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精霊戦記フルミニス  作者: 師走
第七章 救世主
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仇敵再び

 翌日、授業を終えて訓練に向かっていると、コウとフルメルの耳に、けたたましい警報の音が届く。

『第三防衛ラインに大型喰精の出現の確認。市民の皆さんは安全のためにシェルターへ避難してください』

 二人は顔を見合わせて、すぐさま格納庫へと走る。

 格納庫では既にアクエリアスが出撃の準備を始めている。フルメルもその横に準備されたフルミニスに憑依し、コウを霊子駆動に乗せる。


「いくぞ。フルメル」

『ええ……』


 どこか浮かない顔で返答し、フルミニスを発進させる。

 壁の向こう側まで行くと、一体のカメのような姿の喰精が街に向かってゆっくりと歩いていた。体表は黒く、鋼色の甲羅には巨大なガトリング砲が乗っかっている。


「来たわね」


 アクエリアスが二丁拳銃、フルミニスがアサルトライフルを構えて臨戦態勢に入る。すると、


『クァァァァッ!』


 突如、喰精が雄叫びを上げ、突進を開始する。


『なっ!』


 先程まで鈍い動きが嘘のように、猛スピードでフルミニスに向かって走ってくる。


「飛ぶぞ」


 コウは飛行ユニット操作し、フルミニスを強引に飛翔させ上に退避する。


「フルメル」

『分かってるわ』


 空中で銃を構え直し、弾丸を撃ち込む。弾丸は硬い甲羅に阻まれ攻撃が通った様子はない。すると、


『ソートレクイエム!』


 弾丸を受けて動きを止めたところに、水の刃が降り注ぐ。だが、それでもガードが崩れる気配はない。


「コウ、今よ!」

「ああ」


 フルミニスが指でピストルの形を作ると、その指先で電光が瞬く。


 閃。


 発射された電撃は、先程の攻撃で濡れた敵の体を貫く。


『クァァァァッ!』


 電流のダメージで、堪らず悲鳴を上げる。


「終わりだ」


 フルミニスの背中で風が噴出し、動きが止まった敵との距離を一気に詰める。


『はぁぁぁっ!』


 電光を纏った大剣が敵の体を切り裂いた。


「ふぅ。案外楽勝だったわね」

「……まだだ」


 何かに気付いたコウが、操作パネルに手をかける。しかし、その前に撃破された喰精から何かが飛び出してフルミニスに取り付く。


『コウ! 出て!』

「っ!」


 機体の異変を感じ取り、緊急脱出を指示する。しかし、コウが操作パネルに手をかけたその時、


『させん!』


 突如、低い声がしたかと思うと、操作系がスパークし、コックピット内のあちこちで火花を噴く。なんとかしようと、コウは手当たり次第にコンソールをいじるが、どうにかなえう気配はない。


『くっ、司令部! 緊急脱出!』


 フルメルが辛うじて生きていた通信システムに向けて叫ぶ。

 その瞬間、機体の背中が爆発するような形でコックピットは外に排出された。


『これで……』

 どうにかコウを逃がして安心したのもつかの間、黒い何かは機体を侵食し、フルミニスを黒く染めていく。


(なに、これ……頭が……)


 同時に、彼女の意識の中に何かが入り込んでくる。

 頭の中に流れ込む断片的で、意味不明な情報。やがて、それらは『声』という形で、フルメルに呼び掛けた。


『我と一つになれ』

『お前は……!!』


 その声を彼女は知っている。忘れるはずがない。彼女にとって、それは愛しい人の仇であり、この世で最も憎い相手なのだから。


『セグンドゥムっ!』


 黒く染まる視界の中に出現したそれに向けて彼女は叫ぶ。


 暗闇の中で佇む仇敵は、以前とは少し違った風貌をしていた。

 褐色の男という特徴は前と同じだが、その顔の半分を七色の光を孕んだ闇に覆われている。右手の指は異様に長く伸び、爪は獣のように鋭く尖っている。さらに腕には闇が蛇のように巻き付いており、その下には何やら奇妙な赤い文字がいくつも刻まれている。


 ふと気付くと、フルメルはいつの間にかフルミニスへの憑依が解けており、闇の中でセグンドゥムと同じように浮いていた。


『今度こそ、殺してやる』


 明らかに異常な状況。だがフルメルは一切気にすることなく怨嗟の声を飛ばす。


『我と一つになれ』


 だが、セグンドゥムは彼女の言葉に答えることはなく、壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返す。


『あなた……?』


 さすがに彼女も不審に思ったのか、表情を憎しみから怪訝なものに変える。


『我と人つ……わr我#t0001つnれ』


 言語が崩壊する。

 その瞬間、異形の右腕が彼女の首に伸びる。


『ぐっ!』


 実体を持たないはずの彼女の首に、セグンドゥムの爪がめり込む。


『がぁっ、あ……』


 今まで感じたことのない痛みがフルメルを襲う。さらに痛みと同時にまた彼女の中に情報が流れ込む。

 それは懐かしい風景、彼女が古代で人間と共に暮らしていた時に見たものだった。


(何これ……走馬灯ってやつ……?)


 すぐに違うと気付いた。

 何故なら、時々映る見知らぬ風景、さらに自分ではない者の視界、


(これって、もしかして……)


 彼女がその結論に至る前に、彼女の意識は消失した。

 

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