離れていく心
その頃、シミュレーターでの訓練を行っていた仁とフルメルは、
『はぁぁぁっ!』
絶叫と共に最後の喰精を切り伏せる。
そこでシミュレートは終了し、フルミニスの周囲の風景は市街地から、元の霊子駆動格納庫へと戻る。
『そろそろ終わりにしましょうか?』
「そうだね」
荒い呼吸を整えながら頷く。
「でも……後もう一セットだけやりたいんだけど」
『……仁』
すると、画面の中のフルメルが仁に訝しげな眼を向ける。
「な、なに?」
いつものように困った顔をする仁だが、普段の彼にある余裕を、この表情からは感じられなかった。
『何かあったの?』
「なんでもないよ。ほら、休んでた分取り戻さないと……」
『そうじゃなくて、あなた、この前からおかしいわよ』
「そうかな?」
『本当の事教えて。向こうで何を見たの?』
「……」
やはり彼は口を閉ざす。
以前にも彼女は、仁にそれとなく聞いてみたことがあった。しかし、結果はいつもこれだ。何も言わず、何でもないよと言って笑う。フルメルにはそれが辛くて堪らない。
『私はあなたのパートナーよ。だから……』
「君のパートナーはコウだろ?」
笑顔でそう口にする仁。その言葉が彼女の胸を締め付ける。
フルメルはコウの事をパートナーとして認めていない訳ではない。むしろ今ではよき相棒だと思っている。しかし、それとこれとは別だ。仁もまた彼女にとっては大切なパートナーなのだ。なのに、今の彼は悩みを打ち明けないどころか、突き放すような態度を取っている。
『私にとっては、あなたも……』
「ありがとう」
謝辞が反論を遮る。
「僕は大丈夫だから、だから、」
ありがとう。再度口にされた彼からの礼。
その一言に込められた意思を汲み取ることができず、フルメルは先の言葉を失った。
「じゃあ気を取り直して、もうワンセット、お願いするよ」
『……分かった』
何も言えないまま、彼女の瞳に映る景色は再び仮想の戦場へと変わる。
そこから言葉を交わさず、一方通行の掛け声すらないまま黙々と敵を刈り続ける。パートナーの事を想いながら、彼から何も聞き出せない、何の力にもなれない苛立ちをぶつけるように、虚構の敵を屠るのだった。




