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精霊戦記フルミニス  作者: 師走
第六章 加速する運命
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束の間の休息

「おー」


 翌日、コウは電車の窓に顔をピッタリ張り付けて、棒読みで感嘆していた。

 窓の外に見える景色は灰色の壁、つまり彼らが乗っているのは地下鉄である。


「コウは電車に乗るのは初めてだっけ?」

「ああ」


 コウは仁の方を振り返らずに、真剣に窓の外を眺めている。


「地下鉄だから景色も何もないのによく飽きないね」

「昔は地上を走る電車もあったんですよね」


 美音はそんなことを言いながら、窓にへばりついた彼の姿を横目に駅弁のから揚げを頬張る。

 十一年前から、地上を走る路線は完全に運行停止した。線路の上しか走れないので、いざ喰精に襲われても逃げられないし、線路を捕食されれば脱線事故に繋がる。他にもバスやタクシーといった他の公共交通機関も、今では壁に囲まれた街の中だけで見るものになった。


「喰精に襲われるリスクを考えればしょうがないよ」

『まもなく、風見ヶ原』

「ほら、もうすぐ着くよ」


 地下鉄を降りて、三人がやってきたのは新成田よりも北にある観光地、風見ヶ原だ。

 厄災から三年が経過した後、復興を盛り上げて日本に活気を取り戻そうというコンセプトの元、カラオケ店、ボーリング場、映画館、アニメショップ、アパレル店、その他多様な店やアミューズメント施設、さらにそれっぽい名所を集めて作られたのがここ、風見ヶ原である。


「フルメルも来れたら良かったのに」


 彼らはフルミニスのメンテナンスという事で、臨時の休暇をもらってここに遊びに来たのだ。しかし、フルメルは剣のアーティファクトの連続使用の事で一度診てもらうことになった。


「私としては、フルメルさんは私が診たかったんですけどね」

「というか、美音は何で付いて来たんだ?」

「天宮さんの経過観察のためですよ。ほら、前回の遺跡調査の事で」

「あれは特に問題なかったんじゃないのか?」

「いや、まあそうなんですけどね。念のためですよ念のため」


 美音は詳しく話さず、ガイドブックを取り出す。


「それじゃあ、まずどこ行きます? 私的にはお勧めはここですね」


 彼女が見せたのは防衛基地の演習場だった。


 風見ヶ原は人が多く集まるという関係上、防衛基地も置かれている。しかし、国民の不安を取り除くための観光地に防衛基地を置いては意味がないという声もあった。そこで訓練をショーという形でオープンにすることで受け入れられている。


「せっかく休暇に来たのに、僕らが訓練見に行ってもね」

「先生にも遊んで来いって言われたし」

「えー行きましょうよ。楽しそうじゃないですか」


 何故か妙に押してくる美音を嗜めて、ガイドブックから他の場所を探す。


「えーっと、こことかどうかな?」

「俺は防衛基地以外ならどこでもいい」

「コウは主体性がないな」


 親友の発言に苦笑しつつ、仁は二人を引き連れて街の中を散策した。






 その頃、本部の研究施設では検査の終わったフルメルが、検査室の椅子に座っている。


『結果はどうだったの?』


 研究員に尋ねてみる。


「特に異常はありませんでした。パラメーターはどれも問題なし。一部記憶情報に活性化が見られますが、誤差の範囲です」

『そう……』


 この検査は彼女たっての希望だった。

 異世界で出会った謎の兵器に対して、彼女は既視感を覚えていた。その正体を探るためにフルメルは検査を依頼したのだ。


『お疲れ様』


 検査室を出たフルメルは、外で待っていたウンディーネと瑞希に出くわした。


『ありがとう』

『検査が終わったのに、随分暗いですわね』

「何かあったの?」


 二人は心配そうに彼女を見る。


『……ねぇウンディーネ。聖別機って単語に聞き覚えはある?』

『セイベツキ?何ですのそれ』

『前に話したでしょ。私達が迷い込んだ異世界で遭遇した兵器みたいなものよ。向こうであったスクリプトって名前の精霊がそう呼んでたのよ』

『聞いたこともありませんわね……というか、スクリプトなんて名前の精霊いました?』

『少なくとも私の記憶にはないわ。でもあなたも知ってるでしょ。私達には確実に失っている記憶がある』

『まあ、そうですわね。でも私は他の精霊の事は全員覚えていますわよ』


そういえば、セグンドゥムもフルメルの事を覚えていなかった。単に自分のことなど眼中にないだけだと思ったが、今にして思えばあれも記憶が抜けていたと考えられる。 


「異世界ねぇ。私もちょっと行ってみたかったな」

『旅行じゃないのよ。死人も出てるんだから不謹慎じゃない?』

「旅行と言えば、フルメルはコウ達と風見ヶ原行きたかったんじゃないの?」

『別に。偶には二人で羽を伸ばすのも悪くないんじゃない』

「樟葉さんも一緒らしいわよ」

『何で彼女が……』


 そんなに仲が良かったようにも見えないが。というか知り合ったのが例の異世界に行った時だったのでつい最近のはずだ。


『仁が二人共の面倒見切れるかが不安だわ』

「目線が完全に保護者ね」

『そりゃあ彼、実年齢より精神年齢かなり低いわよ』

「まあそれは分かる」


 瑞希はコウの今までの言動を思い返しながら深く頷く。


『それに仁、戻ってきてから様子が変なのよ』

「変って?」

『何かを隠しているみたいというか』


 あの廃墟の研究所で仁は一体何を見たのだろうか。そんな疑問が彼女の中で渦巻いていた。

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