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精霊戦記フルミニス  作者: 師走
第四章 あるべきカタチ
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おとぎ話

 その後、セグンドゥムは撤退した。おそらく残弾を使いすぎたのだろう。


 フルミニスは破損が酷く、全面修理、元々改修中だったがその作業も一からやり直しだ。

 そしてパイロットなしで許可なく出撃した挙句、度重なる退避命令も無視して戦闘を続行したフルメルは、一週間の謹慎処分となった。


「その……フルメル?」


 自室で、機嫌悪そうにしているフルメルに、コウは気まずそうに声をかけた。彼女は部屋の隅に座り、反対側のベッドの上に座るコウから最大限距離を取っている。


『何?』


 声をかけられても、一切振り向こうとしない。そっぽを向いたままふて腐れている。


「怒ってる?」


 コウの機嫌を伺うような態度にため息を吐き、ようやく彼の方を向いた。


『怒ってないわよ。その……悪かったわ。冷静じゃなかった』

「できれば、何であんなに取り乱してたのか、教えてほしい」


 そう言って、コウはフルメルの傍により、彼女を真剣な眼差しで見つめる。


『……おとぎ話をしましょう』


 唐突にそう切り出して、彼女は立ち上がる。コウは彼女が何が言いたいのか分からず唖然としているが、フルメルは構わず続ける。


『昔々、遥か昔。一つの国がありました。そこでは精霊が信仰の対象となっていました』


 精霊信仰。つまりこれはフルメルの遠い過去の話であるとコウは理解した。


『人々は平和に暮らしていましたが、ある日、国を化け物が襲いました。彼らに対抗するために人々は巨大な精霊の体を作りました。そして、国の兵士から特に優秀な人間を選び、精霊を助けるパートナーに選んだのです。

 その中にある一人の男がいました。彼はその国の兵士の中でも特に勇敢で、恐れ知らずな男でした。どんな戦場も、彼が先頭に立てば忽ち活気づき、戦況を覆してくれました。そんな彼に思いを寄せる、ある一人の精霊がいました。彼女はその男のパートナーであり、共に戦う戦友でした。彼女にとって彼のパートナーでいられることはとても誇らしかった。けれど、彼は死んでしまいました』


 彼女は表情を変えずに続ける。


『とある意思を持った喰精(コメル)に霊子駆動が乗っ取られてしまいました。彼はその霊子駆動との戦いで彼は街を守るために無茶をしたのです。その所為で彼は殉職しました』

「その意思を持った喰精(コメル)があいつ。確か……セグンドゥム」

『そう。あいつは私の大切な人を奪った』

「その人のこと、好きだったのか?」

『ええ。愛していたわ』


 彼女は淀みなく答える。


『バカな話よね。どんなに好きでも、触れることすらできないのに』

「俺には、愛とか恋とか、よく分からないけど、バカな話だとは思わない。別に、そういう気持ちに、人も精霊も関係ないと思う……多分」

『そこはもう少し自信を持って励ましなさいよ』


 あまりに曖昧な物言いに、彼女は苦笑した。


『そうね。そうかもね。まあとにかく、彼は街を守るために無謀な戦いに、たった一機で挑んで敗れた。だから、私は自分の身を犠牲にしてでも考え方が許せない』


 コウは何も言えずに黙り込んでしまう。


『私は正直、あなたがあんな事を言うなんて思ってなかった。だから少し嬉しかったわ』

「だったら……」

『けど、私は……もう二度と、パートナーを失いたくないの』

「……それは、パイロットも同じなんじゃないか?」

『え?』

「俺は、よく分からないけど。きっと仁も、その人もフルメルの事が大切だった……と思う。フルメルが俺を庇ってくれた時、助かったけど、もし逆の立場だったら、フルメルは怒ってた、と思う」

『でも、私はやられても死ぬわけじゃない』

「それでも……俺も、仁も……それに昔のパートナーだった人も、フルメルの傷つくところなんて、見たくない……と思う」


 先程から言葉に自信がなく、たどたどしいが、それでも一生懸命自分の考えを伝えようとしている。


「フルメルが俺にして欲しくないことを、自分がしたら意味がないんじゃないか」

『けど、私は……』

「パイロット(おれたち)はお前に守られるための存在じゃない」


 そう静かに言い放つコウの瞳には、僅かに光が灯っていた。


『そうね。そうだったわね』


 彼女は静かに笑う。


「だから、その……」


 コウは立ち上がって彼女のもとに歩み寄り、改めて彼女に頭を下げた。

「今までごめん。もう一度、俺を乗せて欲しい」


 彼はそう言って深く頭を下げた。そんな姿に彼女は眼を丸くした。


『……あなたがどうして、さっきの答えに行き着いたのかは知らないけど、そこまで言うなら今ここで確認するわ』

「?」


 顔を上げたコウに、フルメルはグッと自分の顔を近づける。互いの鼻先が触れ合うほどの距離まで近付いた彼女は、真剣な眼差しでコウを見つめる。


『私と生きて、一緒に戦ってくれる?』


 コウはその言葉に静かに頷いた。


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