2人の少女
「私はトーリと言います。仕事を終えて帰ろうとした所、後ろからきた人に抑えられて、お腹を殴られた後、起きたらここに・・・」
そう話すのは男に捕まり、短剣でのどを斬られた少女だ。トーリは背中あたりまである髪を一つに結んだおとなしそうな子だ。
「私はラン。孤児院に住んでて、おつかい頼まれた帰りに、同じように背後から掴まれて殴られて。気づいたらここだった」
ランはトーリが捕まったときに男に怒鳴っていた少女だ。耳の下で綺麗に切りそろえられたショートカットの少女。
奴隷商人に捕まるくらいだから、トーリとランは顔が整っている。トーリは保護欲のそそられる可愛い顔たち。ランははっきりとした顔たちの美人だ。目が少しきつそうに見えないこともない。
「トーリさんとランさん、ですか。お二人は元々の知り合いでは・・・」
「ないな。ここで初めて会った」
「そうですか」
ツミナの質問に答えたのはランだ。ランはツミナに対してため口だ。トーリは敬語。
「では、どこの国出身かわかりますか?」
「あ、私はマリ帝国出身です」
「同じく」
出身地は同じのようだ。
マリ帝国は産業が盛んだ。主に稲の生産が中心となっている。
「マリ帝国・・・法国はあちらだとすると、帝国はどちらですか?」
「そりゃぁ法国とは逆だからこっちだ」
ランは法国と逆の方向を指して言う。
「そうですか。わかりました。とりあえず帝国までこの馬車を運びましょう」
「あんた、馬、操れるのか?」
「乗ったことはあるので・・・何とかなるんじゃないですかね」
あはは、と能天気にツミナは笑った。
1
馬車には男たちの食料、とみられるものがあった。パンが主においてある。
「食べます?」
「ああ」
「いただきます」
今の所、起きているのはトーリとランだけ。他の子はまだ眠ったままだ。手足の枷は剣できったのでついてはいない。
もしかすると、殴られた以外の方法で眠らされたのかもしれない。
「ツミナさんはお強いんですね・・・」
「それに、銃なんて個人が持てる品物じゃない」
トーリは感心、ランは疑う様子を見せている。
「旅をする為に鍛えましたので。銃は譲りものですよ」
ある意味嘘は言っていない。魔王討伐の旅の為に体を鍛えたし、銃や他の勇者の武器・聖具も先代勇者からの譲りものだ。
「トーリさんは既にお仕事をされていたんですよね。どのようなお仕事を?」
「あ、私はパン屋で働かせてもらっていて・・・両親がいない分、皆さん良くしてくださっていて・・・」
「そうだったんですか」
話をしていると、急にトーリが泣き出した。
「うっ、ううっ。私、急にいなくなって、仕事も無断欠勤してしまっているし・・・皆さんにご迷惑をおかけしているのでは・・・ぐすっ」
知り合いを思い出して泣いているようだ。
ランが慌てている。
「お、おいおい、またかよ・・・。泣くなって」
その時、ツミナが手を伸ばす。
「トーリさんは良い人なんですね。けれど、今回くらいは自分の身を労わってもいいのではないですか?」
ツミナがトーリの頭をなでる。
「つ、ツミナさん・・・ぐすっ、ありがとう、ございます・・・」
トーリは少し頬を赤らめてうつむいた。涙は止まったようだ。
「・・・あんた、新手の詐欺師か?」
「失礼な。いたって普通の慰め方ですよ」
「その顔でやんなってことだろ」
ランに詐欺師と言われてツミナが苦笑する。ランがツミナの顔を恨めしそうに見る。ツミナの顔も整っていて美形だ。美形の顔で、その台詞を言った結果モテる、という事態が発生する、とランは突っ込む。
「ランさんは孤児院にいらっしゃったと言っていましたね。孤児院は帝国のどこにあるかわかりますか?」
「ああ。入国門の近くだ」
孤児院は教会とつながっているらしい。孤児院の隣が教会だそうだ。
「教会と・・・」
ツミナがランに気づかれない程度に少し顔をしかめる。
「ツミナは私らを帝国に引き渡した後どうするんだ? 帝国にいるのか?」
「そうですね。少しの間帝国にいようかと思います」
「なら孤児院に来ないか? 無料で泊まれるよ」
ランが孤児院に来ないかと提案してくる。確かに、無料で泊まれるのは嬉しい。
「・・・では、お邪魔させていただいても?」
「ああ。いいよ」
ツミナが了承すると、ランは嬉しそうに頷いた。
(リアが教会に手を回していなければいいんだが・・・)
ただ、《聖女》リアによってツミナの情報が教会に流れていないかどうかが心配だった。




