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精霊戦記フルミニス  作者: 師走
第八章 人類の戦争
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ステラウォルント

 そして、開戦の日、


 成田の街に警報の音がけたたましく鳴り響く。

 既に成田を囲む防護壁の前には、多数の戦車が控えている。

 霊子駆動のパイロットも、それぞれの持ち場に着くために準備をしていた。


『コウ、早くしなさい』

「ちょっとだけ」


 コウは部屋でパイロットスーツに着替えて、格納庫に向かう前に、別の部屋の戸を叩いた。


「瑞希先輩」


 返事はない。

 彼女は疎開の電車にも乗らず、未だ部屋に引きこもっていた。


「俺は、今の先輩の気持ちを、少しくらいわかるつもりです。大事な人を亡くす辛さを、俺は知ってるから」

「……」

「だから待ってます。先輩が立ち上がるのを、ウンディーネもきっと、望んでいる」


 それだけ言って、コウは瑞希の部屋に背を向ける。


「行こう」

『えぇ』


 格納庫に着くと、ペンドラゴンの腰には新しい武器が装備されていた。

 鍔に逆三角形のパーツと、灰色の宝石のようなものがついた大剣。美音から事前に聞いていた新装備だ。

 他にもライフルはレールガンに変わり、フルミニスの頃に両腕に装備されていたミサイルも、小型化して弾数を増やしてある。


 そんな一新された装備を一通り確認したところで、コウはペンドラゴンに乗り込み、フルメルは機体に憑依した。


「ペンドラゴン、天宮コウ」

『フルメル』

「『出撃(でる)』」


 ペンドラゴンは格納庫を飛び出し、配置場所である九十九里浜沿岸部へとやってきた。


 現場には固定式のレールガンが、一面に並べられていた。

 ここから侵入しようものなら、たちまち海の藻屑にしてしまうだろう。


「来たぞ」


 ペンドラゴンの視界に、巨大な航空母艦が映る。

 水しぶきを上げながら、大量の兵器を乗せた母艦が、日本の領海に踏み込んでくる。


「迎撃砲、用意!」


 部隊長の指示で、設置された固定砲台が一斉に稼働、空母へと狙いを定める。


「発射!」


 磁力によって音速を超えて放たれた金属の塊が、堂々と海を渡る母艦へと迫る。

 しかし、展開されたプラズマ式のエアシールドにより、それらは全て弾かれた。


「構うな! 撃ち続けろ!」


 レールガンによって弾幕を張る。

 母艦はそれでも速度を落とさず、海を渡ってくる。


「フルメル、俺達も」

『えぇ』


 ペンドラゴンが地面に膝をつき、レールライフルを構える。

 魔法により電力の補給が可能なペンドラゴンには、固定砲台よりも強力なレールガンが装備されている。

 そこにさらに魔法によるブーストをかければ、シールドを突破することができるはずだ。


「照準固定」


 モニター上を動くカーソルが、敵のシールドど真ん中で停止する。


『発射!』


 引き金が引かれる。


 空気を切り裂き、雷をまとった弾丸が母艦めがけて突っ込んでいく。

 だが、それはシールドに触れることはなかった。


 パァァン


 突然何かが破裂した音が響く。


 見ると、空母の上で、一体の霊子駆動が右腕を前に突き出していた。


 灰色と黒を基調としたカラーリング、全体的に分厚い装甲に覆われているが、その中でも目を引くのが両腕の装甲だ。

 他のパーツに比べて二回りほど大きく、掌には何やら赤い球体が怪しく輝いている。


『来たわね。ロシア軍の指揮官機、アリサ=アナートリー=ナヴァサルジャンの霊子駆動(スピリット・ギア)、ステラウォルント』


 ステラウォルントは、ペンドラゴンの二射目のレールガンもはじき返すと、そのまま海上で飛び出す。

 瞬間、ステラウォルントの足元で波動が広がり、機体は空中で加速、一瞬で陸地に到達した。


「あれが、重力魔法」


 重力の精霊『ゾル』が憑依する機体、ステラウォルント。

 重力を反転さることで、あらゆる攻撃を無力化する。レールガンが弾かれたのもその魔法のせいだろう。


「さて」


 すると、ステラウォルントはライフルを取り出す。

 ペンドラゴンは身構えるが、敵機はライフルを真上に向けると、乱暴にトリガーを引く。

 すると、魔法の弾丸が空中に広がり、設置された固定砲台に向けて降り注いだ。


『しまった!』


 幸い無人兵器だったので、死傷者はゼロだが、これで敵の侵入を妨げるものはペンドラゴンだけとなった。


「どうする?」

『片手間で勝てる相手じゃないわ。今はこっちに集中よ』

「そうだ!」


 すると、二人の上空で数十機の戦闘機が駆ける。


「空母は我々に任せたまえ!」

「ありがとう。いくぞ、フルメル!」


 ペンドラゴンが、ステラウォルントへ突進する。


「正面からか。芸がないね」


 アリサはコックピットを操作する。

 同時に、ステラウォルントは大剣を地面に突き刺す。


「『超重(ハイプレッシャー)!』」


 ペンドラゴンの加速が止まる。

 地面に押さえつける強力な重力が、機体に圧力をかける。


『コウ!』

「分かってる!」


 コウが何かの魔法を発動すると、ペンドラゴンの姿が忽然と消失する。


「何?」


 ペンドラゴンはステラウォルントの真上に出現する。


「はぁぁぁぁっ!」


 敵の重力魔法によって加速した剣を、敵にめがけて振り下ろす。


「チッ」


 だが、直前で超重を解き、先程見せた重力反転の魔法に切り替えて攻撃をはじく。


『コウ、機体の損耗率は?』

「まだ3%未満」

『さすがね。あの外圧で疑似筋繊維(メガロファイバー)にも神機外装にもほとんど影響がないなんて』


 日本の開発者達の技術力に感心しながら、二人は次の攻撃に備えて構える。

 そんなペンドラゴンの様子を見て、アリサは思考する。


(どういうことだ? 重力魔法の影響化で動けるはずがない)


 アリサは情報にあったペンドラゴンの性能を脳内で確認していく。


(スラスターと飛行ユニットを全開にした? いや、であれば捉えられたはず。第一、そんな無茶をして機体にほとんど影響がないなんてことがあるはずがない)


『来ないならこっちから行くわよ!』


 ペンドラゴンが今度はライフルを撃ちながら接近する。


『アリサ!』

「分かっているよ」


 先程と同じように超重(ハイプレッシャー)の魔法で重力域を展開、その瞬間、やはりペンドラゴンは姿を消し、今度はステラウォルントの背後を取る。


 先程と同様に、重力反転の魔法で無効化しようとするが、


「ゾル! 退け!」


 直前でアリサは指示を出し、ステラウォルントを後退させる。


 刹那、空を裂く紫電の一閃。


 ペンドラゴンが握っていたのは、先程使っていた大剣ではなく、刀身が雷のエネルギーによって構成された武器。


「情報にあった沖ノ鳥島遺跡のアーティファクトか」


 別に防ぐことはできたかもしれないが、あれには戦略級の大魔法が搭載されている。反動がかなり強いので、むやみに使ってはこないだろうが、万一使われていたら、消し炭になっていただろう。


「面白いじゃないか」


 謎の移動方法、強力なアーティファクト、新型機、それを操るパイロットと精霊、そんな好敵手の存在にアリサは笑っていた。


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