勇者と魔族のお買い物
教会本部から怒って帰ったその日から数日が過ぎ、教会や大聖堂へ行く人は極端に減っていた。
「申し訳ありません、私のせいでもあります」
ツミナは久々に孤児院にやってきていた。もう教会本部の者が来ても追い払うつもりなのでお構いなしに町中を歩いている。
今はドルやミリアと教会本部で起こったことを話していた。
「いえ、そんな。もともとこの教会は人があまりこないので」
「そうです。それに謝るのは私たちの方です。教会の者が失礼を・・・」
ドルとミリアは教会本部で神官長が行ったことに大変腹を立てている様子だ。
「謝罪ならトーリさんに。私もトーリさんに謝るがわですから」
とにかく今回の件の被害者はトーリだ、ということで謝る対象となったトーリ。今度孤児院に来た時はドルとミリアに謝り倒されるだろう。
「孤児院の子供たちが元気そうでよかった。ランさんも。ロマも、元気そうだ」
「今は皆と仲良しですから」
ミリアがほのぼのとしていう。
ツミナもほほ笑む。
「怪我の具合も良いですよ。もう完治したといってもいいでしょう」
ドルが伝える。だが、怪我が治った、ということは、ロマは出ていくかもしれない、ということだ。
「ロマさんが、これからのお話をされたときに私たちは対応します。ですが、私たちからそれを切り出すことはしません。できれば、ずっとこのまま、安全にくらしてほしいので」
穏やかに話すドルに嘘はない。
ツミナは安心して頷いた。
「あ、ところで、お願いがあるのですが」
話題を変え、ドルはにっこりと微笑んだ。
1
「どうして! 私が! 貴様と!」
ロマが道を歩くなか、憤ったように叫んでいる。
「買い出しになど来なければならんのだーっ!」
キッとツミナを睨みつけながらロマが最後に叫んだ。
「神父様に頼まれたんだよ。護衛につくなら私が一番安心だってね」
「だが、私はお前を許した覚えはない!」
「わかっているよ。私はただの護衛だ。そして君は街観光を兼ねた買い出し」
ツミナは辛辣な言葉を言うロマに優しくほほ笑む。わかっているのだ、自分が、彼女にとって許されないことをしたという事は。
「ふん、後ろをついてこい。横には並ぶな」
「わかりました」
会話をしてくるだけ、まだましな方かもしれない。
2
「こ、これはなんだ?」
「串肉ですよ」
「う、うまそうだな」
たくさんの出店が並ぶ街の中心地にきた2人。ロマは初めて見るものばかりで驚いている。普通にツミナに話しかける程だ。
「そこの嬢ちゃん、どうだい? うまいよ、食べないか?」
「そうだな! はっ、だが、金が・・・うぅ」
ロマが自分の欲望と買い出しという使命を天秤にかけてたたかっている。うう、とうなるロマをみて、ツミナは微笑ましくなった。
「ロマさん、買い出しを終えてから買いましょう。おつりがあるかもしれない」
「む、そ、そうだな」
もちろん、釣りがでることはない。ドルが完璧に計算してから渡しているからだ。
だが、お金を預かっているのはツミナ。買う際にお金を出すのもツミナだ。
つまりロマは金の減り具合を知らない。釣りがあってもなくてもそれは彼女にはわからない。
では誰が串肉の金を出すかって? ツミナの自腹だ。
「ではさっさと買い出しをすませるぞ!」
笑顔を見せる彼女に、ツミナはついていく。
3
「ん~! うまい!」
幸せそうな声をあげて頬を緩ませるロマ。
今は買い物を済ませ、ロマが欲しがっていた串肉を購入し食べている。
「人間たちがこのようなものを食しているなど・・・知っていたら皆に作らせたものを・・・」
皆、とは魔族の仲間のことだろう。いや、部下か?
「一本だけでよろしいですか?」
「む、まだ釣りが残っているのか?」
「はい。あと1本分ですが」
それ以上だすとツミナの所持金が危険だ。
「ならばもう1本購入しよう」
「わかりました」
ツミナは店主に言って串肉をもう1本もらう。
「どうぞ」
「ああ」
もぐもぐと肉を咀嚼する姿は年相応のただの少女のようだ。
ガツ、
その時、ロマが少しよろける。
「ん、すまない」
誰かとぶつかったようだ。肉を飲み込んだロマは軽く謝罪する。
だが、相手はわなわなと震えて、叫んだ。
「え、えい、えいへーい!」
ツミナがはっとして相手を見る。
ロマがぶつかった相手は、聖職者の制服を着ている。つまり、聖職者。そして、聖職者は魔族を追っている。ロマの情報が知れ渡っているはずだった。
「っ、失礼!」
ツミナはロマを抱きかかえてとぶ。
建物の屋根までとんだツミナはそのまま駆ける。
「な、なにをする!」
ロマが驚きながらも串肉を落とさないよう頑張っている。
「あれは聖職者です。おそらく貴方の正体がばれた。追って来るでしょう」
「なっ」
ロマがまた驚く。本人はどうして衛兵が呼ばれたかわかっていなかったらしい。
「・・・やはり、わたしは外にでるべきではなかったのか」
「そのようなことは――」
ツミナがロマの言葉を否定しようとする。が、それをロマが遮る。
「わたしが魔族だからか。生まれたときからそれがふつうだった。種族など特に気にしていなかった。父もじゃ。父も。人を襲おうとなど、考えては・・・」
ロマの声が震える。
確かに、魔王やロマ自身は何もしなかった。だが、元凶が魔族であることに変わりはない。最初に、下級魔族が人を襲ったことに、変わりはないのだ。
「とにかく、今は逃げます。下をかまないよう、歯を食いしばっていてください!」
そういってから、ツミナはロマを連れて屋根から急降下した。




