介入者
同刻、上空で戦闘を続けていたストームライダーの燃料は底をつきかけていた。
「全く、これほどとはね……」
彼もナルシシズム的な発言をする余裕もなくなっている。
元々ストームライダーの飛行能力はフルミニスのように長時間飛び続ける事を想定していない。あくまでごく短時間、超高速での戦闘を可能にするというコンセプトのもとに設計されている。
当然、そのパイロットである一颯も、燃料を節約しながらの長期戦など経験はないし、そのような訓練も受けていない。
繊細な操作を必要とするストームライダーを動かすのは彼の神経をすり減らすのだ。
『一颯様、お顔がよろしくないですよ。しっかりしてください』
「分かってるよ」
また敵が手をこちらに向けると、熱線が噴射される。
それに反応してストームライダーも右手を突き出し、目の前に空気の盾を形成する。
ダメージを軽減し、何とか持ちこたえるが敵は反撃を許さず、追撃の用意をする。その時、遠方から轟音が届く。
『!?』
喰精も攻撃を中断し、音のする方へ視線を向ける。
そこには銀色の金属の翼を広げ、空を駆る霊子駆動、ブレイディオスの姿があった。
『あれは……』
「あんな機体、あったか?」
事情を知らない二人を他所に、ブレイディオスを操作する仁は、機体を真っすぐ敵に突っ込ませる。
『%%+&?$#?=/?*!』
謎の言語を発して、敵は熱線を放射してブレイディオスを攻撃。しかし、
キィィィィンッ
ブレイディオスが刀で触れると、甲高い音と共に敵の攻撃はあっさりと消滅した。
『??*$&#-0\=+』
今度は両手を広げると、彼女の周りに桃色の魔法陣がいくつも展開され、そこから光が解き放たれる。幾千ものそれらは龍の姿をとってブレイディオスに四方八方から襲い掛かる。
しかし、
『攻撃軌道演算……完了』
そう言うと、手に持った刀で迫りくる龍の幻影を迎撃する。振りかざした剣先に触れると、敵の魔法は次々と消えていく。
『まさかあれは……』
ブレイディオスの叩きぶりを見て、シルフィードは唖然としていた。先程まで自分達が完全に防ぐことができなかった攻撃をいとも簡単に凌いだのだ。驚くのも無理はない。
『敵に接近を。一気に決着をつけます』
「ああ」
背中の翼から空気が噴出され加速。喰精との距離を詰めると刀を一気に振り抜く。
その斬撃は彼女の胴体を上下に分断した。
『#$%-??-!&=#?$*』
攻撃を受けて喰精の体の輪郭が歪む。自身への甚大なダメージを確認した彼女は、ブレイディオスを一瞥すると、塵に状に体を分解してその姿を消した。
『第一の核、撤退を確認。私達もこの場を離脱しましょう』
『お待ちください』
ストームライダーに引き留められ、ブレイディオスは動きを止める。
『あなた方は何者ですか?』
『回答、私は人工精霊スクリプトです』
『人工精霊? そのような技術は聞いた事がありませんが。それに先程、あなた方が使用したのは無効化術式ではありませんか?』
「む、無効化?」
一人だけ状況が飲み込めていない一颯は、コックピットでおろおろしている。
『拒否、その質問にはお答えできません』
回答を拒否するスクリプト。しかしその返答で、逆にシルフィードは自分の考えに確信を持った。
この霊子駆動が使用したのは間違いなく無効化の魔法だ。
シルフィードは精霊の中でも二番目に知恵のあるものとして知られている。他の精霊が知らないような魔法の原理や法則に関してもかなりの知識を持っている。そんな彼女は過去に「魔法の無効化」という理論を考えたことがある。
しかし、古代でそれは実現しなかったし、彼女自身もその後机上の空論として片付けていた。だが、剣で触れたそばから魔法が消失する、この現象は「魔法の無効化」と考えなければ説明がつかない。そしてあの機体はどういう訳か、彼女すら完成に至れなかった無効化魔法を搭載している。
『その技術はどこで……』
『警告、これ以上の干渉は不適切と判断。直ちに戦線を離脱してください』
その指示を受けて、仁はブレイディオスを飛ばす。
『待ちなさい!』
制止も無視して、ブレイディオスは空の彼方へと消えていった。