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第4章-8 アイドルと湯煙事件

「ただの拳ぃぃぃ⁉」

 まさかの刀使わず。え? 何それ、その構えと技は何? そもそも刀の意味? 意味は?

「こ、これが島国の得物の使い方……」

「違いますからね! 恐らく、たぶん、と言うか絶対違うと思いますからね!」

 勘違いしそうになるクリスを説得する。この場にシャオがいなくてよかった。いや、いたらいたで変な刀の使い方が流行しそうで怖い。

 右腕の一撃は普通に考えたら透過しそうな湯浴み様を難なく捕え、皆が浸かる湯から追い出した。

「……まだ息があるようじゃな」

 果たして息と言う言葉が正解なのだろうか。どちらにせよ湯浴み様はまだ動く気配があった。けど、その動きは後退りしているように見え、もはや抵抗すら見せない。

「この者たちに罪はない。お主が何を望んでいたのかはわからぬがここまでだ。苦しまずにこの世から解放されよ」

 父上が拳を振り上げた時だった。

「湯浴み様!」

 ここにはいなかった声が大穴に木霊する。

 後ろを振り向くと私たちが通ってきた穴から携帯用火灯台を持ったエドさんが息を切らせていた。

「何でここに?」

 最悪の展開に声を漏らす。

「もしかしてこれか? 湯が干上がっている」

 アーチェが導き出した解を確かめると、私たちが通ってきた方へ流れていたお湯が完全に途絶えていた。いつからかはわからないが、浴場の清掃をしに来たであろうエドさんがそれに気づいてここまで来たのだろう。

 息も絶え絶えながら、父上ともう存在自体が希薄になりかけた湯浴み様の間に入る。

「申し訳ありませんでした湯浴み様!」

 そして携帯用火灯台(ランタン)を投げ捨て、その場で土下座した。

「私が、私がいけなかったんです。時代の流れに追いつけず、お客様が一人、また一人といなくなって、それに伴って従業員もいなくなり、私一人の力じゃ何もできなくなって。湯浴み様を祀れなくなってしまって。こんなひもじい思いをさせてしまって」

 エドさんの悲しみの懺悔はまだまだ続く。

「あなた様を祀れたのはもう何十年前でしょう。宿が廃れ、階段が崩れてもあなた様の為に浴場を綺麗にしてまいりました。それでも」

「残念だが、それだけでは間に合わなかったようだな」

 まだ続きそうな所に父上が待ったをかける。

「付喪神は人に愛され、覚えられてこそ存在する神様。良さを忘れられ、存在を忘れられ、人に忘れ去られた神はその存在自体が消えてしまう運命。無理矢理人を引きつけるような悪事をしていればいずれ悪霊になろう。そうなる前に何とかせねばならぬ」

「そ、そんな。どうにかできないんですか⁉」

 どうにかしたい気持ちはわかる。けど、こっちにも大切な仲間の命がかかっている。

「とりあえずここの人たちは解放して貰うほかない。このままでは衰弱死してしまう。そうなってしまえばこの旅館には人が近寄ることも無くなってしまうじゃろう」

「……」

 湯浴み様が父上の方を振り向く。自分の行いが自分自身の首を絞めるのはまだしも、ここまで頑張ってきたエドさんに対しても不利益をもたらしてしまう結果に終わることに絶望したのだろうか。

「でも、そうなると最終的に湯浴み様は忘れ去られて――ここはどうなっちゃうの? 湯浴み様とこの温泉にはどんな因果関係があるんですか?」

「付喪神は幾万以上いれど神は神だ。それだけの力を持っており、今まで栄えたのは信仰心だけではなく、付喪神の力があったからじゃ。その結果人が集まり、存在を認知してもらい、また神としての力が強くなる。逆もまた然り」

 クリスの疑問に父上が淡々と答える。詰まるとこ、この温泉がぬるくなってしまった理由は湯浴み様の力が衰退したからだという。その湯浴み様が消えてしまったら元の源泉に戻ることは二度となくなる、と言うことらしい。

 それは温泉が売りだった旅館ドイナカの終わりにもほぼ直結する。

「父上、何とかならないのですか? そうだ! 私たちが魔力を与えて」

「湯浴み様は付喪神だ。悪霊どころか死霊ですらない。残念じゃが根本の糧が違う」

 さっきまで皆と一緒に頑張ってきたのにこんなところで終わりを迎えるのは悲しすぎる。何とか打開策が無いか父上に問うが、返事は残念な物だった。

「……ん」

 悲しみにくれ、沈んでいる中聞きなれない声が反響する。

「あ……れ?」

 声の先を見ると一人の生徒がゆっくりとお湯の中に沈んだ手をあげ、目をこすっている。朝になって起きたかのように。

「目を覚ました?」

「どうやら付喪神の力が弱まって催眠が解けたのだろう」

 となると。

「ディーナさん!」

 近くで未だに目を覚まさないディーナの肩を揺らす。芯の無くなった人形のようにぐわんぐわん揺れる。

「ん、うぇ……なんや、目がまわ」

「あ、れ、わたし?」

 ディーナが目を覚ます。その近くでカトリナも目を覚ましたようで小さな声をあげる。

「大丈夫でしたか……ディーナさん」

「なんや、メリアスはん? 何で、こんな、暗、その前に、頭も」

 長湯をすればのぼせるのも当然ではあるが、一日以上となると長風呂の域を超えている。それ以前に悪霊寸前になりかけた神様に何をされたのかはわからない。とりあえず生きているから大丈夫、と言う訳ではなさそう。

「とりあえず皆さんをここから出しましょうか?」

「そうね。一刻も早く保健の先生に診てもらいましょう」

 私の意見にクリスが賛同する。

「儂は無いとは思うが湯浴み様の方を見張らせてもらう。支配人殿、穏便に済ませたいのであれば、ご協力を」

「湯浴み様に手荒なことが無いのであれば」

 湯浴み様自身は辛うじて健在しているようだが、力が全然無いとは言っても魔力を持った人外に対する免疫が無い人たちを罠に嵌めることくらいは出来るに違いない。そう踏んだ父上はこの中で一番理解力がある自身がその対処に回ることを宣言し、一番の関係者であるエドさんにも説得を入れる。

「ん、や? 何でや、男の声がしたで?」

 その会話にディーナが疑問の声をあげる。

 …………。

 あ。


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