教会本部の動き
「神官長様!」
孤児院へ聖職者たちがやってきたその次の日。
教会本部内ではバタバタという足音と大きな声が響いた。
「勇者がっ、勇者が現れました!」
バァンっと扉を開いた男は、神官長、と呼ばれた男に対してそう叫んだ。
場所は神官長室。
神官長、とは神父たちの上の立場である神官の長だ。
「勇者様、ですか?」
「はい! この帝国に、勇者が現れたのです!」
言葉だけ読むと感激していうように見えるが、男の顔はそれとは裏腹に青ざめていた。
それもそのはず。昨日勇者に粗相を働いたばかりだ。勇者を本物か疑い、嘲り、侮辱した。聖職者にとって会ってはならぬことだ。
「居場所は?」
「入国門付近の教会と併設している孤児院です!」
「そうですか。報告ご苦労」
「はっ」
一礼して神官長室を去ろうとすると、呼び止められた。
「まさかとは思いますが、粗相を働いたり、してませんよね?」
「そっ、それは・・・」
背後にブリザードが見える神官長を前に、神父は全てを洗いざらい話してしまった。
1
「勇者様が現れたんですってね」
「ええ。ぜひお会いしたいわ」
「では今度、皆で教会に行きませんか?」
「それは良いですわね」
大聖堂で祈りを終えたシスターたちが小さく話している。
既にここまで勇者の存在が知られている。
シスターの話を聞いていた民たちがざわめきだす。
「ええ? 勇者様ですって!?」
「この国にいらっしゃるの!?」
「どこにいるのでしょう? 一目でもお顔を拝見したいわ」
色めき立つ民たち。それは女性も男性も例外なく。
勇者とは、女性にとっては格好いいアイドル的存在、男性にとっては強くて憧れの存在。
民たちはどこかどこかと勇者を捜索しだす。
それは、教会関係者も同じだった。
2
部屋がノックされる。神官長はどうぞ、と言って人を部屋に通す。
「失礼します。勇者様捜索についての定期報告を行いに来ました」
「ご苦労。それで、結果は?」
入ってきたのは神官。神官長直属の部下の神官だ。
「まだ見つかっておりません」
暗い空気を醸し出す神官。
そんな神官に、神官長は尋ねる。
「どうしてだ? 勇者様をお探していることは皆が知っている。皆に知らせが届くように手配もした。なのにどうして勇者様は見つからないのだ?」
「・・・もしかすると、私たちに姿を見せたくはないのかもしれませんね」
神官が答えを口にする。実はそれが真実だ。
「そんなはずはないだろう? 教会本部に来れば至れり尽くせりの待遇が待っている。幸運なことだろう?」
「そう、ですね」
神官長は自分の考えを信じて疑わないようだ。
神官は曖昧な返事をする。
(ですが皇家にも連絡がなかったことを考えればお忍びで来ている、ということ。わざわざ騒ぎ立てられたくはないのでは? 正体を見せたのは、教会本部の聖職者が粗相を働いたからである、というし・・・)
神官はその後、一礼して部屋を退出した。
そんな神官の考えは、とても的を射ていた。
3
「こちらに勇者様はいらっしゃらないか?」
ある宿に、教会本部からおくられた神官たちが来ていた。
勇者を探しているようだ。
「うーん、どうだろうね。お顔を知らないものだから、なんともいいようがないよ」
「お顔はこのようなお顔だという。見覚えは?」
宿の店主が首をひねっていると、神官が似顔絵を取り出す。
「・・・わからないねぇ。うちには顔を見せないお客さんもいらっしゃるからねぇ」
「そうか。ではその客のところに案内してくれないか。勇者様かもしれない」
「・・・お客様の許可を得たらね」
コンコン、と部屋のドアがノックされる。
「お客さん、教会から神官様が来ていてね。もしよかったら顔を見せてくれないか、って言ってるんだ」
この部屋に泊まる客、ツミナは、神官がここまで捜索にきたことに驚いていた。
(神官が自ら探しに来るとは・・・この宿を出ないといけないな・・・)
そして、ここで扉を開けるわけにはいかない。
もし開けたら、顔を見せないという選択肢は取れない。
(外は路地・・・逃げれるな)
ツミナは窓から身を乗り出し、外を確認する。
音を立てないように窓から外に出るツミナ。
「お客さん? ・・・あれ、お出かけはされてないと思ったんだがねぇ。外出中かもしれないよ」
「では他の客のところへ」
「はいはい」
ツミナは一応逃げることができた。ただ、この宿を出なければならないだろう。
(察してくれないものか。行きたくないことを)
悲しくそんな願いを思い浮かべ、ため息をついた。




