トーリとパン屋
カランカラン
ドアについていた鈴が鳴る。お客様がいらっしゃったのだ。
今日もパン屋で働いていたトーリは振り返る。
「いらっしゃいませ!」
元気に挨拶。
振り返った先にいたのが知り合いで驚いたのはその後だ。
「あれ、ツミナさん! 来てくれたんですね!」
頬が緩むのが自分でもわかった。
ツミナはドアを丁寧に閉めると、挨拶を返してくれた。
「やぁ、久しぶり、かな」
「あ、そういえば教会本部に追われてる、って聞いたんですけど、大丈夫なんですか?」
声を抑えて聞く。
トーリはツミナが勇者であることを知っている数少ない人物の1人だ。
「今も追われててね。ここに来るまでに時間がかかったよ」
「そうだったんですか!? すみません・・・こんな大変な時期に来ていただいて・・・」
「いや、トーリさんのせいではないから大丈夫ですよ。それに、情報を秘密にしてくれて、ありがとうございます」
ツミナに礼を言われるトーリ。勇者である、ということを秘密にしてくれていることへの礼だ。
「そんな、当たり前ですよ。ツミナさんは私たちの恩人でもありますし」
「ありゃ、トーリちゃん、知り合いかい?」
「あ、店長」
2人で話していると、店長が厨房から出てきた。仕事が一段落したのか、話に加わってくる。
「トーリちゃんの彼氏さん?」
「ちちち、違いますよ!」
「初めまして、ツミナと申します。私は旅人でして、トーリさんとはたまたま旅の途中で知り合いまして・・・」
「そう! 私を人さらいから助けてくれた人なんです!」
「そうだったのかい。こりゃぁお礼をしないとね。好きなだけパンをとってってくれ。お礼だよ」
「いえ、お気持ちだけで。トーリさんには良くしていただいているので」
彼氏、といわれて慌てるトーリ。内心はドキドキしまくっていたが、ツミナがスルーしたので、残念だが気にしないことにする。
店長も印象が良い人だと思ってくれたことだろう。
「せっかくだし、トーリちゃん。今日はもう終わっていいから。ツミナさんとデートでも行ってきな」
「へっ!? そんなことできませんよっ。お仕事もあるし、ツミナさんも、め、迷惑だろうし・・・」
「私は構いませんよ。街ではわからないことも多いですし、案内していただけたら嬉しいです」
「ほら、本人もこう言ってることだし、行った行った」
店長はトーリをツミナと一緒に店から押し出した。
「てて、店長ぉ~」
「私といるのは、嫌ですか?」
「いいいいえ! 全く、全然、確実に、そんなことはありません!」
「では、行きましょう」
えええええええ~と騒ぐトーリを引き連れて、ツミナは街の中心へ向かった。
1
「すみません。失礼だとは思いますが、教会に顔が知られているのでフードを被ったままでよろしいですか?」
「あ、はい。それは勿論。見つかったら大変ですし」
せっかくのデートですから、という言葉を飲み込んだトーリは、顔を極限まで緩ませている。
「どこかおすすめの場所などありますか? ここはまだよくわからないので・・・」
「ありますよ! 案内します! 行きましょう」
トーリはツミナに尋ねられ、張り切って目的地へと歩み出した。
2
「つきました! 夕方になれば、夕日が綺麗に見えるんです!」
丘の頂上まできて、トーリは元気よくほほ笑んだ。
「そうなんですか。では、もう少しですね」
「はい。少し早かったですか?」
「いえ、ここで待ちましょう。ちょうどベンチもあることですし」
ツミナに促されて2人でベンチに座る。
「ツミナさん、教会に追われて、お疲れ、ではないですか?」
そんな時に連れまわして申し訳ない、というトーリの気持ちが含まれる言葉に、ツミナは頭を振った。
「教会から逃げることなんて造作ありません。大丈夫ですよ」
ツミナは微笑んで不安を吹き飛ばすように言った。
面倒ではあるが、とらえられない限りは大丈夫だろう。
「そうですか。ですが、孤児院には行けてないんですよね?」
「ええ。教会本部から目をつけられているみたいで・・・誤魔化していただいているようですが」
「子供たち、寂しがってました。教会は本人が嫌だって逃げてるのが分からないんでしょうか」
トーリが憤慨する。ツミナが嫌がっているのを察せ、と騒ぐ。
ツミナは苦笑しながら、ツミナをかばってくれるトーリに感謝していた。
「ツミナさんが我慢することないのに! 逃げないといけないなんて、観光もできやしない!」
立ち上がって、「ばかやろー!」と叫ぶトーリ。
そこまでして、自分がしたことに顔を赤くする。
ツミナは自分の為に言ってくれていることに嬉しさを口にするが、更にトーリが恥ずかしがる。
「あ、トーリさん。前」
ツミナはそこでまぶしさを感じて気づく。
トーリはツミナに言われて前を向いた。
「わぁ、何度見ても綺麗です・・・」
トーリは感動したように呟く。ツミナもだ。
夕日がさしていたのだ。オレンジ色に輝く夕日に、2人は見とれる。
「トーリさん、素敵な夕日をみせてくれて、ありがとうございます。初めて見ました」
ツミナが自然と微笑む。そこには、初めて見るものへのワクワクとした感情も混じっている。
少し幼さが垣間見えたツミナに、トーリの胸が鳴る。
「こ、こちらこそ、一緒に、いれて、嬉しかった、です・・・」
途切れ途切れに伝えた言葉。トーリは顔を俯ける。
ちらりと目だけで前を伺うと、ツミナがこちらを見ていた。
「私もです。ありがとうございました」
夕日が沈む、その時まで。
トーリの顔が赤かったことは、ばれなかっただろうか。
3
「何か、御用でしょうか」
微笑むツミナは、ある意味、冷静かつ恐怖の対象だった。微笑んでいるが、冷たい視線。
「勇者様ですね。その娘と面識があることを調べました。そして、外見などが一致しています。どうか、教会本部へお越しください。その娘もご一緒に。どうでしょう」
ツミナとトーリを囲む神官たちとみられる男は、ツミナへだけ話しかけた。だが、トーリを逃がすつもりもないようだ。
つまり、トーリを連れていくからツミナもついてこい、ということだ。是が非でもツミナを教会本部へ連れていきたいようだ。
ため息をついてから、一言。
「・・・わかりました。行きましょう」




