追手
キンキン、と剣と剣がはじき合う音が朝から聞こえる。
「大丈夫、大丈夫だよ。ツミナさんが今戦ってくれてるから」
震える少女を抱きしめながら慰めるように言うトーリ。
皆、ランの指示で荷台の奥に集まって縮こまっている。
「今のところツミナはまだ余裕っぽい。安心して良さそう」
ランがちらりと布の隙間から外を見る。
「おらぁ!」
夜が明けた頃、追手がやってきて馬車を取り戻しに来たのだ。
ツミナは敵から剣を奪い戦っている。
「ふぅ」
ツミナがわざとらしくため息をつく。挑発の意味を兼ねて。意識が馬車の中にいる少女たちに向かないように。
「てめぇ」
男たちはイラついている。ツミナに男たち全員で一斉にかかってきた。
―――一閃
ただ一度だけ、剣を振るった。
それだけで、敵は倒れていく。うめき声もなく。
自分が死んだと自覚する間もなく。
(これで全てか・・・?)
あたりを見回す。
すると悲鳴が聞こえた。
「きゃぁぁ!?」
荷台の中。
「!」
目をはなした隙に入られたのか。
ツミナはすぐに荷台に入る。
「つ、ツミナ・・・」
「ランさん・・・!」
ランが男に捕まっている。
「ランちゃん!」
「トーリ、来るな!」
トーリがランに駆け寄ろうとするが、ランがそれを制する。
「その娘を放せ」
ツミナの口から、低い声が出る。
男はびくりとするが、ランを捕まえたままだ。
「っ、くっ」
男はランを捕まえたまま、荷台を飛び出す。
「待て!」
すぐにツミナは後を追おうとするが、トーリ達を置いていけない。
「っ・・・」
ランを助けに――――いけなかった。
1
「痛っ」
小さく悲鳴を上げる。
「おとなしくしてろ!」
すぐに男に怒鳴られるが。
(皆は無事、かな・・・)
ランは静かに考える。
恐らく、ツミナは自分を追ってこない。それはわかっていた。でないと皆が襲われた時に対応できない。
「くそっ、あいつのせいで予想外のことが起きたじゃねーか!」
あいつ、とはツミナのことだろう。
「ちっ、上に報告したら俺の首はとぶ! くっそ!」
文句を言い始める男。同時に突き飛ばされるラン。
「っ」
声を出すのを抑える。
「お前らが逃げたせいでもあるんだからな」
すると男の怒りの矛先がランに向く。
「お前らのせいで俺はぁ!」
拳が飛んでくる。尻もちをついた体勢からではよけることはできない。
ぎゅっと目をつぶって歯を食いしばる。
だが、痛みはやってこなかった。
「え――」
まさか、と思って目を開けると、そこには勿論――
「無事ですか? ランさん」
ツミナがいた。
2
「ランちゃん!」
ランがさらわれた。トーリはそれを理解したあとに飛び出そうとする。
「トーリさん! 落ち着いて!」
ツミナはトーリを止める。
「でも、ランちゃんが! あのまま連れていかれたら、あいつに何をされるか・・・」
おびえた様子を見せるトーリ。それほどランが心配なのだろう。
「私が行きます」
ツミナがトーリを安心させるように言った。
そこで他の少女が異議を唱える。
「でも、それじゃまたあいつらが来た時に、私たち連れていかれちゃう・・・」
「殺されるかも・・・」
おびえる少女たち。
「大丈夫です。結界を張っていきます」
「結界?」
ツミナは結界魔術の発動の為唱える。
「barrier」
床に結界が張られる。
ツミナは持っていた剣でそれを攻撃する。すると剣が易々と砕けた。
「このように、結界は物理攻撃を防ぐことができます。人も結界を張ればそこを通れない」
barrierの効果が切れる。barrierは結界魔術の初級魔術だ。もって3秒。
ツミナは次に結界魔術の上級魔術を発動させる。
「protective wall」
これは結界魔術の上級魔術。そのためbarrierよりも継続時間が長く、範囲が広くなる。
ツミナは馬車全体に結界を張る。
「これで追手が来た場合も入ることはできません」
にっこりと安心させるためにほほ笑む。
「不安かもしれませんが、ランさんは今、それ以上に不安です。どうか、その気持ちを理解してあげてください」
真剣な声音で、だが顔は柔らかく。ツミナは荷台を降りる為に布を開ける。
「トーリさん」
「は、はい」
ツミナに呼ばれて、トーリが返事をする。顔がこわばっているのは、やはり不安が勝るからと、ランのことを気遣ってか。
「ランさんは必ず連れて戻ります。なので、馬車をお願いします」
「わかりました。・・・ランちゃんを、助けてあげてください!」
トーリが頭を下げる。
ツミナはうなずいて、荷台を降りた。
3
それからランを追ってきたところ、ランが襲われそうになっていたらので助けに入った、というわけだ。
「おっ、おまえっ」
男はツミナが来たことに動揺を隠せない。トーリたちをおいてくるとは思わなかったのだろう。
「覚悟は、できているだろうな」
ツミナは先ほどとは打って変わって低い声を出す。
「っ、くぅっ」
男は走り出す。ツミナに勝てないことはわかっているから、逃げるのだ。
「逃がすわけないだろう」
ツミナは〖聖弾〗を出して1発、男に向けて放つ。
パァン
銃声が響いたあと、どさっと人が倒れる音。
男は血を流して倒れた。
「つ、ツミナ、どうしてここに・・・皆は!?」
ランが慌てたように皆の安否を問う。
「結界魔術を張ってある。問題ない」
ツミナはまだ気を張っているようだ。優しい声音も、言葉遣いも忘れている。
ツミナは男に近寄り、胸元をあさる。何か、奴隷商会についての手がかりがないか探すのだ。
そして何もないことを確認する。
「そうか」
ランはほっとしたように息をつく。
「さ、戻りましょうか」
ツミナは口調を戻して、ランに言った。




