護衛のお誘い
今回は少し長い文となっています。
ツミナは買い物を済ませ大通りを歩いていた。
大勢の人でにぎわうこの通りを見れば、平和でいい国に見えるだろう。
が、実質は違う。路地裏をちらりと除くだけでわかる。スラム地域と呼ばれるようなところがゴロゴロとある、まだまだ平和ではない。人同士の問題だ。掏らⅯでは奴隷にされるところも多いし、人さらいに会うこともあり、迷い込めばもうおしまいだ。
ツミナはそんな中に一人入っていく。路地裏の道を進み、そのまま奥へと言ってからふと立ち止まる。すると脳内に声が降ってきた。
《ツミナ君っ、やばい。まじでごめん! 皆を止められなかった。あっ、切るねっ》
ずっとコールがかかっていたのでなんだと思っていたのだが。
これは電話のようなものだ。今は魔力をつなげることで意思疎通を図るものでとても便利なものだ。当人同士が同意して入ればいつでも可能だ。ただ、相手が要請に応えたときに限る。
「ララ? それって――」
コールが切れた。もう相手とはつながっていない。
「ララ」というのは紛れもなく《神弓》ララのことだ。「皆」、それをさすのは――。
(もうばれたのか。はやいな。ここも早くおさらばしないといけないのかも)
遠くを見つめてため息をついたその時だった。
「やめてっ! 誰かっ、助けてー!!」
悲鳴が聞こえた。
とっさに反応して体が動き、悲鳴の方へ駆け寄る。
(あ、癖でつい来てしまった)
ツミナが自分で気づいたときには素手に近くにいた。姿が見えない死角にいたが。
「っ、放してっ!」
「へへへっ、いくら叫んでも無駄さ。ここはスラム。人もいねぇ。それに、あんたまぁまぁ顔がいい。いい値で売れるぜ」
「私を奴隷として売る気ですか!? 無礼者!」
「その口調、どっかのお嬢様みたいだな。はははは!」
壁に押し付けられ捕まっている15、6歳の女と、それを行う男。
おそらく男は奴隷商人かその手下であろう。
「だが、俺がそこでやっても誰も文句はねぇよな」
彼女の顔をじっとりと見つめながら男がつぶやく。その言葉に反応して彼女がびくりと体を震わせる。その反応を面白がるように、男が彼女に顔を近づけて―――
バシッ
そこへ男の顔が揺れる。
頭を押さえて態勢を崩す男。
彼女への力が弱まったところで、彼女の手は何者かにひかれる。
「キャっ、」
彼女はそう小さくつぶやいたが、おとなしくひかれる手に従い、走り出した。
1
「はぁっ、はぁっ」
彼女が息切れをしてきたところでツミナは立ち止まる。そう、勿論、彼女の手を引いてきたのはツミナだ。
そして手を放す。追手がいなことを確認して彼女に声をかけた。
「大丈夫ですか? すみません。貴方の意思を確認せずに引っ張ってきてしまって・・・」
息を整える為、膝に手をついて休息をとる彼女がパッと顔を上げた。
「いえっ、助けていただいて感謝します。私は――――」
そう言いかけて彼女は口をつぐんだ。
「別に言わなくてもいいんですよ。私も名乗りませんから」
そんな彼女にツミナは優しくほほ笑む。
「あ、ありがとうございます」
気遣ってくれたことに感謝を表した彼女。
「さぁ、すぐに大通りへ出ましょう。もうすぐのはずです」
ツミナは彼女にそう言って前を歩き出す。
地図を既に確認済みなので抜け道は把握している。
彼女はツミナに従い、後ろをついていった。
大通りに出るとにぎわった人たちにあふれかえる姿がまた現れた。
ほっと胸をなでおろす彼女。
「家がどこかはわかりますか?」
ツミナが彼女に問う。
「え、ええ。わかります」
「では、行きましょうか」
「で、ですがっ、・・・」
彼女が困った顔をする。
「ああ、すみません。名前も隠さなきゃいけない身分なのに家までついていっちゃいけませんよね・・・。すみません、差し出がましいことを」
しゅん、と犬が耳を垂れたような顔をするツミナを見て、彼女はわたわたする。
「そ、そんなことは! いえ、その・・・すみません。ついてきてください」
彼女は諦めたように歩き出した。
2
彼女は道の途中、口を開く。
「この大通りをみていると、平和そのものですのに・・・」
それはツミナに語り掛けたものかはわからない。
「そうですね」
ツミナは相槌を打つように返事をする。
「スラム・・・あそこにいる人たちは、どうなるんでしょう。私みたいに、迷い込んだ人もいるでしょうに」
「どうなるんでしょうね」
言葉を濁すツミナ。はっきり答えてくれない彼に、彼女は口をつぐむ。
そして次の瞬間、また口をあけた。
「どうしたら、いいと思いますかっ・・・?」
思い切って問う彼女。
「それは、私に聞くことではないと思います。貴方の立場がどうであれ、私にはどうにもできないことですから。変えるのは、貴方です」
口調はやわらかいが、人に意見を求めるな、と言われているようで言葉に詰まる彼女。
「まぁ、貴方の年ならまだ大丈夫です。大人に任せていれば、おそらくは、ね」
最後の言葉に疑問を感じながら、彼女は億適地、つまり家にたどり着いた。
立ち止まる彼女。
「つ、つきました」
彼女は顔をうつむけて小さく言った。
「の、ようですね。では、私の役目はここまでです。さようなら」
その言葉にパッと顔をはじかせる彼女。
ツミナは背を向けようとしている。
「ま、待って!」
彼女が静止の言葉をかけた。
動きをとめるツミナ。
「お、驚かないんですか・・・?」
彼女は上、家をみつめてツミナに問う。
そこには、大きくそびえたつ、王国の城があった―――。
3
がちゃり、とドアがあく。
「お待たせしました」
入ってきたのは綺麗なドレスに身を包んだ女性。
「いえ。・・・改めまして、お目にかかれて光栄に存じます。王国第一王女、シュイーツ殿下」
そう、彼女の名はシュイーツ・ビ・リンデル。リンデル王国の第一王女である。
「・・・どうぞ。おかけになって。あと、貴方たちは出ていって」
部屋からでろと明示された殿下付きの侍女たちはおとなしく命令に従い退出した。
「んんっ。改めまして、こんにちは。一応自己紹介をしておきますわ。リンデル王国第一王女、シュイーツ・ビ・リンデルと申します。以後お見知りおきを。それで、貴方の名は?」
名を名乗るように求められて、ツミナは名を名乗る。
「旅をしております、ツミナというものです」
軽く会釈をしてからにっこりと微笑む。
その名を聞いてシュイーツの顔がピクリと反応する。
「ほう。「ツミナ」ですか。そういえば、聖国で生まれた勇者も同じ名でしたね」
にやにやと顔を緩ませながらツミナを見るシュイーツ。
「たまたま同名なだけでして。よく言われます。ははは」
それでもツミナは態度を変えずに笑っている。
「あなたが本人ではないのですか?」
「・・・シュイーツ殿下は勇者様と会ったことがおありなのですよね? でしたら、私と同一人物かはおのずとわかるはずです」
余裕を崩さずに受け答えするツミナ。
そういわれて、シュイーツは記憶をたどる。
4
「お初にお目にかかります、ベールド国王様、そしてシュイーツ王女殿下。私は聖国の勇者、ツミナと申します」
「リアとです」
「サクラと申します」
「ララです」
「ユキネ、といいます」
兜をかぶった勇者から順にそれぞれに紹介を終える勇者パーティーのメンバー。
「こちらこそ、訪問、うれしく思う。堅苦しい挨拶は終わりにして、長旅、お疲れのはずだ。部屋を用意してありますので、休まれてください」
王がそういって侍女やメイドに案内を任せる。
「では、失礼します」
勇者・ツミナがそう言って他の四人も身をひるがえしていく。
シュイーツがそこで勇者に抱いた感情は、ただただ無機質な声に、何か抜けたような寂しさだった。
5
ハッと我に帰るシュイーツ。
前ではツミナがにこにこ微笑んでいる。
「し、失礼しましたわ。・・・まぁ、確かにあなたとは正反対だったかと思われますわね」
今のツミナはニコニコと微笑んでいる気の抜けた人だ。
こんな人が勇者、といわれてもピンとこないので誰でも同じだ。
「いえいえ。わかっていただければ結構です」
「・・・それで、ですわ。救っていただいたお礼に、貴方に褒美を差し上げたく存じます」
「褒美、ですか」
一瞬ぽかんとするツミナ。
「褒美だなんて恐れ多い。それまでのことはしておりませんよ。潔く辞退させていただきます」
「私の褒美はいらないと」
「・・・いえ、そういうわけではありませんが」
王族というのは難儀なものだ。下の者は彼あらの指示に抗えない。
「ですわよね。よかったわ」
にっこりと微笑む。この人に関しては撤回しておこう。
「さ、褒美はあとにして私、貴方におねがいしたいことがございますの」
そう切り出したところでツミナはわかっていた。「お願い」だが、断る権利はない「命令」なのだと。
「あなたに、私の護衛をしてほしいの」
「・・・・・・は?」
その瞬間、頭が真っ白になった。
「護衛、ですか。私がでずとも、もっと他にたくさん頼りになる方がいらっしゃるはずですが・・・」
正直、面倒くさい。それがツミナの本音だった。やっと勇者の役目を終えてのんびり旅をしようとおもっていたところにまた仕事。
「いいえ、肝心の時にいなければ意味がありませんの」
そういったって嫌なものは嫌だ。
「・・・保留にしていただきたいのですが、よろしいですか」
「・・・わかりました。いいお返事、期待しておりますわ」
保留を了承され、ツミナは一安心。とりあえず護衛はその間免れるわけだ。
これからのことを考え、頭を抱えたくなるツミナだった。
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