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精霊戦記フルミニス  作者: 師走
第三章 水の精霊
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VSアクエリアス 1

 放課後、霊子駆動(スピリット・ギア)格納庫に呼び出されたコウは、まず藍川から一着のパイロット

スーツをコウに渡された。


「先生。これは?」

「そいつはお前用のパイロットスーツだ。多分フルメルから聞いてると思うが、基本的にパイロットはこれを着用する。魔法の反動を軽減するためにな。今後お前がフルミニスを操縦することになる。そいつを着て、他の魔法も完璧に扱えるように訓練しとけよ」


 コウは渡されたスーツをジッと見つめる。


「つまり、このスーツを着れば魔法が使い放題になる、そういう事ですか?」

「んなわけあるか! それは反動を軽減するだけのものだよ!」


 全く自分の言っていることを理解してくれない教え子を、思わず怒鳴りつけた。


「すいません」

「先に説明しとくけどな、魔法を使った後は、必ず十秒以上のインターバルを置いて、呼吸を落ち着かせろ」

「でも、気を抜くとやられませんか?」

「そのための精霊だろ。パイロットの操縦はあくまで精霊の戦いをサポートするものだ。出しゃばってバランスを乱せば、それが命取りになる」

「……分かりました」

「まあお前は、開発整備科の授業と並行で訓練するわけだから、大変だとは思うががんばれよ」

「はい」


「でも、何で転科しなかったんだ?」


 コウはパイロットになるにあたって、開発整備科から、兵士を育てる機兵科への転科を進められた。しかし、コウはそれを拒否して、開発整備科に残ったのだ。


「俺はかっこ仮、みたいなので。それに、今から機兵科に入りなおすと、一から面倒な基礎訓練をやらされそうだから」

「まあ、お前からしたら既にやってることだもんな」


 樫宮高校に入る前に受けた訓練をもう一度やるのは合理的ではない。コウはそう判断したのだ。


「じゃあ、俺はそろそろ」


 コウがその場を立ち去ろうとしたその時、格納庫に何かが運ばれてきた。

 兵器の運搬用のキャリアカーに乗せられていたのは、人型の黒い金属の物体、霊機核であった。


「あれは開発中の新型機だ」

 コウがそれをボーっと眺めているのに、気付いた藍川が解説を入れた。


「霊機核を作る技術はないんじゃありませんでした?」

「その通り。だからあれは霊機核とは呼べないような劣化品だ。だからそれをカバーする装備を開発して実用化を図っているってわけだ」


 それを聞いてふと、以前仁や藍川がしていた話を思い出した。


「……ひょっとして、今度パイロットの選考会を行う新型ってあれのことですか?」

「そうだ。まあ既にフルミニスのパイロットたるお前には関係ない話だけどな」

「そうですね」

『コウ。そろそろ行くわよ』

「ああ。悪い。それじゃあ先生、俺はこれで」

「おう。じゃあな」


 藍川と別れ、霊子駆動(スピリット・ギア)用の武装が並ぶ通路を抜け、フルミニスが格納されているエリアにやってきた。

 そこには神機外装が取り外され、霊機核だけの状態のものが二台設置されている。


「……どっちがフルミニスだ?」

『右側の奴よ』


 フルメルに言われ、右側に置かれた霊機核を見る。

 灰色の金属でできた無骨な人型の機体。しかし、腕や脚の関節、体の形状などは金属でできた人体模型といっても差支えないほどで、人体を模して造られたというのが改めて分かる。


 しかし、感心しつつも、二つの霊機核を見比べても、コウにはその違いがさっぱり分からない。


「どうやって見分けてるんだ?」

疑似筋繊維(メガロファイバー)の太さとか量とかは多少違うでしょうけど、目で見てわかるほどの違いわないわね。内部の霊子回路は見えないし』

「ならどうやって分かったんだ」

『あれ』


 フルメルは画面越しに、フルミニスを、正確にはフルミニスを囲む背の低い鉄柵を指さした。

 鉄柵はコウの身長の半分くらいの高さで、そこにつけられたプレートにはこう書かれていた。


「『Fluminis(フルミニス)』……なるほどな」


 ラテン語の文字を読み上げて、納得したように呟いた。


『多分、ここのほとんどが、見ただけじゃ違いなんて判らないんじゃないかしら。私とあの子の身長は同じくらいだしね』

「あの子ってのは?」

『ウンディーネ。今朝あった子、瑞希のパートナーの精霊よ』

「水無月瑞希のパートナー、つまり、もう一機はアクエリアスか」


 正体の判明したもう一方の機体に改めて目を向ける。

 しかし、やっぱり区別はつかなかった。


『ほら、早くスーツに着替えなさい。更衣室はあっちよ』

「制服の上から着るんじゃ駄目なのか?」

『駄目ではないけど、暑いでしょ』

「俺は気にしないけど」

『コックピットにあなたの汗の臭いが充満するなんて私には耐えられないわ』

「ならしょうがないな」


 ここまで毒を吐かれて、ようやく着替えるために更衣室へと向かった。パイロット用の更衣室の前に来ると、扉の取っ手に掴んだ。


『あ、そこは……』


 フルメルが気付いたが、もう遅かった。コウは何の気なしに、扉を押し開けて中に入いろうとした。


「なっ!」


 声を上げたのはコウではなく、中にいた水無月瑞希だった。

 パイロットスーツに着替える途中だったのだろう。下半身まではスーツを着ているが、上半身はブラのみだ。前かがみの姿勢は見ようによっては胸元を強調しているようにも見える。


「すまない。部屋を間違えたらしい」


 コウは目を逸らすでも、狼狽えるでもなく、何事もなかったかのように扉を閉めようとした。


「いや、待ちなさいよ!」


 慌ててスーツに袖を通しながら、平然と出て行こうとするコウを引き留めた。


「……世間一般では、こういう場合は謝罪をして早々に立ち去るべきだと思うのだが、もしかして露出癖でもあるのか?」

「ないわよ! そうじゃなくてもう少し言う事があるでしょ!」


 何を言わなければいけないのだろうと、しばらく考え込んだうえで、コウは急に彼女の体を、下から上に舐めるように見つめた。


「な、何よ!?」


 その気味の悪い視線に、瑞希は反射的にはだけた胸を隠す。しかもそんなセクハラ上司みたいなことをしながら、目は死んでいるから余計怖い。

「いや……」


 頭を捻り、考え込むようなポーズを取った後、視線を彼女に戻して口を開いた。


「良い体してますね」

「ちゃうわ!」


 棒読みでそんな事を言われた瑞希は、何故か関西弁で突っ込んだ。


「違うのか?」

「何でそうなるのよ! じゃなくて、もっと誠意を込めて謝罪しろって言ってるのよ!」

「誠意? 俺はちゃんと謝ったぞ?」

「何で「あ、ごめん。寝坊しちゃった」みたいな感じで済むと思ってるのよ」

「寝坊は程度と場合に……」

「そういう話じゃない!」


 コウの的外れな発言にいちいち突っ込んでいたせいで、瑞希は戦ってもいないのに息を切らしていた。


「取りあえず、ファスナーを上げたらどうだ?」

「見るなぁっ!」


 瑞希はとうとう怒りを抑えられずに、コウの顔面に鉄拳を繰り出していた。それに対して、サッと右に避けると、何故か打ち出された腕を掴み、そのまま彼女をうつ伏せで床に叩き付けて、動けないように腕を背中にやって押さえつけた。


『いや、避けるだけならまだしも、何故拘束した』

「攻撃を受けた時はこうしろと習った」


 コウにしてみれば、向けられた敵意に対処しただけなのだが、女子更衣室に入った挙句、着替え終わっていない女子を馬乗りになって拘束しているので、傍から見ればただの変質者である。


「フルメル! こいつ一体なんなの!?」

『見ての通り、常識のない男よ。ほら、早く瑞希を離しなさい』

「分かった」


 フルメルに言われてようやく拘束を解いたその時だった。


『あなた……』


 突如女性の声が反響した。

 声と共に殺気を感じ取り、コウはすぐさま後ろに退避し、拳闘の構えを取った。


『わたくしのパートナーに何をしているのかしら?』

 声の主は、コウの背後に出現した。

 光を透過するほどの透明に近い青の髪、肌の色も透き通るように白い。そんな彼女を一言で表すなら「水」がふさわしい。


しかし、今はお湯と言った方が良いだろう。


何故なら、本来は髪の色と同じだった瞳が、今は煮えたぎる湯のように、怒りに赤く燃えているのだから。


「誰だ?」


 すぐさま後ろを振り返り、臨戦態勢に入るコウ。


『わたくしはウンディーネ。よくも瑞希に狼藉を働いてくれましたわね!』

「ウンディーネ……ああ。さっきフルメルが言ってた。俺は天宮コウだ」

『何故普通に自己紹介しているんですの!?』


 コウはウンディーネが名乗ったのだから、こちらも名乗るのが礼儀だと思っただけなのだが、この状況でそんな事をすれば挑発したと受け取られかねないだろう。


『ウンディーネ。そいつに何を言っても無駄よ。後で瑞希に気が済むまで殴らせればいいわ。私が許可する』


 当然と言えば当然だが、全くコウに味方する気のないフルメルだった。

 しかし、コウは絶対に理解していないものの、一応何かを納得した風に頷いた。


「……確かに、今回は俺の過失だった。水無月。俺を殴れ」


 冗談みたいな真剣な顔で、半裸の女性を見ながらそんなことを言い出した。

 見ると、先程から開きっぱなしの扉から、何人かの男性がチラチラ覗いていた。


「いいから全員出てけー!!」


 怒りと羞恥で顔を真っ赤にした瑞希の絶叫が、格納庫中に響き渡った。

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