学園祭
いつもよりにぎやかな学園内を歩くツミナは、生徒の生き生きとした顔を見ながら、少し満足げだった。
ツミナには学園に通った経験がない。勇者として鍛えていたため、学園の勉強などは必要なかった。勇者とではレベルが違い過ぎるのだ。代わりに、ツミナには優秀な師がつけられていた。
「あ、ツミナ先生! 今試食できますよ!」
するとある女生徒に話しかけられた。
「本当ですか? 興味がありますね」
ツミナはニコニコしながら呼ばれた方へと向かった。
1
学園祭となれば忙しいのは生徒たちだけではない。教師たちも同様だ。特に管理が難しくなり忙しさが増す。更には学園祭の費用をすべて学園が出し、物品も学園が用意しているので慌ただしさは尋常ではない。
「これどこから請求来てましたっけ!?」
「それは学問分野のダンムくんから――」
「商会から取り寄せた者ですが請求書が来てます! 学園長、許可を!」
「まて、こっちも今は手が離せない!」
ツミナが教員室に入るとこの慌ただしい会話。耳がキーンとなりそうだ。
「あ、ツミナ先生! 荷物、届いてましたか?」
「ええ。準備室まで運んでおきました」
「ありがとうございます。それで、こっちの資料なんですが・・・」
ツミナもあわただしさの渦に巻かれて、宿に帰る時間はなかった。
2
学園祭当日は、思ったよりも早く感じられた。
「い、いよいよですよ・・・」
「はい、そうですね。忙しさの本番です・・・」
学園の門が開かれる直前、他の教師らがそんな話をしている。
そして開かれる門――。
王都の人々が押し寄せてくる、学園きっての忙しさになりそうだ。
3
シュイーツは特にやることもなく学園の屋台を見て回っていた。やることがない、というか、見て回るのがシュイーツの仕事なのだが。
「にぎやかですね。ふふ、毎年のことですが」
「そうなんですね」
シュイーツの言葉にイザベラが返事をする。
「イザベラさんは学園祭、初めてですか?」
「はい。この学園に来たこと自体初めてだったので」
イザベラは王都ではなく普通の学園に通っていた。普通、といってもやっていることは変わらない。王都のこの学園の方が幾分か設備の良いだけだ。
「私は小さい頃から来ていましたね。私の楽しみの一つです」
にこやかに微笑みながら視線を左右にさまよわせるシュイーツ。イザベラは主がそんなことをいうのは珍しいので、学園祭に少し興味がわいてきた。
4
ツミナは自分の仕事が終わったので学園祭を見て回っていた。トラブルを抑える意味もあるのだが。他の教師は仕事中。ツミナのやることなすことが早すぎるのだ。
(まさか学園祭をみることになるとは思いませんでした)
まず王都にここまでとどまる気がなかったのだが、シュイーツの護衛をやることになって見れたものもたくさんある。
(この点は殿下に感謝ですね)
少し笑みがこぼれるツミナ。
今ツミナがいるのは魔術棟のあたりだ。普段来ることも少ない所だが、知り合いは一応いる、というか知り合いでなくてもツミナは有名なので顔は知れている。
「あ、せんせー!」
するとそこへ、ツミナの近くに走り寄ってくる人影が。
「こんにちは、キャミラさん」
イアリの妹、キャミラである。
「やっほー。今日は会えないかと思ってたけど、こっち来てたんだ、先生」
「ええ。興味があったのでよってみました」
「あ、うちの店こっちだよ。きてよー、せんせー」
「ぜひ」
にこにこと会話をする2人。
そしてツミナはキャミラに連れられて、彼女らが行う屋台の方へと向かった。
5
こそこそと会話がなされる。
「あれって剣術分野のツミナ先生じゃない?」
「えっ、なんでこっちに!?」
「ラッキーじゃない? あー、話しかけたいけど・・・」
そんな会話。なぜ彼女らがツミナに話しかけないかというと・・・
「ね? すごいでしょ。うちの店」
「ええ。とてもにぎやかですし、おいしそうですね」
ツミナの横にキャミラがいるからだ。一応彼女らは平民の為、貴族のキャミラには気を使わないといけない。
「あ、エナちゃん! こっちこっち!」
その時、誰かを見つけたキャミラが人を呼ぶ。
そしてキャミラは近づいてきた人を紹介する。
「せんせ、この子は友達のエナちゃん。魔術分野の子だよ」
「エナさん、ですか。こんにちは」
近づいてきた彼女の顔を見て、ツミナは王都へ来た直後のことを思い出す。
「こ、こんにちはっ。あ、あの、エナです。・・・以前、お会いしたの、覚えて、いますか・・・?」
そこの言葉でツミナは確信を持つ。
「勿論。確か、ここの入学式の日にお会いしたかたですよね」
「はっ、はい! 覚えていてくださったんですね」
ほっとした顔をするエナ。
「あれ、知り合い?」
キャミラが話に入ってくる。
「うん、入学式の時に道に迷ってたところを助けてもらったの」
エナがキャミラに説明する。
「そうなんだ」
「まさかあの時は先生だとは思わずに・・・」
その後教師になると決まったからなぁ、とのんきに思うツミナだった。




