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精霊戦記フルミニス  作者: 師走
第六章 加速する運命
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風の精霊

 その頃、仁達はゲームセンターに来ていた。


「……」


 コウと仁は、真剣な面持ちで縦横四枚のボタンが並んだマシーンに向き合っている。

 マシーンの画面に音符が表示され、音楽が流れ始める。


「はっ!」


 音楽に合わせて明滅するボタンを叩く。演奏に合わせて軽快な音が響く。そして、


「負けた」


 コウの画面に表示されていたスコアは「34052」。対して仁のスコアは「38007」だ。


「コウさんが反射神経で負けることがあるんですね」

「昔から音ゲーは仁の方がうまかった」

「へぇ。意外ですね。てっきりその分野はコウさんの方が上だと分析していたんですが」


 美音は感心したように、仁の方を見る。


「僕は慣れてただけだよ。ゲームに勝ったくらいで測れるもんじゃないでしょ」

「いえいえ。こういう日常の何気ない情報というのは結構重要ですよ」


 真面目にそう答える美音に、仁も苦笑いを浮かべる。


「それより、そろそろ別のところに行こうよ」

「ならあそこに行きたい」


 すると、コウはゲームセンターの出口から見える大きなビルを指さした。

 風見ヶ原スカイビル。地上250mの高さを誇る風見ヶ原の名所の一つだ。最上階の展望台から望む景色は絶景で、すぐ下の階には飲食店が連ねている。


「いいね。じゃあ早速……」


 ゲームセンターから出て、目的地に向かおうとしたその時、彼らの耳に悲鳴が届く。


「「「!?」」」


 声のする方を見ると、大通りに大量の小型喰精が街の人達を襲っている。


「何で町中に喰精が……」


 驚愕する仁の横で、コウはすぐにエルガンを構える。

 そして店を襲っている一団に向けて数発弾丸を放つ。


『クキィ』


 それに反応してこっちを向いた喰精は、彼らに襲い掛かる。


「仁。早く武器を」

「う、うん」


 仁も自分のエルガンを取り出し、喰精に向けて正確に弾丸を撃ち込む。敵はそれほど強くなく、数発攻撃を受けて消滅する。しかし、数が多く次々に出てくる。


「これってまた壁が壊されたのかな?」

「いえ、そういう訳ではないみたいです」


 戦闘員ではない美音も護身用のエルガンを抜いて戦いに参加する。それほど射撃はうまくないようだが、密集した喰精に銃撃を行うと、何発かは命中したのか数を減らすことができた。


「この通り防御できるようなものを取り込んでいません。それに壁をぶっ壊しているならもっと早く警報が鳴っています」

「それもそうか」


 なら喰精はどこから来たのか。仁の頭に地下水路というのが真っ先に思い浮かんだが、それはあり得ない。水路にも警報や自動迎撃装置など、簡素なものではあるが対策はされている。

 それに狭い水路からこの数が渡ってくるのは不可能だ。


「仁!」


 考えていたせいで、飛び掛かってきた敵に対する反応が遅れた。すぐに銃口を向けるが間に合うかどうか。


「!」


 その時、エルガンの銃口に風が集まる。風は渦を巻き、先端で淡く光る空気の弾丸へと変わる。


 パァンッ


 発射された弾丸は喰精の体を貫き、一撃でそれを消滅させた。


「今のって……」

『大丈夫でしたか?』


 すると、エルガンから光の粒が放出され、彼の目の前で人の形を作り出す。

 薄っすらと緑が混じった白い髪、顔立ちは幼いようで、しかし仙人のような落ち着きを見せる少女。


『お初にお目にかかります皆様。私は風の精霊シルフィード。この地区を担当しています』


 そう名乗り、ニッコリと微笑むシルフィード。そして穏やかな表情のまますぐに言葉を続ける。


『現在、風見ヶ原支部の皆様が敵の発生源を捜査中です。その間付近の敵の掃討のお手伝いをしようかと』

「こいつらがどこから出てきてるのか分かるのか?」

『大方目星はついています。既に部隊は出動していますので被害も抑えられるかと』


 喋っている間にも、敵は次から次へと湧いてくる。


『さて、まずはここを浄化しなければなりませんね』

「……だったら」


 すると、何かを思い出したのか美音は鞄の中を漁り、何かを取り出すとそれを仁に向かって投げた。


「それ、使ってください」


 彼女が渡したのは遺跡から持ち帰ったアーティファクト。


「これは……何で勝手に持ってきてるの?」

「私が研究していたので所有権は私にあります」


 偉そうと謎の理論を言い放つ美音に、仁は呆れたようにため息を吐く。


「分かったよ。確かにこれならすぐに片づけられる。シルフィード」

『かしこまりました』


 剣を見ると、それはどういうものか即座に理解したシルフィードは剣に憑依。

 剣から暴風が放出され、それが細い刀身に収束して空気の刃となる。


「いくよ。シルフィード」


 剣を振り抜くと、一陣の風が吹き抜ける。

 突風を受けて敵の動きがほんの一瞬、静止する。


「はぁぁぁっ!」


 その隙に、間合いを詰めた仁が敵を次々に切り裂いていく。


「よし。これなら。コウ、美音、二人でここに残った人の避難誘導を!」

「分かった」


 仁が突風で敵を抑えている間に、逃げ遅れた人たちを見つけてシェルターまで送る。

 程なくして敵の数を七割ほど減らすことができ、大通りから人は完全にいなくなった。


「さて、それそろあれを使っても大丈夫かな」

『あれとは?』

「この剣の魔法だよ。規模が大きいから安全を確保してからじゃないと使えなかったんだ。使った後、僕が反動で倒れる可能性もあったし」


 仁は剣の柄の下の部分を捻る。すると、収束した空気は枷を外されたよう再び荒れ狂う暴風に戻る。風の勢いに、仁も支えきれずに手が震えている。


「思った以上だな」


 それでもギリギリ剣を制御し、密集した残りの喰精に向けて剣を振り下ろす。

 瞬間、解き放たれた暴風は道路のコンクリートを巻き込みながら喰精に襲い掛かる。その様は全てを飲み込む大蛇の如く、残った喰精を食らいつくした。


「はぁ、はぁ……」


 戦闘が終了すると、仁は地面に膝を付く。


『大丈夫ですか?』


 剣の憑依を解き、姿を現したシルフィードが心配そうに仁を見る。


「ああ。思ったよりは反動が少なかったからね」


 仁は力のない笑いを浮かべて剣をしまった。


『疲れているところ申し訳ないですが、一ついいですか?』

「何?」

『基地の方に電話をしてもらえませんか? そろそろ対象を補足できたと思うので』

「分かった」


 エルフォンを取り出し、シルフィードの指示通り番号を入力する。


『誰だ?』

「初めまして。成田本部の切咲仁と言います」

『本部の兵士か。どうした?』

「実は今、シルフィードと一緒にいるのですが……」

『そういう事か』


 最後まで言い切る前に、向こうの隊長と思わしき人物は状況を判断したようだ。


『援助感謝する。すぐにシルフィードに帰還するように伝えてくれ』

「分かりました」


 電話を切り、すぐに向こうの指示をシルフィードに伝えると、


『では、私はこれで。あなたもすぐに避難してくださいね』


 そう言い残し、彼女の姿は消失した。

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