとまず作戦中止して、そこから離れろ」


 どうもかなり苦手のようだし、動揺も大きい。身体測定の機会を逃したくはないが……、こうなっては致し方ないだろう。




 すると、


『い、いや、その、そういう訳にも……いかなくて』と麗佳。


 




「麗佳。確かにこの機会を逃すのは痛いが、今のままでは満足に作戦遂行は厳しいだろう。ここは素直に撤退して――――」






『そうじゃなくて!!』と麗佳は動揺を声色に乗せ、さらに言葉を続けた。


 


『その、マイクをロッカーとロッカーの隙間に落としちゃって……、そこに蜘蛛がいるのよ! こんなの取れる訳ない!!』




「成程……」


 ひとまず状況は理解した。




 通信用小型マイクは乃雪特注の代物だ。回収せずに残していくリスクは犯せないだろうし、ともすれば盗撮にでも使われているのかと要らぬ勘違いすらされかねない。




 事情を説明しようにも、「バトルロイヤルが――」などと言ったら白い目を向けられるのは必至だ。そうなれば麗佳のフォロワーにも影響しかねない。




 それにマイクを回収しようと麗佳が他の者に助けを呼ぼうとすれば、それこそ不審がられる。完全に特注の小型通信機の持ち込みが裏目に出た形だ。




 この間も麗佳はどうにかして小型マイクの回収を試みようとしているのか、『ひッ!』『いやぁ……』などの嗚咽や悲鳴が聞こえてくる。どうも本当に駄目らしい。




 ……どうも一つの決断をしなくてはならないらしい。




「麗佳。という事は今更衣室にはお前一人って事なんだよな?」




『え、ええ。まあ、そういう事になるわね…………あの、円城瓦君、もしかして貴方、とんでもない事しようとしている?』




「当然だ」


 俺は男子更衣室から飛び出し、駆け出す。




「今から助けにお前のところ――女子更衣室に向かうからちょっと待ってろ!!」


 女の子を助けに行く変態が誕生した。そして、それは俺だった。

 えぇ……。


 

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