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勇者の称号を得た者が役目を終えてからのお話  作者: AMITOA
~迷子は魔族のお姫様~
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別れの挨拶

 ツミナは教会本部を(物理的に)潰したあと、この国を出ることにした。


(孤児院の方へも挨拶とお礼をしにいかないとな・・・トーリさんの方にも)


 ツミナは世話になった人々のことを思い出して、少し微笑むが、すぐにため息をついた。



 聖職者は人を殺すことを罪とする。殺した相手が罪人であれ、それは変わらない。

 彼らにとって「人殺し」は軽蔑や恐怖の対象だ。


 つまり、ツミナが教会へ行き、ドルやミリアと会えば、その対応は以前とは変わっているだろう。


 街を歩く中、ちらちらと視線を感じる。今回起こした騒動のことで、人々からは感謝と恐怖の感情を持って見られている。

 教会は奴隷商会と繋がっていた。そのことを今回の騒動で知った人々は子供たちや知り合いを奪われた人はツミナに感謝を。そして、教会本部を潰した勇者に恐怖をもっている。


 コンコンコン


 ある簡単な、木でできただけの屋根と柱があった。扉をノックする。

 すると出てきたのは子供たちだった。


「あっ、ゆうしゃさまだー!」

「きてくれたのー?」

「あそぼー!」


 すぐに子供たちに囲まれるツミナ。

 ここは孤児院。建物は焼きはらわれたため、仮設住宅、のようなものが今は応急措置のようなもので作られている。今はドルやミリア、ランや子供たちはここで暮らしている。


「今日は先に神父様に合わせてくれるかな」


 子供たちにいうと、皆顔を見合わせてから。


「そっかー」

「あとであそんでね」

「ぼくしんぷさまよぶー」


 了承してくれた。聞き分けの良い子供たちだ。


「こっちー」

「こらこら、引っ張ってはいけないよ」


 すると、子供たちがドルを連れてきた。


「こんにちは」

「これはこれは・・・ツミナ様。どうぞ、こちらへ」


 ドルは少し驚いてからツミナを奥へ案内した。



「あっ、ツミナ様!」


 奥に連れられ、ミリアと会う。


「こんにちは。シスター・ミリア」

「こんにちは」


 ミリアはぺこりと礼をする。


「こちらにおかけください」


 ドルはツミナに椅子をすすめ、自分も座った。


「突然来てしまって申し訳ない」

「いえいえ、そのようなことは。・・・実をいうと、もうこちらへは来られないかとおもっておりました」


 ドルの顔は穏やかで、ツミナをいさめるなどということはしない。


「それもそのはず。今回は神聖なる教会の前で人を(あや)め、更には教会本部などを壊してしまった。本当に、申し訳ない」

「ツミナ様、頭を上げてください」


 謝るツミナ。そんなツミナにドルは声をかける。


「今回、ツミナ様がしたことは正しいことだと思います。人を殺めることは確かに悪い事だ。ですが、それが正しい事でないとは限らない。教会本部の聖職者(かれら)は許されないことをしました。いずれは、罰を受ける身だったのです」

「神父様――」


 静かに、事実を受け止め話すドルは、まさに『神父様』だと言えた。



「――というわけで、私はこの帝国を近々去ることになります。今までお世話になりました」


 ツミナがお辞儀をする。

 そこで子供たちから「えぇー!?」と声が上がった。


「ゆうしゃさまいっちゃうの?」

「もっとここにいて」

「もっとあそぼー」


 子供たちはツミナの服の袖などを引っ張り駄々をこねる。


「ツミナ、行くって、本当なのか?」


 その時、先ほどまで黙っていたランがツミナに言った。

 その顔は心細そうだ。


「はい。ランさんには帝国に来る前からお世話になりましたね。ありがとうございました」

「っ、お世話になったのは私の方だよ! 何も、まだ恩返しできてない・・・。また助けられたばかりだし・・・」


 顔を俯けるラン。ツミナは、そんな彼女の頭に手を置いた。


「つ、ツミナ?」


 ランが上ずった声を上げる。頭をなでられるのは初めてではないはずだが、とツミナは心の内で思う。


「そんなことはありません。ランさんはそこにいるだけで皆を元気にしています。子供たちもそうです」


 無邪気な心が、笑顔が綺麗だった。悪なんて、吹き飛ばして、悩みなんて、消してしまう。そんな綺麗さ。

 ツミナには、まぶしかった。そして、羨ましかった。


「ッ、う~」


 ランは我慢していた涙を流してしまっていた。


「使ってください」


 ツミナはスッとハンカチを差し出す。


「差し上げます。元々貴方用に買いましたから」


 先ほど露店で買ったのだ。ランへの贈り物として。


「っ~~」


 ランは頷く。だが、嗚咽をしているからか、お礼の声がのどから詰まって出ないようだ。


「神父様、シスター・ミリア。お世話になりました。お礼申し上げます」


 ツミナがドルとミリアに向き直る。


「こちらこそ。感謝の限りです」

「行って、しまわれるんですね・・・」


 ドルは感謝を、ミリアは未練を口にする。


「明日、出発します。本当に、ありがとうございました」


 唇の端が自然に上がり、弧を描く。目も少し目じりがさがる。


「では」


 ツミナの笑顔は、綺麗だった。神すら、見劣りするほどに。


 そして、皆は、彼の本当の笑顔を、見た気がした。



 カランコロン


 店の扉の鈴がなる。


「いらっしゃいませー! って、ツミナさん! こんにちは」


 客を出迎えようと厨房から出てきたトーリは、入ってきたのがツミナなのに気づき口調を元に戻す。


「こんにちは」

「大丈夫でしたか? 先日の事件」

「ええ。私は何もありませんでした」


 トーリが心配そうに眉を八にする。


「今日はどうかなさったんですか?」

「・・・今日はお別れを。明日、この国を去ります」


 ツミナはトーリに告げる。

 トーリは驚愕して目を見開く。


「ど、どうして・・・」

「また旅に出ます。私を追って来る人もいますしね」


 追ってくる人、とは勇者パーティーでの仲間だ。


「そ、そう、なんですか・・・寂しくなりますね」

「はは、そう言ってくれると、寂しいですが嬉しいです」


 ツミナは微笑んでから改めて言った。


「お世話になりました。感謝します」


 お辞儀をするツミナ。


「こっ、こちらこそお世話になりっぱなしで・・・ありがとう、ございました」


 トーリは一瞬、泣きそうになるが、涙をこらえた。

 そして。


「いってらっしゃい、ツミナさん。またのおこし、お待ちしています!」

「はい。ありがとうございます。いってきます」


 笑顔で見送る。


カランコロン


 出ていってから、トーリは立ち尽くした。

 その後、静かに泣いた。

 店主が背中をさすってくれて、本当にありがたかった。




 人との出会い、別れを繰り返す旅は、寂しくも美しい物語のようだ。

 ツミナは新しい地へと足をのばす。


 出会った人たちへ、感謝を込めて。

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