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精霊戦記フルミニス  作者: 師走
第四章 あるべきカタチ
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もう一度共にあるために

 時間は少し遡り、十数分前、演習場での試験はいよいよ実技試験に入っていた。生徒達によるバーチャルシミュレーションモードによる演習だ。クジで決まった番号ごとに並んだ生徒達が順に操縦する。最初は褐色の生徒だった。


「じゃあそれに乗って」


 ヴァレット・バレッツの隣には、電線の整備などに使う高所作業車が設置されていた。


 本来は分離したコックピットに乗った後、それを霊子駆動(スピリット・ギア)が回収するのだが、動作性に問題のあるヴァレット・バレッツでそれはできない。だからこうして、パイロットがこうして上って直接乗り込むのだ。


 褐色の少年はそれでコックピットの位置まで登り、手順通りそれに乗り込む。


『では、いよいよ私が』

「必要ない」

『へ?』


 次の瞬間、機体の神機外装に白い光が走る。それと同時に、ヴァレット・バレッツが動き出す。


『バカな! 私はまだ憑依していないぞ!』


 精霊の力なしに霊子駆動(スピリット・ギア)が稼働した。突然の事態に現場は混乱していた。その時、ヴァレット・バレッツから声が聞こえる。


『ハハハハッ! 遂に手に入れたぞ! 我が力を!』


 褐色の少年の声で高笑いするヴァレット・バレッツ。すると、それの胸部の砲門が開く。


「まずい! 全員退避!」


 スタッフが指示を出すが遅かった。砲門から高出力の光が放射され、演習場を囲む観客席を熱し、溶かした。新型機の突然の暴走を受けて、試験会場は混乱を極める。騒ぎは離れた位置にある格納庫にまで響いていた。


「何だ!?」


 藍川が立ち上がり、反射的にエルガンを抜く。


「大変です! 新型機が暴走しました!」

『暴走!?』


 それを聞いて、フルメルが立ち上がり、何か思いつめたように走り出した。


「お、おい! フルメル!」


 彼女はわき目も降らずに跳躍。瞬間、彼女の姿が消失し、すぐ近くに置かれていたフルミニスに魂が宿る。動き出したフルミニスは、格納庫内を全速力で走り抜ける。


「待てフルメル! 今のフルミニスは……」


 藍川の制止も聞かず、フルミニスは演習場の方に向けて突進した。


『セクンドゥムゥッッ!』

『ん?』


 フルミニスが絶叫しながら剣を抜く。と同時に、敵に向けてその剣を振りぬいた。


『ふんっ』


 だが、剣は右腕のガトリングによってあっさりと受け止められてしまう。


 彼女は一旦後退し、剣を構えなおす。


 しかし、冷静に見えて、剣の柄を握るその手は震えている。人間と同じ構造をした霊機内挌は、精霊の心の動きも敏感に感じ取り、彼女の内にある怒りと憎しみをその体に表す。


『誰だ?』

『忘れたとは言わせないわ。彼を殺したあなたを、私は許さないっ!』


 ヴァレット・バレッツに向けて再び突進。怒りの籠った斬撃が敵を強襲する。しかし、それはヒラリと横にかわされた。


『くっ!』


 続く斬撃も仇敵には届かない。

剣技と言うよりもただ剣を振り回しているかのような、彼女らしからぬの荒々しい攻撃は、全て紙一重でかわされる。


『誰かは知らんがこの程度か』


 詰まらなさそうに呟くと、剣を振りぬいてがら空きになった脇腹に銃口を突きつける。


 ダダダダダダッ


 回転する銃口から弾丸が何十発も撃ち込まれ、フルミニスは堪らず後退する。


『死ね』


 胸部の砲門が赤く発光する。同時に両足のアーマーの蓋が開き、中のミサイルが一斉に発射される。


 彼女も対抗してアサルトライフルを取り出し、ミサイルを打ち落とすべく弾丸を照射。


 広がる爆煙。


 次の瞬間、煙の中に赤色が煌めく。


『!』


 煙を晴らすほどの威力で発射された高熱のビーム。咄嗟にライフルを盾にしたものの、まともに攻撃を食らった彼女は力なく地面に伏した。


『終わりだ』

『させませんわよっ!』


 倒れたフルミニスに銃口が向けられたその時、演習場の壁を飛び越えて、上空からアクエリアスが飛来した。


「食らえ。ソードレクイエム!」


 アクエリアスが両腕の水流の剣を振るうと、剣先から射出された水がナイフとなって降り注ぐ。

『チッ!』


 セグンドゥムは即座に跳んで回避する。

 それを見て、着地したアクエリアスはすぐさまレイピアを抜いて敵へ突進する。


 ぶつかり合う金属の音。


 レイピアによる刺突はガトリングで受け止められてしまったが、そこで攻撃は終わらない。

 アクエリアスの背後に無数の水の剣が出現し、敵に向けて放たれる。

 襲い掛かる剣の雨。セグンドゥムはそれを全て受け止め、お返しと言わんばかりにガトリングを発射。


『がぁっ!』


 ゼロ距離からの射撃で、アクエリアスは後退する。


「大丈夫!?ウンディーネ?」

『まだ余裕ですわ……フルメル! 今のうちに撤退しなさい!』


 ウンディーネの声にフルミニスが反応する。


『……っらぁぁっ!』


 声を振り絞り絶叫、フルミニスは立ち上がる。

 しかし、その目的は敗走ではない。

ボロボロの機体を動かして向かうのは、相対する敵、セグンドゥムだ。


「ちょっ……バカッ!」

『はぁぁぁっ!』


 憎しみを込めて叫び、武器も持たず走る。迎え撃つセグンドゥムは隙だらけな彼女に向けて銃口を向ける。その時、


 ドォンッ!


 ヴァレット・バレッツの背中で爆発が起こる。


『ん?』


 両機そこで動きを止め振り返る。そこにはライフル型のエルガンを構えたコウの姿があった。



 ◆



 数分前、格納庫にやってきたコウは焦燥した様子の藍川と出くわした。


「先生。何があったんですか?」

「ヴァレット・バレッツが乗っ取られた。多分喰精だ」

「そうですか」


 コウは周囲を見渡す。そしてすぐに、そこにあるべき物がないことに気付いた。


「フルミニスはどこですか?」

「それならフルメルが勝手に使って突っ込んでいったよ」

「フルメルが……」


 すぐに演習場に向かおうかと考えたが、思いとどまって逆方向に走る。


「お、おい」


 慌てて藍川も後を追う。


 彼らがやってきたのは格納庫に併設された武器庫だった。コウはその中の武器をあさり始める。奇しくもこの状況はコウがあの女性を助けようとした時と同じだ。


「おい待て!まさか生身で戦うつもりか!?」


 違う点と言えば、


「戦う気はありません。俺はフルメルと話をしに行くんです」


 彼の在り方がほんの少しだけ、変わったことであろう。


「だったら何で勝手に武器を……」


 止めようとする恩師の腕を、コウは強く払った。


「お前……」

「俺はどんな処罰でも受けます。だから行かないと……行かせてください」


 コウのいつになく真剣な表情に、藍川の方もついに折れた。


「……分かった。ただし、フルミニスは元々メンテナンス中で万全じゃない。くれぐれもお前が乗り込んで戦おうとか考えるなよ」

「分かりました」



 ◆



 そして現在に至る。


 手榴弾を投げつけてどうにか敵の注意をフルミニスから反らすことに成功したコウは、すぐにアクエリアスに通信する。


「瑞希先輩、ウンディーネ。ヴァレット・バレッツを任せた」

『ちゃんと聞いてたのね。偉いぞ、と言いたいところだけど、先輩呼びするなら敬語くらい使いなさいよ』

「すまない。あまり慣れていない」

『全く、まあいいけど。こっちは私達に任せて。いいよね?』

『言われるまでもありませんわ。あなたも早く、フルメルと仲直りして、前線に復帰なさい』

「了解した」


 アクエリアスはすぐさま動き、フルミニスとヴァレット・バレッツの間に入り、戦闘を再開する。


「フルメル!」

『……何で来たの?』


 震える彼女の声がコウに伝わってくる。

 コウでもフルメルが今怒っていることは分かった。そして今は、彼女が何故怒っているのかも分かっているつもりだ。


「お前ともう一度話がしたい」

『ふざけないで! あなたと話すことなんて何もない!』


 それでも彼女には、コウの今の姿は初めてコウをフルミニスに乗せた時と同じ、身勝手で無感情な彼にしか見えなかった。


『あなたはもう、私のパートナーじゃない!』

「……俺は今まで、自分が正しいと思った行動してきた」


 だから彼は言葉を紡ぐ。


「俺が最善だと思う戦い方をしてきたつもりだ。そうすれば助けられると思ったから。けど間違っていた。俺のやり方は何も守れない」


 拙い言葉で思いを述べる。


「俺は人の気持ちが分からない。お前の気持ちも……よく分からない。でも」


 今の自分の思いを伝えるために。


「分からないから、もう二度と一人で勝手に判断しない。だから」


 大事なパートナーともう一度共にあるために。


「もう一度、俺を乗せてくれ」

『コウ……』


 その時、近くで爆発音が鳴る。

 遅れてミサイルは、コウに狙いを定めて飛来する。


「!」


 咄嗟にライフルをミサイルの方へ向けて照射した。しかし、それでも爆風によって彼が吹き飛ばされるのは避けられない。


『コウ!』


 フルミニスがミサイルとコウの間に割って入る。


 ドォォォンッ!


 空中で炸裂したミサイルが爆風をまき散らす。


「っ……フルメル!」


 爆風が止んだ時、目の前にあったのは彼を庇って破損したフルミニスの姿だった。


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