刻まれた隙間
「「ここに、戦争開始を宣言する!」」
両国の王が、戦争することを宣言した。
平野の端にいた両国兵士たちが真ん中へと走っていく。
それを、ツミナはワーナー平野を一目で見渡せる、崖から見下ろしていた。
1
両国の王が宣言し合っている所を、ツミナは聞きながら森の中を歩いていた。
(少し急ぐか)
ツミナは一度歩みを止め、馴染みのある、あるものを呼ぶ。
「〖聖鎧〗」
すると、ツミナの体が一瞬にして、鎧で覆われた。シンプルな銀色が主な色だが、綺麗な彩色が施されている。
「久しぶりだな」
鎧とセットの顔を覆う兜も装着されている。勇者時代は、顔がばれないようにするため外に出るときは必ず着用していた。
「さ、行くか」
そして、そのまま一度地面を蹴って崖のところまで移動した。
2
「この戦争に、異議申し立てる!!」
戦場に似つかわしくない、凛とした綺麗な声が通った。
その声は、平野にいる皆の耳に届いた。皆は声の主を振り返る。
「あれは・・・」
「どうしてこのような場に――」
ざわざわと騒めきが起こる。
振り返った主は、崖の上いる。
その鎧と風格を見れば、誰であるかは一目瞭然だった。
「勇者よ!! 何故この戦争に異議を申す!?」
そしてその彼に反論するものも、確かいる。カラーディナだ。彼女はこの戦争を待ち望んでいたのだから。
「戦争など下らない殺し合いにすぎぬ! 魔王という脅威が去った中、何故人間同士で戦うのだ! 私が戦った意味とは何なのだ!!」
勇者としては当たり前の主張だ。勇者は魔物、魔王という脅威があるため、戦っていた。そうすれば世界が平和になるのだからと。そう言われ続けて。だが、人間同士が戦争を続けていたら、それは平和とは言わない。結局、平和の為に戦った勇者、自分は何なのだと。
「っ、これは法国と王国の問題だ! 勇者が口を挟むでない!」
そう言われては反論できないカラーディナだったが、勇者は関係ない、と苦し紛れの言い訳を言い放つ。
「法国と王国? 何を言っている! これは法国の女王、貴方自身の問題でしかない! 国を巻き込んだだけだろう! 一個人の問題をな!」
どこかでそうだとわかっていたカラーディナ。言葉に詰まる。
そしてもう勇者に構う時間はない、と勇者の主張を無視した。
「兵士たちよ! 早くいかぬか! 王国を滅ぼすのだ!」
自身の兵たちに語り掛ける。
だが、法国の兵も戸惑う。勇者とは王と同等、いや、下手をするとそれ以上に大きな存在だ。
「っ、何をしている!」
だが、王に逆らう訳にもいかない。
「う、うおおおお!」
一人の兵士が声を上げて走り出す。他の者もそれに続いた。
(チッ、最終手段だ!)
話して通じなかった場合も、一応は考えてあった。一番使いたくない手だが。
「そちらが話に応じないのなら、こちらも力づくで止めさせてもらう!!」
そう叫んで、手を伸ばす。
「〖聖剣〗!」
〖聖剣〗を呼び出す。
綺麗な金色を煌めかせ、浮かび上がっている魔術式。
誰もが驚きを隠せない。
「勇者よっ、それを人に使うのか!?」
〖聖剣〗の威力は果てしない。人など一瞬にして消え去ってしまう。
皆が恐怖する。
「我に力を、力は我に。『天』」
〖聖剣〗だけが扱うことができる技。『天』。
聖剣から出た光は空、天さえも越えて、真っすぐ伸びている。そして、〖聖剣〗を振りかざすと、そのまま光の線はついてきて。地面を、2つに割いた。
「え・・・」
「じ、地面が・・・」
「真っ二つに・・・」
皆が驚いて騒ぎ出す。
「これを越えて見せるというものはどうぞ、戦争を始めてくれて構わない。越えられるのなら、ね」
ツミナが皆に言い放つ。
当然ながらこの谷となったところを越えられるわけがない。飛び越えられる距離ではないし、落ちたら命はないだろう。
「これにて、戦争を中止する。延期するのではない。中止する!」
すると口を開いた人物がいた。
王国の王・ベールドだ。
「ご理解、感謝する」
ツミナはそれだけ言って、森へと消えていった。
3
「認めぬ!!」
法国のテントに戻ると、カラーディナの怒鳴り声が聞こえた。
「失礼します」
ツミナはそれを気にも留めずにテント内に入った。
中にはカラーディナとイルナー、それに3人の将軍たち、ルルー、ヴァル、ナツナがいた。
「あ、ツミナさん」
ルルーが気づき声をかけてくる。
カラーディナもツミナの存在に気づく。
「ツミナよ、これで満足か? お前は戦争を嫌がっていたからな。なくなって清々したか!?」
誰がどうみても八つ当たりだった。
だが確かに、戦争を止めたのはツミナ、勇者だった。
「ええ、勿論です」
そしてツミナはカラーディナの怒りという油に火を注いだ。
「ツミナっ!」
イルナーがツミナをとがめる。
「これまで準備してきたのだ! ずっとだ! 父を失ったあの日から!」
とがめたところでもう遅い。カラーディナの怒り、憎悪はツミナに向いてゆく。
「其方だろう!? 勇者を呼んだのはっ」
何の根拠もないでたらめだった。
「陛下っ、そのようなことは・・・」
「そうです、ツミナさんは何も」
「言いがかりにもほどがあるぞ」
「言い過ぎです」
そしてその場にいる全員からとがめられるカラーディナ。
「その通りですよ、陛下。勇者があの場にいたのは私の差し金です」
ツミナの一言で状況は更に悪化する。
イルナーやルルー、ヴァル、ナツナももうかばいきれない。
「つ、ツミナ? はったり、だよな?」
イルナーがツミナに聞く。嘘であってほしい、と願っているのだ。
「いや。本当だ」
ツミナはそんなイルナーの期待を裏切る。
「ツミナぁっ!!!」
そこまで黙っていたカラーディナがツミナに襲い掛かる。
皆が止める間もなく。
ガツッ
拳の音が鳴る。
ツミナは殴られていた。おとなしく。
カラーディナは逆に防がれなかったことに驚いている。
「殴ればいい。貴方のほとぼりが冷めるまで」
ツミナがカラーディナに言った。それは、とても優しい眼だった。
「っ・・・」
カラーディナの瞳から涙が落ちた。
そのまま、崩れ落ちるカラーディナ。
「我は、ただ、復讐したかった。父を奪ったものに。全てを持っているものに。悔しかった。誰も悪くないと、わかっていた。しいて言うなら、父本人が悪かったのだ」
自分でもわかっていた。納得できなかっただけで。そう、カラーディナはこぼす。
「でも、誰かにその悔しさを向けないと、私は生きていけなかった。辛かった」
王としての立場をすて、死んだ父の娘として語るカラーディナ。
「そして、それに他人を巻き込んだ。勇者の言う通りだ」
泣きながら話す。
地面に手をついて。
「ツミナよ、悪かった。怪我を、させた」
涙をぬぐって立ち上がる。
そしてツミナの頬に手を伸ばす。
「大丈夫です。healing」
ツミナは自分にhealingをかける。
「これから、やり直す時間はいくらでもある」
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