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精霊戦記フルミニス  作者: 師走
第五章 終末の世界
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滅亡の情景

『コウ! しっかりして! コウ!』

「ん……」


 目を覚ますと、コウの視界には心配そうに彼の顔を覗き込むフルメルの姿があった。


『良かった。気が付いたのね』

「ここは……?」


 立ち上がろうと、地面に手をかけた。すると、手はザラザラとした感触の中に飲み込まれた。


「!」


 見ると、彼らがいるのは砂漠の真ん中だった。

 一面に広がるのは小麦色の砂の大地、にもかかわらず気温は暑くも寒くもない。辺りには瓦礫やねじ曲がった鉄骨。さらに異様なことに、彼らの頭上に広がる空に赤銅色で太陽も月も雲も浮かんでいない。


「何なんだここは?」

『分からないわ。仁も、他の隊員の人達もいつの間にかいなくなっていたわ』

「通信は……」


 コウは咄嗟にエルフォンを取り出して連絡を試みる。しかし、


「繋がるわけないか……」


 エルフォンをしまい、改めて周囲の様子を確認すると、視界の先に人影が見えた。近付いてみると、それはフルミニスだった。


『どこも破損はないみたいね』


 憑依したフルメルが手足を適当に動かして機体状態を確認する。


「こっちも問題ない」


 コウはコンソールを弄ってみるが、特に問題なく起動する。


『とはいえ、足場がこれじゃ、歩くのも一苦労ね。コウ。バッテリーはどれくらいある?』

「60%ちょっとだ」

『ならしばらく飛んでも問題なさそうね。空から仁達を探しましょう』

「ああ」


 数分後、低空飛行するフルミニスに手を振る一団が見えた。樟葉美音を含む調査部隊のメンバー数名だ。


「他の人達は?」


 一度霊子駆動を降りて尋ねてみるが隊員達は首を横に振る。

 そんな中、美音は一人地面に四つん這いになって、砂の上に何か数式を書いている。


「何をしているんだ?」

「さっきの魔法の回路術式を解析してるですよ」

「解析ってどうやって?」

「一瞬だけ回路が見えたでしょ? それを元にこうやって計算を……」


 さも当たり前のようにとんでもない事を言う彼女は、引きつった笑みを浮かべながら計算を続けていく。


「霊子の持つ情報とは無関係に起動する回路だとするならエルガンと同じ仕組みか。だったら小部屋にあった回路は電源みたいなもので、本体は広間の方……ふひひ。これすご」


 ブツブツ独り言を口にしながら、時折不気味な笑い声を上げている彼女への視線は、コウのように純粋に感心しているものもあれば、フルメルのように複雑な気持ちがこもったものもある。当の彼女は一切気にしていないが。


『彼女はいつもあんな感じなんですか?』

「ええ。普段はボーっとしているんですが、研究の事になるとあんな風に」

『へぇ……』


 彼女の姿を見ながら、フルメルも思考した。

 そもそもここはどこなのか。フルメルの知識から考えればおそらく先程の魔法は転送魔法。空間を捻じ曲げて人や物を別の場所へ送る魔法だ。しかし、だとすればいくつか疑問点は浮かぶ。

 まず一つ。彼女の知識において、地球上にこのような場所は存在しないこと。一面の砂漠は普通にあるだろうが、このような空はあり得ない。

 二つ。転送魔法はかなり規模の大きい魔法だ。パイロットスーツを着ていたコウや仁ならともかく、生身の人間が反動を受けて平気なのは不自然だ。

 そして一番不可解なのが、


『そもそも、何故あんなものが仕掛けられていたのか……』


 その時、彼女の思考を遮る音が遠方から響く。


 サササササッ


 砂をかき分ける音が徐々に彼らに近付いてくる。


『コウ!』


 その正体を察したフルメルは即座に指示を出す。彼は言われる前に、既にフルミニスに乗り込んでおり、それを見て彼女もフルミニスに憑依する。

 魂を吹き込まれた鋼鉄の戦士は、目の前に迫る敵に対してすぐさま剣を取り、構える。


「あれは……」


 ようやく彼らの視界にその姿が映った。

 体長三メートルほどの砂で構成された体躯に、下半身は蟻、上半身は鍬を持った人の姿をした異形。砂漠の砂を取り込んだ喰精の一団が彼らの下に押し寄せてきたのだ。


『皆さん!下がって!』


 言われて調査部隊の人達はフルミニスの後ろに隠れる。ただ一人を除いて。


『ちょっ、樟葉さん!』


 美音はこの状況を理解していないのか、取りつかれたように砂の上に数式を書き続けている。


『あーもう!コウ、スラスター!』

「分かった」


 背中で膨張した空気がフルミニスを加速させる。すぐそばまで敵が迫っていた美音を間一髪のところで回収した。


「ほえ?」


 未だに事態を理解していない美音は首根っこを掴まれて、間の抜けた声を上げる。

 フルメルは気にせず彼女を下ろすと、迫る喰精の軍団を向き直る。


『一気に蹴散らすわよ』

「分かった。ミサイルだな」


 コウはパネルを操作し、ミサイルの照準を敵軍の中央に合わせる。彼女もそれに応じて右手を喰精へ向ける。


「発射」


 ボソッと口にされた言葉と共に、フルミニスの右腕からミサイルが三発発射される。それは狙い通り軍団の中央で炸裂し、敵を蹴散らしたかに見えた。しかし、


「シャァァァッ」


 喰精はすぐに再生し、進行を再開する。


「効いていないな。なら」


 コウは特に動揺せずに、すぐさま次の行動に移る。『shock volt』と書かれた魔法を選択し、発動。

 フルミニスの右腕から、電撃が直線状に放射され、喰精を一体消滅させる。


 効力を確かめると、続けざまに二発、三発。


 地道に数を減らすことはできるが、これではいつ倒しきれるか分かったものではない。


『コウ、インターバル!』


 フルメルが休息を促し、その間の時間を稼ぐために剣を取って軍団に突っ込む。大剣で中型の喰精を蹴散らすが、ただの殴打では決定打にはならない。


『くっ!』

「あー、なるほど。そういう状況でしたか」


 ようやく状況を認識した美音だが、なおも呑気に眼鏡を直して、冷静に喰精の軍団を見つめる。


「範囲攻撃で一気に焼き払いたいとこですが、ボルテックスバーストは無差別放電なので後ろの隊員も巻き込んでしまう。今こう考えてますね天宮さん」

「え、あ、ああ」


 突然、後方からそんな言葉を投げかける美音。


「でしたら、その腰に差しているもう一刀を使ってみてはどうでしょう」

「もう一刀?」


 言われて彼は気付く。フルミニスには美音の指示で、遺跡から持ち帰ったもう一つの超古代兵器(アーティファクト)が装備されていたことを。


「その剣には二段階のモードがありまして、二段階目は前方広範囲を攻撃する魔法なんですよ」

「だそうだが、どうする?」

『やるしかないでしょう』


 フルメルは大剣で喰精を薙ぎ払い、敵との間にスペースを作る。そして大剣を捨てると、腰の刀を引き抜く。すると彼女の霊子が流れ込み、雷電の刃を作り出す。


『二段階目はどうやって使うの?』

「剣の底の部分を捻ってください」


 言われて指示通りに柄の底を捻る。すると、


『「!?」』


 剣からエネルギーが放出され、振り回されそうになる。

 コウはすぐに対応し、神機外装の出力を両腕に集中する。何とか安定したところで剣を振り上げた。


『はぁぁぁぁっ!』


 上段一太刀。


 振り下ろされた剣から大電力が放出され、喰精を焼き尽くした。


「ゴホッ、ゴホッ……」

『コウ、大丈夫?』

「はぁはぁ……少し、苦しい」


 少しどころか、かなり苦しそうなコウの姿を見て、フルメルは一度霊子駆動(スピリット・ギア)を降りるように促した。


「あー、完全イッちゃってますね」


 コウを砂の上に寝かせ、美音が彼の容態を見る。


『あなた、治療もできるの?』

「まあ私は霊子研究の専門家なんで。しかし曲がりなりにもパイロットの天宮さんが一発でこれって、相当ヤバいですね。あの武器」


 聴診器のような器具を取り出して、コウの体に当てる。連動していると思われるエルフォンには、何かの波形や数値が表示されている。


「これは……」


 美音は何かに気付き、エルフォンの画面に映った波形を注視した。


『どうしたの?』

「あ、いえ、このパラメーターなら大丈夫です。廃人化の心配はありませんよ。とりあえず天宮さん。深呼吸です」


 指示通り、何度か息を長く吸っては吐いてを繰り返す。


「パラメーターは安定しましたね。一応……このまま霊子駆動(スピリット・ギア)に搭乗しても大丈夫です」


 それを聞いてフルメルはほっと胸を撫で下ろした。


「もういいか?」


 先程まで苦しそうだったコウは人形のようにぴょこんと上体を起こし、平然とした顔でそんな事を言う。


「あなたはどうも回復力はありそうですね。体力的にも霊子的にも。非常に興味深いです」

「そうか」


 コウは特に気にせず、砂を払って立ち上がる。


「探索を進めよう。元の場所に戻る方法を見つけないと」

『ええ』

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