第4章-7 アイドルと湯煙事件
「付喪?」
「島国に伝わる八百万と呼ばれる何物にも神が宿っているという風習から生まれた神じゃ。そしてこの神はこの温泉に宿された付喪。恐らく湯浴み様だ」
「あ、あれが」
霊視を解除し、よく見ると人型がエドさんの持っていたお札に描かれていた男性のような形にも見えなくはない。
ただ、お世辞にもそうは見えない。
「消えかかっているのか?」
「わからぬ。だが、言えることは一つ。今回の元凶はこ奴じゃな」
本当にエドさんを連れてこなくてよかった。まさか行方不明事件の犯人が昔から慕っていた神様だったなんて知った時には卒倒しかねない。
「ならこいつをどうにかするしかないわね」
死霊では無い物の、それに類似する存在のせいか、少しばかし手が震えながらも大剣を構えるクリス。
そのクリスを父上は左手で制す。
「あ奴の所は深いぞ。確実に虜にさせられよう」
「なら、ここは」
アーチェが長銃を構え湯浴み様に狙いを定める。
が、これも父上は制す。
「当たるとは思えん。半透明体だから透き通る可能性がある。それに落盤の可能性も捨てきれないであろう?」
「……そうか。これだけ地盤がしっかりしているなら落盤はなさそうな気もするが、跳弾すれば最悪無防備の生徒たちに当たる可能性もある。以前使っていた捕獲用の銃もあるが、水場で電気は最悪の相性だ」
アーチェも何も出来ない。地の理を活かした湯浴み様に対抗できる手段は悉く潰えていった。
かと言う私自身も手立ては少ない。まず死霊自体がこの温泉の誘惑に勝てるかが謎である。リッチなら湯に浸かることなく行動をすることが出来るけど、広範囲魔法は他の人を巻き込むことは元より、銃弾何かよりも激しい衝撃を与えてしまうことは崩落に繋がりかねない。
そうなると頼れるのは。
「父上」
父上の死霊たち。数多くいる配下は大体が歴戦の強者。このような状況でも対応できる輩は数多くいるに違いない。
再び現れる父上の強力な幽霊にクリスの目を隠す準備をする。
「その必要性はなさそうだな」
「え?」
「このような者に死霊を遣わせるほどの価値は無い。儂自らが向かわせてもらおう」
「ちょ、父上⁉」
そう断言すると父上はそのまま湯の中に入っていく。
思いがけない行動に困惑するわたしたち。それを見てかはたまた父上の奇行を見てか、湯浴み様が笑みを浮かべているように見える。
何故そのような命取りの行動をしたのか。そう思っていたが、何かが違う。
父上の表情が変わらない。
普段より若干怒った表情を浮かべながらゆっくりと湯浴み様の近くまで行く。そして腰近くまで湯に浸かった辺りで湯浴み様と対面できる場所にまで近づいた。
「この程度の力、いや信念であったか。これではまるで悪趣味な子供だな」
近づくまで何も発しない父上であったが、ここでようやく開口する。
「こうするしかなかった。とでも言いたそうだが、これが自らの首を絞めているとは思わなかったのか? ここにいるしかなかったのかもしれん。だが、もう少し周りを見ることも必要であったな」
父上の語りに湯浴み様が小刻みに震え、いや、明滅、消滅しかかっている。
「残念ではあるが仕置きが必要だな」
そういって父上は左手を鞘、右手を柄の部分に沿えるように持つ。
まさか、刀を引くのだろうか? 私が一度も見たことが無い抜刀を、今ここで見せるのだろうか?
辺りに一瞬静寂が訪れる。
クリスとアーチェも固唾を呑んで見守る。
一息吐く音。
それと同時に父上が動く。
「秘拳・浄化撃ぃぃぃ!」
右腕が唸った。




