第4章-9 アイドルと湯煙事件
「よし、こっちが出口だぞ」
「待ってくださいアーチェさん! 灯りを周囲に向けないで‼」
今まで被害者として纏められていた人たちであったが、大事には至らず無事解放となった。が、この時点でこの一団は大きく二つに別れることを、すっかり失念していた。
男と、女だ
「「「きゃあああああああああああ‼」」」
洞穴が崩れんばかりの悲鳴が木霊し、思わず耳を押さえた。
悲鳴を上げたのは勿論後者。どのような理由でここに来たのはかわからないけど、ここへ通じる道は私たちが知る限りでは浴場からの道しかない。
となると、女子生徒は全員裸。
「何でお前がおるんやシルバーロードの倅! ここは女湯やで! おどれまさか女の裸体を貯め撮りしてタナカらにでも売る気か⁉」
「誰があんな変態共の取引相手になるものか! お前じゃあるまいし。それにお前なんぞのこけしスタイル何の価値があるというんだ!」
「こっ・けっ・しぃぃぃぃ⁉ おみぇわ勝手に入り込んでは好きかって言いおって! うちにも我慢の限界があるで!」
「お前が我慢なんぞしてる姿など見たこと、いたっ‼ 顔面をいきなり‼ 何を、おぶっ! メスで餓鬼でこけしの癖にどんだけ馬鹿力なんだよ⁉」
「うるっすうぇぇぇぇ‼ うちもドワーフや‼ かなしみのドワーフや‼」
「きゃぁぁぁ‼ 何してるのよ男子!」
「ちげぇ! ちげぇよ! と言うかお前らじゃないのかこっちの風呂に入ってきたのは!」
「はぁ⁉ 何考えてるのよ! 女子のせいにして、サイテー‼ あなたたちのとこの姫様に変な噂流すわよ!」
「脅しかよ⁉ というか俺は寒いから源泉近くに寄っただけでその後――その後は?」
「知らないわよ! 覚悟しなさい! 成敗!」
「ちょ、待て! 何でお前ハンマーなんて持ってるんだよ!」
「こ、ここは天国か。合宿を理由に美少女部の更生トレーニングと言う名の拷問から逃れてきてみたら鬼はいないは天使ちゃんがいっぱいいるわ。男だらけのむさいパーティーにしか入れなかった僕に遂に報われる日が……! よぉしいっぱい眺めてやる。そして麗しのCカップアイドル様の生乳を拝んで、その後隙あらば後ろから――っ」
ザバーン。
「これがここに蔓延んでる悪い気の正体ですね。メリアスさんに邪な思いをするなんて!」
「……んここは? ボイズ? ケイロン? あれ? そもそも俺がケイロンだっけ? いやゼトだったような――後――なんだっけ、そもそも俺誰だっけ」
「そうか……。そうだったな。少し前の僕たちもこんな状況だったのにな」
「うむ、そうであったな」
「父上、反省」
「うっ、うむ」
お手、なんて。
「……」
「湯浴み様? ……そうですね。昔は騒いでいましたね。温泉で酒を煽っていた男たちが壁の一部をぶち壊して「一杯どうだ?」と女湯に酒を持ち込もうとしてこんな感じになっていましたね。懐かしいですね……」
エドさんには湯浴み様の言葉がわかるのか? 或いは雰囲気で察したのか、とんでもない思い出話を語りだす。
「そ、それは営業として大丈夫だったんですか?」
「何名かは文句と怒りを並べてその後来なくなりましたが、大抵の人は無礼講と言う使い勝手の良い言葉で丸く収まってました。皆おおらかだったのでしょう」
「そうですか……」
堪らず聞き返したが、エドさんは苦笑していた。今の状況をその無礼講で鎮めることが出来るのだろうか? 無理だ。下手すると私がここに沈められる。
「まぁ恐らく、それが皆さんにここを覚えてもらえるきっかけとなり、この温泉を知ってもらえるきっかけとなったのでしょう」
「それが、付喪神の発生につながり、力へと変わったのだろうな」
皆がここにもう一度来たいと思い、ここを愛してくれていたからこそ、旅館ドイナカ、いや湯浴み様の加護があった温泉は栄えていた。
時代の流れのせいでそれが無くなり、今湯浴み様がこうやって悪事をしてまで人を寄せようとしている。
まるで、目の前で女子とは思えない暴れっぷりをするディーナさんのような悪知恵を使って。
――待てよ。悪意じゃなければ?
「エドさん。お願いがあります」
「え?」
私はある方法を思いついた。
人を呼び寄せ、大騒ぎさせる。
悪意から生み出されたそれを、今度は私自ら善意へと変貌させる。そうすれば湯浴み様の力になれるはず。
だから、
「今度、ここ貸してもらえないでしょうか?」




