第1話 転移とやばい物
不定期更新
「……ぃ、おいって。とっとと起きろ」
野太いおっさんの声と、頬に当たる金属の感触。
目を開けると見慣れた天井はどこにも無く、薄明るい空が広がっていた。
「ようやくお目覚めかいあんちゃん。いくらここが自由の街と呼ばれるアンハリアで、日の出で誰もいねえからって、街道のど真ん中で眠るなんざ非常識すぎるぞ」
「え、あ…す、すんません…」
ぼやけた目で起き上がると、衛兵のような鎧を着た渋めのおっさんが俺をじろりと睨んでいた。こ、こわ……。というかこのおっさん、たぶんNPC…なんだよな?
衛兵にこんなセリフ無かったよなぁ……?
「はあ…面倒だが一応、確認だけはしとかにゃならん。カード出せ」
「は?え…えっとカード?」
「ステータスカードだ!あー…あんちゃん、見た感じ村出て職探しってとこだろ?だったら持ってるはずだろうが」
慌ててポケットや自分の周囲を探したが、カードのような物は見当たらない。
や、やばいな…これは捕縛されるパターンか?
「何やってんだ?…とっとと左手出せ。面倒かけさせんなよな」
「ひ、左手?」
「見回り終わって帰るんだよ、早く済まさせろ。《術なる言霊にて具現せよ、人物詳細》っと…」
「ぅ…わっ!な、何だよこれ!」
■――人物詳細――■
ナオト・クラシキ 人間
ノービス Lv01 サブ:なし
犯罪歴 なし
■――――――――■
おっさんが何か呪文のような言葉を口にすると、左手の甲からカードのような物がスッと浮き出てきた。これって……ステータスウィンドウか?
「……よし、犯罪歴は無えな。苗字持ちのノービスだぁ?何か訳有りってことなんだろうが俺を巻き込むんじゃねえぞ」
「ぅ、うっす…」
「あそこの赤い屋根の建物の隣が宿屋だ。寝るんならにそこに行きな。そのぐらいの金はあんだろ?じゃあな…はあ、やっと休める」
「…ぅ、ぇ…ぁ、あざっす」
おっさんは欠伸をしながらズカズカと歩いて行ってしまった。
ぶっきらぼうだが優しいおっさんだった。名前聞けばよかったな。
……と言うか
「マジでトワダンの世界に来ちまったのか、俺……」
キョロキョロと周りを見渡す。幾度となくPC画面の前で探索していた城下町、『アンハリア』の景色が今目の前にある。
「ラグナ様ありがとぉおおお!ひゃっほー……うわっと、人いなくて良かった」
ついさっき日の出のまだ早い時間とはいえ、今の俺は不審者この上ない。
人目に付かない路地裏に入り込み、自分の現状を確認する。
服は転移前に着てた安いTシャツとジャージのズボン。ポケットには銀貨2枚。
なぜかぼやけて見え難いと思ったら、裸眼でも問題ないほど視力が回復してた。
とりあえず、はずした眼鏡はポケットに入れておく。
「あとはお約束に従ってみるべきか?……よし、ステータスわおあっ!」
SF映画の装置のように、目の前に見慣れたメニュー画面が浮き出て表示される。
「びっくりした。すげえな…まったくと言っていいほど一緒だ」
■――ナオト・クラシキ――■
人間:男 所持金:200G
ノービス Lv01 サブ:なし
【HP】8 【MP】4 【TP】2
【攻撃】1
【防御】2
【魔法】3
【精神】5
【体力】3
【知力】99
【敏速】3
【幸運】99
【SP】0 【EXP】-- 1/2
■――――――――――――■
「知力と運…やばいな。あれか、知力はこの世界やり込んでたからで、運は神様に逢ったからってことか?」
『ノービス』ってのは無職、ジョブに就いてない状態のことだ。
ちなみにステータスの99はカンストの数字じゃない。無職でこれは異常値だが。
1/2ってのはページ数だな。画面に指を置き、スマホのようにスライドさせる。
スッと画面が切り替わり、別のページを表示した。
■――ナオト・クラシキ――■
装備 なし
2/2
■――――――――――――■
なるほど、Tシャツやジャージズボンは装備品の類にはならないみたいだな。
次は…持ち物か?いや、何も持ってないけどさ。出来ることは把握しておこう。
「アイテム収納数無制限の『魔法の鞄』はまだ持ってないからなぁ。えっと所持品画面はどうやって開くんだ?あー…、アイテムバッグ?アイテムボックス?」
ステータス画面の表示がぼやけるように揺らいで、別の画面に切り替わる。
『アイテムボックス』が正解だったみたいだ。
■――所持アイテム――■
バグ技一覧表
1/10
■――――――――――■
「ふーん、やっぱり個人のアイテム所持数は10個までか。これもゲームと一緒……って、はあぁぁあああっ!?何だこりゃ!とんでもねえ物持って来てんじゃん!」
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