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精霊戦記フルミニス  作者: 師走
第三章 水の精霊
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VSアクエリアス 3

 二人の準備ができたかどうかも確認せずに、アクエリアスは跳躍する。

 ハンドガンを抜くと、すぐさまフルミニスに向けて発砲する。すぐさま右腕にシールドを発生させて弾丸を弾く。


「これは決闘とは言わないだろ」

『決闘という名の憂さ晴らしよ。まあ、不利な状況で戦う訓練にはなるんじゃない?』


 フルメルは投げやり気味にぼやいた。

 一方アクエリアスはと言うと、ほとんど不意打ちだった初撃を防がれて、体勢を整えるために一旦後退する。


『やりますわね。ならば……瑞希!』

「了解!」


 アクエリアスがレイピアを腰の鞘にしまい、両腕を広げると、両腕のタンクの蓋が開く。

 タンクから水流が放出され、生き物のようにうねりながら、形を変化させていく。

 やがてそれは二刀の水の刃となり、両腕は敵を刈る双刀と化した。


『私の連続剣。受けてごらんなさい!』


 アクエリアスが突進する。両脚のタンクからも水が放出され、アクエリアスを加速する。

 フルミニスもすぐさま背中から剣を抜き、水の刃に迎え撃つ。しかし、二刀で繰り出される高速の斬撃を、たった一本の両手剣では防ぐのが精いっぱいだった。


『くっ、やるわね』

『当然ですわ!』


 右の刃を受けてできた一瞬の隙を突いて、左の刃がフルミニスの胸を捉えた。

 高圧水流のブレードが、フルミニスの装甲を貫いた。


『がぁっ!』


 フルミニスの体がグラつく。その隙をついてさらに一撃。しかし、

 バチィッと火花が立ったかと思うと、水の刃はフルミニスの左腕に発生した障壁によって阻まれていた。


『その程度!』


 しかし、アクエリアスはそれで止まらない。先程よりさらに速度を上げた剣舞がフルミニスを襲う。

 剣を片手に持ち替えて、シールドと二つで防ぎ続けるが、元々両手持ち前提で作られた剣を片腕で持ったため、防御の速度が落ちている。


『コウ! いったん後退!』

「分かった」


 コウはレバーを押し込む。すると、フルミニスの左腕からアクエリアスの足元に電撃が走る。


『くっ!』

 アクエリアスが攻撃の手を休めた一瞬で、フルミニスは後ろに跳躍し、後退する。

『コウ、大丈夫?』

「ああ。まだ行ける」


 いつもの無感情な声で言うが、顔色はいつもより悪い。

 バーチャルとはいえ、魔法による反動も忠実に再現している。さすがに廃人になるようなことはないが、反動がなければ魔法を使う訓練にならず、実戦でペース配分を誤る原因になってしまうからだ。だが、対して瑞希は、


『瑞希? 気分はどうですの?』

「まだ許容範囲内よ。インターバル中に叩くわよ」


 瑞希は魔法の反動に対する耐性と、霊子制御能力がずば抜けて高い。それこそが、魔法を主な武器と使うアクエリアスのパイロットに選ばれた所以だ。


『はぁぁぁっ!』


 水の刃をしまったアクエリアスが、レイピアを構えて突撃。その瞬間に、背中のタンクから水が噴射され、アクエリアスを加速させる。


「フルメル。迎撃だ」

『分かってるわよ』


 コウが両足を踏み込むと、フルミニスの両脚の加速ユニットが起動する。

 フルミニスは雷の精霊が操作する機体という事で、その装備にも電気に関連するものが多数搭載されている。


 その一つがプラズマを使った加速ユニットである。


 プラズマとは、空気が陽イオンと電子に分かれて運動している状態。この装置の仕組みは、周囲の空気を電離してプラズマに変え、それに電流を通すことで生じた力で周りの空気を動かして、推進力を生むというものだ。

 燃料を積む必要がなく、たった一回の踏み込みで爆発的加速力を生む。


『なっ!』


 一瞬で距離を詰めたフルミニスが、その勢いのまま剣を突き出す。

 アクエリアスは咄嗟に足を伸ばして急ブレーキを掛け、瞬時に右腕で剣を上に弾いて軌道を逸らした。

だが、それだけでは回避しきれず、肩を掠める。


『コウ!』

「分かってる」


 さらにレバーを押し込み、魔法を起動する。

 剣が電光をまとい、金色に輝く。そして、剣をアクエリアスの首に向けて振りぬいた。


『ちっ!』


 右腕のタンクが開き、水が壁となって剣を受け止める。

 水の障壁に電流が流れ、激しい閃光と火花をまき散らす。

 二機は互いに距離を取り、アクエリアスは二丁のハンドガン、フルミニスはライフルを抜き、間髪入れずに発砲した。


 まき散らされる弾丸の嵐が、二体の装甲を少しずつ傷つけていく。そして、まき散らされた弾丸の内数発が、アクエリアスの四つのタンクを貫通した。


「しまった! ウンディーネ!」

『分かっていますわ!』


 アクエリアスは弾切れになった銃を投げ捨てて、海に向かって駆け出す。


『行かせない!』


 フルメルの意思を読み取って、コウは再びペダルを踏み込み、アクエリアスへの接近を試みる。

 しかし、敵は一歩早く、海に到達すると、すぐさま魔法を発動した。

 先程まで静かだった海が荒れ狂い、大波を巻き起こす。


『喰らいなさい。ソードレクイエム!』


 波から幾千もの水の剣が出現し、空を覆い尽くす。

 それは鎮魂歌(レクイエム)の名が示す通り、敵の魂を安息の死へと送るべく、一本一本が必殺の一撃

となって放たれる。


『これじゃかわしきれない!』

「もう一度加速して懐に飛び込む」

『無茶言わないでよ。フルミニスは水上戦なんて想定してないのよ?』

「向こうも魔法を使い続けられるわけじゃない。この攻撃の後には必ず隙ができる。それならアクエリアスの水上戦での有利はなくなる」

『はぁ……分かったわよ。最大出力でやりなさい』

「ああ」

『これで終わりですわ!』


 水剣がフルミニスのすぐ頭上まで迫ったところで、不意にその姿が消失した。


『「なっ!」』


 三度目の加速。

 それは水上を駆けるほど速く、降り注ぐ剣の雨を掻い潜り、アクエリアスの目の前まで辿り着く。


『ていやぁっ!』


 大技の使用直後。

 先ほどのように水の障壁で防ぐ事はできない。

 超加速によるエネルギーの乗った刺突は、アクエリアスの腹部を貫いた。


『がぁっ!』

「ウンディーネ!」


 しかし、アクエリアスは、ウンディーネはそれで止まらなかった。

 腰のレイピアを抜き、そのまま刺突する。


『!!』


 フルメルはその狙いに気付き、左手でレイピアを払う。

 それによりレイピアの軌道は僅かに逸れ、フルミニスの脇腹を刺した。

 だが、そこで攻撃は終わらなかった。

『瑞希!』

「ふふっ、りょーかい」


 レイピアの刀身に海水が集まっていく。


『しまった!』


 アクエリアスのレイピアに搭載された魔法は、刀身を水流で覆い、水の刃を作るだけの魔法だ。だが今、フルミニスの体に突き刺した状態で、刀身に水を集めればどうなるか。

 メキメキと、フルミニスの内側から嫌な音を立てる。

 その時、フルミニスの体全体が金色の光を放つ。


『何を……』


 光は徐々に強くなり、やがてフルミニスの姿を隠すほどになる。


 刹那、


 轟音と共に海面が激しく振動する。フルミニスから膨大なエネルギーが放出されているのだ。その正体は無差別に放電する魔法「ボルテックスバースト」。海上で無差別放電などを行えば、どちらの機体もただでは済まない。


「くっ、こんな馬鹿な事!」


 コックピットの中も、膨大な電力に耐えきれず、あちこちが火花を散らしている。

 アクエリアスも、レイピアを捨ててフルミニスから離れようとするが、神機外装が完全にイカれてしまい、思うように体を動かすことができない。


「ダメ押しだ」


 コウは照準も合わせずに、両腕の計十六発のミサイルを全て発射した。

 放電とミサイルによる大爆発は、海上の全てを巻き込み、破壊し尽した。

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