焦燥
その頃、仁は藍川に連れられて、樫宮高校の地下を訪れていた。
「学校の下に、こんな場所があったんですね」
「生徒は原則立ち入り禁止の場所だからな。ただ、どうしても向こうさんがこの部屋を使いたいって言うもんでな」
「向こうっていうのは?」
「沖縄支部の人間だ。ほら、ついたぞ」
そこは尋問室だった。
薄暗い地下空間のせいだろう。簡素な金属の扉が妙な威圧感を与えてくる。その扉を藍川が三回ほどノックをして開ける。
「失礼します」
中には机とそれを挟むパイプ椅子が二つあるのみ、そして対面に腰かける一人の男が仁を睨みつけるように見ている。織部色の軍服に身を包んでおり、背が高い。年は二十代後半ぐらいに見えるが、チラッと目に入ったバッチが階級の高さを示している。
「初めまして。沖縄支部の第三部隊隊長、影村朴下だ」
「は、初めまして、フルミニスのサブパイロットの切咲仁です」
影村に挨拶されて、仁も慌てて返した。しばらく静寂と張り詰めた空気が狭い部屋の中を包む。
「え、えーっと、俺はこれで失礼します」
その空気に耐え切れなかったのか、藍川はそう言って逃げるように部屋を立ち去る。
藍川がいなくなった事で、緊迫した空気はさらに引き締められる。だが、無言で影村が座るように促すと、ようやく仁は「失礼します」と一言。そして影村の対面に腰を下ろした。
「呼び出して悪かったな」
「いえ、全然。その……今回はどういった……」
恐る恐る尋ねてみると、影村は元々怖い顔をより一層引き締めて口を開く。
「単刀直入に聴こう。お前は異世界で何を見た?」
仁は特に驚かなかった。彼も呼び出された時点で、それを聞かれることは覚悟していた。ただ、ここで本当の事を話すべきなのかどうか。仁は測りかねていた。
「報告した通りです。僕は異世界で廃墟、研究所だったであろう場所を見つけ、そこでスクリプトを名乗る精霊と……」
「人工精霊、だろう?」
仁の言葉を遮って、影村は威圧する。
「お前はあれが人工精霊だと知っていた。にもかかわらず報告しなかった。あの霊子駆動についてもお前はほとんど何も話さなかった。何故情報を隠した?」
「……誤解ですよ。僕は知らなかっただけです」
仁は無理に笑顔を作って見せる。
「スクリプトとは一時的に協力していただけで、風見ヶ原でも、偶然居合わせた彼女に僕が頼んだんです」
「偶然居合わせたか、無理のある言い訳だな」
異世界で出会った精霊と、こちら側でたまたま居合わせた。確かに無理がある。だが、それでも仁は作り笑いを崩さない。
「それに、僕が嘘を吐くことに何のメリットがあるんですか?」
「それが分からないから聞いているんだがな」
影村はお手上げと言わんばかりに、椅子の上でふんぞり返る。
「お話は以上ですか? でしたらこれで……」
「プリムス」
「!?」
何の前ぶりもなく、影村はその単語を呟いた。あまりにも唐突だったため、仁の表情は崩れる。
「ラテン語で序数の一、そしてシルフィードの証言によると、スクリプトはあの人間型の喰精をプリムス・コアと呼んでいたそうだな。あれはどういう意味だ?」
「そ、それは……」
「加えて、同じく人間型の喰精、セグンドゥムも意味はラテン語で序数の二、こいつらはどういう関係がある?」
「……」
答えられずに仁は黙り込んでしまう。
「なら聖別機とは何だ?」
「……あっちの世界に出没する無人兵器の事です」
「それだけか?」
また仁は口を噤み、頑として話す気はないという姿勢を示す。
「はぁ、もういい」
影村は投げやり気味にそう言うと、右手を払うような仕草で出ていけとアピールする。
「失礼します」
仁は頭を下げて、そそくさと部屋を出て行った。
「思ったより早かったな」
部屋から少し離れた場所で、藍川は仁を待っていた。
「何を話していたんだ?」
「大した事じゃありませんよ」
影村に見せたような作り笑いを浮かべ、その場を流す。
「そうか……」
何か言いたそうだったが、彼は追求を控えて仁を外まで案内することにした。




