彼女の提案
同刻、地上にもその音は届いていた。
「何が起きたんだ?」
シェルターに向かおうとしていた仁は、その音を聞いて足を止める。
「シルフィード達が倒したのか?」
普通に考えればそうなのだが、この時の仁はそうポジティブに考えることができなかった。先日あの異世界で見てしまったものが頭から離れない。
『切咲仁』
その時、聞き覚えのある声に呼び掛けられる。
振り向くと、そこには異世界で出会った人工精霊、スクリプトの姿があった。
「スクリプト、ちょうど良かった」
仁は彼女が何故ここにいるのかは尋ねなかった。むしろこちらの世界にいるのが当たり前かのように会話を続ける。
「上の状況は分かるかい?」
『回答、第一の核の出現を感知しました』
「プリムス……そうか」
彼女が口にした謎の存在に対しても、仁は何の疑問を返さずに飲み込む。
「戦況は?」
『不明。私、正確には私の霊子駆動は喰精の出現や魔法の発動を感知できるだけです』
「そうか……なら、僕をまたブレイディオスに乗せてくれないか?」
『拒否、それはできません』
仁の申し出を、彼女は無表情で突っぱねる。
『第一、あの時にあなたにブレイディオスを貸し与えたのは、あなた方を元の時代に返すためです。正式なパイロットでない方に何度も貸し与えることはできません。第二、現状のあなたではブレイディオスの性能を十%も引き出せません』
そう言い切られ、仁は返す言葉もなく俯く。
『提案、あなたが私と契約を結ぶのであれば、あなたをマスターとして承認し、正式にブレイディオスのパイロットとして認めることもできます』
「できないよ。それは……」
異世界でも提案された契約の内容を思い返し歯噛みする。その様子にスクリプトは表情一つ変えずにこう続ける。
『ですが、あなたが戦わなければ人類は滅びます』
以前彼女に見せられたあの映像の事が頭に浮かぶ。それがフィクションではなく、近い未来に確かに起こる現実であることを、彼はその後思い知らされていた。
「……どうして、僕なんだ?」
『回答、博士の遺した候補者リストの中で、あなたが最も適していたと私が判断しました』
「僕が?」
『回答、あなたの反応速度はこの時代の人類の中で最も高い能力を有しています』
「そんな訳……」
すぐに思い浮かべたのは親友の顔だった。コウは仁よりも霊子駆動の操作の成績がいい。それは即ち彼のパイロットとしての実力が仁よりも上であること証明している。
『回答、天宮コウの評価点は容赦のなさです。単純な反応速度、反射神経といった身体的な能力はあなたの方が上です』
「僕は……」
その時、再び天上で爆発音が響く。
見上げると、既に目視できるほどに高度を下げたストームライダーと、それを圧倒する褐色の美女の姿をした喰精が見える。
『……受諾、今回も仮登録での搭乗を許可します』
「え?」
それを見て、スクリプトは最初の回答をひっくり返した。
『警告、ただし忘れないでください。あなたの選択によって、未来は決定される』
「……分かった」
仁は深く頷くと、スクリプトの後に続いた。




