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エピローグ

「みぃんなぁ~私の為にここまで来てくれて、ありがとぉ~」

 今までに無いようなノリと雰囲気でお決まりのフレーズを発する。そして今回は場所が場所故に声の反響が凄く、エコーのように私の台詞が木霊する。

 その台詞が消えかけた時。

「「「「「ウォォォォー‼ メリアスちゃ~ん‼」」」」」」

 新たな爆音が全て破壊せんとばかりに木霊した。

 例の合宿から一週間後。私たちは合宿とはまた別の面子でこの旅館ドイナカに戻ってくることとなった。

 内容は【シダ・メリアスライブ IN 湯浴み様銭湯】

 今現在ライブ会場として借りているのはあの大浴場。ナンデモ学園美少女部の男たちは私が上がっている浴場の上に設置された特別ステージのすぐ近くで大盛り上がりしている。ここで察してもらえると思うけど、皆完全にお湯でずぶ濡れである。

 普通ならタオルを腰に巻く、考えたくないけど裸で来る人もいたかもしれない。けど、今回そうならなかったのにはちゃんと理由がある。

「なんじゃこれは……」

 父上の存在である。

 軍曹に一番恐怖の種を植え付けられている美少女部の人たちだからこそ、大勢の人から似ているというお墨付きを得られている父上の存在は絶大だ。ここへ来てもらった理由は別にあったのだが、思いがけない効果もあった。

 ちなみに今回の開催、主導権はほぼ私にあった。そこでディーナに以下のことを約束させた。

 その一・今回集金した物は全てドイナカの修繕費用に回す。

 その二・衣装は私が選ぶ。

 その三・宣伝は私がする。

 勿論一の時点で大激怒である。けど、今の私にはそれを黙らせる存在がいた。

 もちろん父上である。

『ふしだらなことはやってないんですよね? ちゃんとした物着せてますよね? 変な物売ってませんよね?』

『あ、あんさんはぁぁ……っ!』

 前言撤回など商人にとって相手との信頼関係を完全に無くすことはしたくないであろうディーナが苦悶の表情を浮かべながら渋々許可した。

 おかげで普段なら風呂場だからバスタオルとか言われかねない所を水着ベースで露出控えめと言うディーナ完全激怒な服でライブをすることができた。

「きゃぁぁぁメリアスさ~ぁん‼ 義父様! 見てくださいあのメリアスの可愛らしいお姿」

「う、うぬ。確かにメリアスは可愛いが、これは……はて」

 父上が想像していた芸子の歌舞音曲とは全く違う音響に衣装に盛り上がりが父上を困惑させる。

 それでも私は下手なりに、体力無いなりに、努力不足なりに頑張る。

 汗を掻き、息を切らしながら私は源泉が湧き出る方を見る。

 そこには一週間前のやつれていた顔とは打って変わっての微笑みを浮かべるエドさんと、その奥にこの温泉、何よりエドさんを見守る湯浴み様の姿が、薄らと見えていた。


「コンサートを開いて昔の祭りみたいに盛り上げる?」

「そうです」

 源泉の騒動を出来る限り抑えることに成功した後、自分たちの部屋に戻った後私の案を発表した。

 それにまず反応したのは、丸一日近く湯に浸かっていたため、未だにのぼせていたディーナであった。

「まさかメリアスはんが自らうちの金儲けに付きおうてくれるとはな。いい社員をもったで」

 のぼせなど何のそのと言わんばかりに私の功績を讃え、感涙しそうになる。

 けど、今回ばかしはディーナの思うようには行かせませんよ。

「あ、収益はここの修繕に全て使わせてもらいますよ?」

「ナンデヤ‼」

「それくらいメリアスの為にしなさいよ。実際死にかけてたのよ?」

「それどころか逆に殺しかけたからな」

 尚その殺されかけたシルバーロード家の人は現在治療中。勿論その雇い主が見舞いに来ることはない。

「メリアスさんが私たちを思って助けてくれたんですよ! それ位のご褒美はしてもいいとは思います! 私もメリアスさんに今日は添い寝のプレゼントをします!」

「残念ですが、そのプレゼントは受け取れません」

 今日はとても疲れたので一人で寝かせてください。

「そもそもここの宿にいた悪霊にうちらは危険な目にあわされたんやで! 何でその大元に協力せなあかんねん!」

「悪霊じゃありません付喪神なので神様です」

「神様言うてもいい神様ばっかやないで。貧乏神なんぞ大敵や」

「それを聖職者の横で言いますか?」

「そうですよ! ディーナさんが神様を信じないから私もこんな目にあったんですよ!」

「えらい八つ当たりやな!」

「でもカトリナが被害にあったのは実際にディーナが穴の方に行ったからでしょ?」

「ん、うっ」

 痛い所を突かれたディーナが呻く。今回の事件でカトリナは完全にとばっちりを受けたことになる。

「でも、基金したいなら別にここでやらなくてもいいんじゃないの? 向こうで適当にタナカ達からお金巻き上げてあげれば」

「巻き上げるって……私が悪者みたいじゃないですか」

「ネクロマンサーじゃん」

「否定しません」

 ネクロマンサーですからね。

 クリスが簡潔な基金の方法を教えるけど、今回ばかしはそれではどうにもできないんです。

「父上が言うには付喪神は皆の記憶や思いから成り立った思念体みたいなもので、その存在が消え去る大きな原因が忘れ去られるからです」

「それは向こうで聞いたな。で、それとコンサートには何か関係があるのか?」

「コンサート場所を敢えて教えません」

「ん?」

 質問に答えが噛み合わなかったことにアーチェが困った返事をする。

「タナカさんたちなら何が何でも私の所に来ると思うんですよ。そこで数少ないヒントだけを告げて、そこを調べてもらって知ってもらうんです」

「ある意味強制労働ね。まぁあいつらならそれも苦に思わないでしょ」

 お化けの屋敷に単独で入り情報を手に入れたり、軍曹から逃げて船に忍び込む位ですからね。

「ここの守り神湯浴み様をヒントにして、湯浴み様のことを出来る限り知ってもらうんです。そうすれば例え間接的だったとしても皆の記憶に残ると思うんです。それで少しでも湯浴み様の力が戻ってくだされば、昔のようにいいお湯が湧き出るようになって、自然と客足がまた戻ってくれるんじゃないかなって」

「う~ん。うまいこと繋がるかしら?」

「最後に関してはエドさんに任せるしかありません。その為の収益でもあるんです」

「不本意やな」

 どうしても納得が行かないディーナではあるが、不本意と言う辺りもう許可を下さない訳では無いようだ。

「わあったわあった。好きにすればええで。場所と衣装くらいは用意したる。疲れたからうちはもう寝たいんや」

「ずっと寝てたんじゃないの? すっごく気持ちよさそうだったけど」

「言い訳無いやろ。長風呂も長風呂やで、気持ちわるぅなっとったわ」

「確かに、私ものぼせたような感じで今も少し夢気分のような感じです」

 ディーナとカトリナは囚われていたようなものだし、私たちも昼間からずっと働きっぱなしのようなものだったので疲れは相当溜まっている。

「じゃあ寝ましょ。昨日は違和感ばっかりで寝れなかったけど、今日はぐっすり寝れそうね」

「私は今日が始めてなのでメリアスさん一緒に」

 カトリナが飛びかかろうとした瞬間だった、部屋の扉を叩く音が聞こえる。

「メリアスよ、起きてはおるか?」

「父上?」

 叩いた主は父上のようだ。

「はーい。今行きます。皆眠たそうなので手短にお願いします」

「それじゃあたしたちは先に寝てるね。カトリナ、寝るわよ」

 立ち上がる私と交差するようにカトリナが床に落ちていくのを横目に私は部屋を出る。

「どうしたんですか父上?」

「うむ。娘よ、確か明日帰るのであったな?」

「はい、何事も無ければ明日帰りの馬車が来てくれるはずです。それがどうかしましたか?」

「頼みたいことがあってな。妻に文を出してもらえぬか? 暫くはこちらで滞在したいと」

「え?」

 それって、まさかうちに来るということですか⁉

「支配人殿の願いで湯浴み様を浄化するのは取りやめたが、悪意を持った行為を起こさないとは限らない。暫く大丈夫か監視する必要があるゆえに戻れぬと伝えてはくれぬだろうか?」

「あ、そういうことですか」

 良かった。家にいるとなるとアイドル関連でのぼろが出るのも時間の問題になる。今は不在のフロースが館に戻ってくればいつ口を滑らすかもわかったもんじゃない。

「わかりました。次の配達の時に急いで送らせますね」

「急ぐ必要はない。妻ならば儂の帰りが遅くなっても心配はせぬ。儂を信じておるじゃろうからな」

 いいえ、母上がただ鈍感でおっとりなだけかと。いつまでも起きてこないと思っていたら朝日を夕陽と間違えてまた寝てしまうような人ですから。

「それでは娘よ頼んだぞ。道中気を付けるんじゃぞ」

「はい、父上」

 用事を済ませると夜も遅いからか、久々の二人の時間を楽しもうともせずに踵を返す。

 今回の件で普段よりも大きくたくましく見えたその背中に、私は小声で告げる。

「また今度」


 ◇


 〝拝啓 母上へ

 父上は用事により暫く私たちが宿泊していた合宿先に残ることになりました。別にやましいことがあるわけではなく――〟


 その後ペンはすらすら進み、八割近く書いた所で大きく背伸びをする。

「五日後。ですか」

 無事ヘイワ街へ戻ってきてから二日後。ディーナが明日配達であると伝えに来たついでにタナカたち美少女部が解放される日がわかった。五日後だという。私たちが合宿に行く前から始まっていたから約二週間と言う長拷問となるが、解放後果たして無事に私の元に来れるのだろうか? ――まさか私たちが『ドイナカ』に着いたその日の夜に来るとは思わなかったけど――。

「それまでに出来ることは――特に無いかな」

 私がどんな下手でもあの人たちは喜んでくれるだろう。

 どうせあそこにいるのは。

 ……。

「少しばかし練習しようかな」

 そうだった。あそこにはまだ父上がいる。

 私が無事にアイドルをやっていけていることを見せてあげれば、今回みたいに突撃してくることもなくなるだろう。

 乗り気ではないけどカトリナとレッスンでもしようかな。父上の今後の暴走を抑えるために必要経費になる。

「でも」


 偶には来てもいいかもしれない。


 今回の件で父上の凛々しさを実感し、母上と父上が一緒になれたのが分かった気がした。

「あ、もうお昼」

 朝にディーナが訪ねてから文を書いて、気づけばもうお昼だ。

「昼食に……と言ってもあれしかないのよね」

 去年の夏、と言うよりもヘイワ街に来る前からフロースは夏になると長期間どこかへ行ってしまう癖があった。その際に長持ちする料理を作ってくれるんだが、それが一食を大量に作っただけであって毎食同じ物なのでとにかく飽きる。栄養面など知ったことではない。

「……。やってみるか」

 そう私に言い聞かせ、あの時公約した内容を実行に移すことにした。

 ……

 ……

 ……

「な、何ですかこの臭いは、お嬢様⁉」

「ふっ、ふぇぇぇ~ん……!」


 〝拝啓 母上へ

 もうちょっと料理のできる遺伝を持っていてほしかったです〟


 臓器を得るためにずたずたにした魔物の身体よりも凄惨な光景を前に、自身の驕りを母上にぶつける私が非常に悲しかった。


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