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勇者の称号を得た者が役目を終えてからのお話  作者: AMITOA
~裏切りの騎士~
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離れた距離

 戦争が始まった瞬間、終わったこの日。そもそも、戦争は始まっていなかったといえる。

 一応この日は野営することに。


「ツミナ、お疲れ。交代の時間だ」

「イルナー。そうか」


ツミナはイルナーとカラーディナのテント前の見張りを交代する。

 だが、ツミナはテントに行くのはではなく、森へ向かう。


「ツミナ?」

「少し、散歩してくるだけさ」


その表情は暗い夜の為見えなかった。イルナーは特にツミナを止めることはしなかった。



 〖聖剣〗によって刻まれた地面。谷となったその下は奈落の底だ。

 落ちる寸前の場所に来て、立ち止まるツミナ。

 しばらくその場で目を閉じてじっとしていた。


(戦争を止めることに必要だったとはいえ、自然破壊してしまうとは、あまり良くなかった・・・)


少し後悔の念を抱いているツミナ。

 すると向こう側に人影が。


「お久しぶりですね」


明かりが近づいてくるのが見える。

 だが、姿が見えなくともわかった。声だけで。


「ええ、お久しぶりです。殿下」


優雅に一礼する。見えているかは、わからない。


「ツミナさん。今日の活躍、見事でしたよ」

「光栄です。シュイーツ殿下」


それは元・主である王国の王女・シュイーツ。


「お元気そうで、何よりです」

「そちらも。それと、今は主従関係ではありませんし、殿下でなくても結構ですわ」

「では、シュイーツさん」


微笑みを交わす。


「今は、法国にいらっしゃるのですか」

「・・・はい。全く、どこにいっても王女様や女王様は強引ですね」

「ふふ。だろうとは思いました」


会話が少し続く。


「イザベラさんはお元気ですか?」

「ええ。立派に仕事を果たしてくれています」

「そうでしたか。一度手合わせしてみたいですね」

「全力で断られると思いますよ」


確かに、自分では相手にならないからと断られそうだ。と考えるツミナ。2人で笑いあう。


「王国の民に、怪我を、追わせてしまったのではないですか?」

「貴方が負わせたのではありません。それに、死人は幸い、出ていないので」

「そう、ですか」


死人がいない、と聞いて少し安心する。

 会話をしていても、2人の間はぽっかりと空く地面に阻まれている。


「カラーディナ陛下の護衛をなさっているのですか?」

「はい。カラーディナ陛下の騎士をしています」


表情に影が落ちた。

 知り合いが自分を狙っていた相手を護衛しているのだ。その反応になるのもおかしくはない。


「仮にも貴方の護衛であったというのに、申し訳ありません」

「いいえ。それを私が決める権利はありませんから」


ツミナの人生に口出しする気はない。いや、できない、とシュイーツは言う。


「ああ、このような時でなければ、貴方に触れることができたかもしれませんね」


シュイーツが不意に言葉を漏らす。


「シュイーツさん・・・」

「ずっと、貴方のことが頭から離れませんでした。さようならをしたはずなのに、未練がましい女で、すみません」

「そのようなことはっ」

「また帰ってきてくれるという言葉を、いつまでも、信じています。ずるい言い方で、すみません。ですが、私は・・・」


言葉を続けようとして、シュイーツは止めた。


「これは、帰ってきてくださったときに、いうことにします」

「・・・わかりました。必ず」


それを最後に、シュイーツは去っていった。



「殿下!」


 シュイーツが王国のテントの方へ戻ると、イザベラが声をかけてきた。


「急にいなくなられると困りますっ」

「すみません。つい」

「ついじゃありませ――」


ありません、と言おうとして、イザベラは言葉に詰まる。

 理由は――


「シュイーツ殿下、どうか、なさいましたか・・・?」

「え?」


シュイーツが自分の頬に手を当てる。

 冷たい物が、手に当たった。


「涙・・・」

「殿下、やはりお休みになってください。お仕事は後で良いので」


イザベラがシュイーツの身を慮って告げる。


「いいえ、大丈夫。ありがとう」


シュイーツは安心させるように笑って、そう言った。



 シュイーツが去ったのを見て、ツミナは()()()()()


「こんな場所まで、どうしたのですか」


少し離れた後ろに立っている人物に、振り返らず声をかけた。


「気づいて、ましたか・・・」


そこにいたのはナツナだった。


「王国とつながっていたのですか」


だが、次の瞬間、ナツナの声が鋭くなる。まだ王国を敵と認識しているらしい。


「つながっていた、ですか? 関係はカラーディナ陛下も承知の上でしたが」


カラーディナもツミナがシュイーツの護衛をしていたことを知っている。


「王国の為に戦争を止めたのですか。勇者にまで言って」


ナツナの責めるような声。

 ツミナはナツナに近寄る。


「王国の為? そんなもの関係ない。私が止めたいと思ったから止めた。それだけです」

「先ほどの人、ツミナさんの大事な人なんじゃないですか。仲よさげでしたが。だからではないのですか?」


ナツナの発言から、シュイーツが王女だということはばれていないとみていい。ツミナがシュイーツと恋仲だと思っているらしい。


「何を勘違いしているかは知りませんが、私は自分がすべきことをしただけです」

「すべきこと? 貴方がすべきことは陛下の騎士として陛下の身を守りながら戦うことではないのですか! それを――」


そこでナツナが発言を止める。

 ツミナが殺気を含ませながら睨んだからだ。


「私が今回果たした責務は陛下の騎士としてではない」

「では何の責務ですかっ!」


ナツナは震える体に鞭打って発言する。

 ツミナが答えるかどうか迷っていると、ナツナが追い打ちをかける。


「答えられないんですか? 陛下の騎士より大事な仕事なんてあるわけありません!」


声を荒げるナツナに、1つ、言った。


「サクラはこんな奴を弟子にしたのか?」


その一言に、ナツナが固まる。


「どう、し、て・・・」

「お前が言っていた師匠とやらは《剣豪》サクラのことだろう。『連続(continuous)(sword)』はサクラの技だしな」

「し、師匠のことなんて知らないくせに!」

「よく知っているさ」


また一歩、ナツナに近寄って、耳元で囁く。


「―――だからな」


その言葉を聞いたナツナはその場にへたり込んだ。

 そんなナツナを放って、ツミナはその場を去った。

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