魔族・ロマ
「せっかく来てくれたんだし、子供たちと遊んでいってくれよ」
聖職者の男たちを追っ払ったあと、ランがツミナにそう言った。
「・・・ですが、あの子とここには来ない、という約束をしたので・・・」
ツミナが目を伏せる。
「そ、っか・・・」
皆の雰囲気が重くなる。皆、なんだかんだでツミナを慕っていたのだ。
「もう、その必要はない」
そこに凛とした声が響いた。
皆が振り返ると、そこには少女が。診察室から出てきたのだ。初めて出てきた少女に皆は戸惑いと心配をみせる。
「勇者、どうやらこの孤児院の皆はお前を慕っているようだ。それについては申し訳ないことをした。私のせいで教会にたてつくことになっただろう」
だが、まだ魔族を殺したことを許したわけではない、と付け加えて、少女は告げる。
「ありがとう。君が、そう言ってくれるとは思わなかった」
ツミナはそんな少女ににっこりと微笑みかける。
「ふん、許したわけじゃないから、そこだけは覚えておけ」
少女は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「大丈夫ですか? 体調や、傷は?」
「問題ない。・・・手は、傷になっていないか」
ミリアが少女に聞く。すると少女は逆にミリアの心配をした。先ほどはじいた手だ。
「手・・・ああ、大丈夫ですよ。ありがとうございます」
心配してくれたことに嬉しくなり、思わずふふ、と笑みをこぼすミリア。
ランたちは首をかしげて様子を見ている。
小さな子供たちはミリアが少女に普通に接しているのを見て、大丈夫だと判断したのか少女の方に寄っていった。
「ねぇ、はじめまして」
「あそぼ、あそぼ!」
「かくれんぼしよー」
「えー、おにごっこがいーよ」
わいわいと子供たちに囲まれた少女は戸惑ってあたふたしている。
すると、1人の女の子が少女に尋ねる。
「あなた、お名前なんていうの?」
名を聞かれたことに少し驚いて考え込む少女。
「私は・・・私はロマという」
「ロマちゃん? わかった!」
「ロマ、いっしょにあそぼー!」
「あ、ああ。承知した」
少女――ロマは子供たちと一緒に庭に出ていった。
(一応結界を張っておくか)
先ほどの聖職者の男たちがいつやってくるかわからない。物理的に入れないように結界を張るツミナ。
「彼女は、ロマ、というのですね」
ロマの名を初めて聞いたミリアが嬉しそうに頷いている。ロマとの距離が縮まったのを感じて喜んでいるのだろう。
(正式な名から抜き取ったのか)
ツミナはロマの本当の――否、正式な名前を知っている。
――――ロマエルナ
それが彼女の正式な名。父、魔王からもらった名だ。
ロマがどういう気持ちで、その名を名乗ったのかはわからない。だが、何等かの覚悟を決めたことはわかった。
「あの子、教会に追われていたんですね」
ドルが真剣な面持ちで言った。
そう、問題はそれだ。
(「力尽きただけ」、というのは嘘だったのだな。教会に追われていることを隠したかったのか?)
ツミナは前にロマと話した時に、逃走に失敗したのか、と聞いたが、ロマは力尽きた、とだけ答えた。
「彼女が追われていることを考えたら、ここにおいておくのは・・・貴方がたにとっても、危険ではないでしょうか?」
ツミナが心配そうにドルに尋ねる。
ドルは困ったようにほほんでから答えた。
「それでも、守りたいと思うのです。彼女は、まだ子供だ。何も悪いことはしていないのではないですか?」
「それは勿論」
ツミナは即答する。
「ならば、弱い者たちを守る私たちの仕事と、同じです。罪人ではないのに、罰せされるのは理不尽ですから」
ドルは強い意志のこもった瞳で言い切った。
ミリアも加勢する。
「私も同じ考えです。ロマさんを、ここで守りたい」
「神父様、シスター・ミリア・・・」
ツミナが驚いてから、ほほ笑んだ。
「あなた方には、感謝してもしきれなさそうだ。本当に、ありがとうございます。あなた方と出会えたこと、心より感謝します」
その慈愛に満ちた笑みは、全てに感謝しているようだ。ツミナの、なかの笑みを見た気がした。
「私たちの方こそ、感謝しています。貴方がいなければ、ランも、ロマさんも、守ることができなかった」
ドルが笑みで返す。
ランが私もー! と便乗し、ミリアも同じです、と告げる。
柔らかい雰囲気、優しい人々。ツミナはこのひと時が、とても大事だと思った。このような人達がいることが、とても嬉しいと思った。
1
こつ、こつ
静かな教会内に響く靴音。ツミナのものだ。
孤児院の皆と別れた後、教会によっていく、と言って別れをいった。
列になっている長椅子の間の道を通り、祭壇の前へ。ゆっくり、ゆっくりと近寄る。
祭壇の前に来ると、膝まづいて、手をくみ、祈りを捧げる。
いつまでそうしていたか、不意に目を開くツミナ。立ち上がり、前を見据える。
「俺は、あんたを許さない」
誰に、放った言葉か。わかりきったことだ。ここには、ツミナ以外、人はいない。前にあるのは像。
この世界の、女神。
女神――――アルティルーナ
彼女に放った言葉だ。
【許さない】
その言葉に、どんな重みがあるのか、誰も知らない。ツミナが、神と会ったことがあることも。誰も、知らない。




