VSアクエリアス 2
着替え終わった二人は、それぞれのコックピットに乗り込んだ。
『今回は、バーチャルシミュレーションモードでの訓練よ』
バーチャルシミュレーションモードとは、精霊とパイロットが仮想で戦っている状況を再現する機能である。市街地や森、海岸など、様々な地形での戦闘を再現でき、これまで戦闘した全ての喰精と戦える。
『喰精との戦闘訓練には一番効果的なのよ』
「普通の訓練じゃできないからな」
「天宮君」
すると、モニターに瑞希の顔が表示された。
「何だ?」
「あのね、知らないかもしれないけど、私はあなたより年上……まあいいわ。今から私達と勝負しなさい」
「何故だ?」
「いい? 私とあなたはこの成田を守るパイロットよ。ここは対喰精戦の防衛の要、だから霊子駆動が二機配備されている。それはわかってる?」
「ああ」
「同じ場所を守ってるってことは、連携を取ることも当然ある。その為に対人軍事演習。対戦でお互いの癖を把握するのよ。仁とは何度も対戦しているわよ」
「だが、霊子駆動が相手だと訓練にならないんじゃないのか?」
「別に喰精相手じゃなくても大丈夫よ。人型の奴だっているし、魔法による攻撃を対処する訓練にもなるわ」
「そうなのか……分かった」
「じゃあ、待ってるわよ」
通信が切れて、モニターは再び真っ暗に戻った。
「さて、始めるか」
フルメルの指示通りセットされたエルフォンを操作する。
すると、モニターには海岸が映し出された。
どこかの島のビーチがモチーフなのだろう。砂浜の向こうには濁り一つない青い海がどこまでも広がり、逆側には森が広がっている。
そして、砂浜の上には一機の霊子駆動が立っていた。
フルミニスよりも細いフレーム、脚は槍のように鋭く尖っており、そこに取り付けられた円柱形のタンク、さらに両腕と背部にも同様のタンクが取り付けられている。
『このステージを選ぶなんて、あの子も相当意地が悪いわね』
「水無月がか?」
『いいえ。多分ここを選んだのはウンディーネよ』
『天宮コウ!』
すると、目の前の霊子駆動、アクエリアスがレイピアを構え、フルミニスに向ける。
『覚悟なさい。あなたはわたくしの剣の錆となり、ここで果てるのです!』
「……バーチャルだよな?」
『細かいことはいいですのよ!』
当の被害者たる瑞希よりも、ウンディーネの方がご立腹の様子だった。
『まあ落ち着きなさいよ。ルールは決めた方がいいかしら?』
『当然。決闘のルールはわたくしが決めさせていただきますわ。先に相手を再起不能にした方が勝利。以上!』
『あってないようなものじゃない……』
「大丈夫なのか? これは」
「天宮君。言っておくけど、私もさっきの事を許したわけじゃないから。仕事に私情を挟まないだけで。あなたに何言っても無駄みたいだし」
最後にボソッと発せられた言葉を、コウは聞かなかったことにする。
『それでは……始めぇっ!』