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第4章-3 アイドルと湯煙事件

 その後悶着あれどイシュタル王女のパーティーと共に周辺の散策が行われたが結局成果は得られなかった。

 そして何も無く夕刻。そこでクリスから思わぬことを聞かされる。

「先生たちがいない?」

「正確には全員ではないわ。生徒たちが怪我をした際治療ができる保健の先生は残っていて、他の先生も数名は残ってたけど、捜索していた先生はほとんどいなくなったわ」

「他の生徒たちはどうだったんだ?」

「生徒で行方不明になった人はゼロよ。先生だけがいなくなったのよ」

「おかしな話だ。何故先生方だけが。先生方はどこを探索していたのだろう?」

「聞いた話だと私たちよりも少し広い範囲らしいわ。保健の先生が最後に見たのは私たちの朝食を取ってから先生たちも朝食を済ませて食堂で別れた所までよ」

 異常事態に困惑しているのは私たちでなく、生徒たちはもちろん一番先生との繋がりが強い生徒会関係者であるクリスさんたちもこの事態には困惑している。

「ど、どうするのですか! こうも容易く私たちを守る存在がいなくなるなんて!」

 イシュタル王女の嘆きも納得が行く謎の失踪事件、もしくは誘拐事件が皆に恐怖を煽る。

 そして今は二日目。迎えが来る明日まで待たなければならない。その間自分たちは否応なく危険にさらされる。

「事態は悪化しておる。故にここはもう四の五のは言えんな」

 災禍の巷。そこへ落ち着いた大人気ある声が聞こえる。

「父上」

「源十郎さん!」

 その声に答える私と応えるシャオ。

「儂の配下にも探索の手伝いをさせよう。あやつらなら逃げることも容易い」

「まさかまたネクロマンサーに頼るなんて……でもこのままでは」

 父上の提案は非常に心強い物で死霊ならば相手がよっぽどの聖職者や陰陽師でない限りは拘束は難しく、もちろん倒すことも困難。そして何より人足が増えることは直接探索の幅が広がることに繋がる。

 王女はネクロマンサーの手を借りることを拒むような物言いではあったが、普段の勢いは迫りくる恐怖の中に押しとどまってしまっているようだ。

「教授殿に聞いた話では明日に帰りの足が来るそうじゃな。皆はそれで帰るのが一番だ。それまではここで大人しくするのが一番じゃろう」

 確かに怖いので皆はそうしたがるかもしれない。恐らくイシュタル王女はそれに大いに賛同するだろうし、何人かはその案に首を縦に振るに違いない。

「あたしは最後までやりますよ。生徒代表の一人として、騎士として見捨てられませんから」

「成績はもちろん、評価の面にも繋がるだろうからな。僕も出来る限りはやるさ」

 けど首を横に振る人もいる。それも私の身近に。

「そうか。娘よ、お主は?」

 危険は確かにあるし、片や今現在の私がこうなってしまっている元凶、片や職業も存在も害悪な存在。助けることに対するメリットは特にない、と昔ならなっていた。

「私も最後まで探します。友達ですから」

「そうか。変わったな。いや、変わってくれたか」

 その台詞に笑みが含まれていたことに私は安堵する。父上がここに残ることを認めてくれてるみたいに聞こえるからだろうか。

「それで残った者たちは――一人はやる気だそうじゃが残り二人は」

 やる気に満ちているのは勿論シャオ。父上が未だに侍に見えてしまうのだろうが、娘である私自身、刀を抜いた場面を見たことが無いのだからそのような場は訪れそうにないと思うのだけど。

「私は嫌ですわよ! 自ら危険に飛び込むなんて」

「その方が良いな。そこの男に守ってもらうがよい」

 予想通りイシュタル王女は拒否した。シャオが抜けることに不満を抱くことも無く、大人しくゼノに守られることを流れるままに承諾した。こちら側としても変な騒動を起こさないでもらえることには大いに賛同である。

「そうは言うが、流石に今日はもう無理じゃろうな。日の入りが遅いとはいえ夕闇の森は夜とさほど変わらん。明日以降から儂も本格的に動くことになる」

 意気込んだはいい物の会話をしている間に夕陽はもう半分以上が沈み、仄暗い中古びた備え付け火灯台(トーチ)が頼りないながらも活躍しだしている。ミイラ取りがミイラになることだけは避けたい。

 夜中の探索は恐らく父上の死霊が行ってくれる。だからここで体力が削れている自分たちは体力回復に専念するべきなのかもしれない。

「じゃあまずは夕食だな。昼食も心許なかったからな」

 ちょっと言い過ぎ――と言いたい所ではあるけど、朝食で残った握り飯を持って行っただけであって今回は前日みたいに魚を取ったわけでも無かったので空腹だということもよくわかる。

「昨日は何だか時間かかってたみたいだけど今日は早々と出てくれるかしら?」

 そんな中発せられたクリスの何気ない一言。それが今朝の会話を思い出させる。

 宿、それも旅館と言う特別な場を提供する立場としてはただ寝泊まりする場所を整えるだけではいけない。それは常識である。が、それを実行できる体制でない人にそれを言えるのかと言われると事情を知った多くの人は言えなくなるだろう。

「私は昨晩何も食べられなかったのですわよ! ちゃんとした物を持ってこなくちゃ困りますわ」

 このように客人は絶対、と言う人も勿論いるけど、私はそれをどうしてもできそうにない。

「あ、すみませんちょっと私用事があるので先に行ってて貰えませんか?」

 そして居てもたってもいられずに私は用事があるかのように装うことにした。

「何かあったの? 忘れ物?」

「それとも急用か?」

 そこで有難い手が差し伸べられる。

 が、今はそれがとても困った。

 クリスもアーチェも疲れているし、無理はさせられない。何より、エドさんが抱える悩みを簡単に広めてしまうこともよくない気がする。

「え、ん、と」

「まさかとは思いますけど、ネクロマンサーあなたが!」

「ちょっと待ってください! 先生の時と一緒で私は何もしていませんから!」

 そして更なる横やり。それもどうやっても引かない無駄に面倒な横やり。

 こんな時ディーナやクリスの会話力が羨ましく思える。

「うむそうであったな。済まぬが儂の急用でメリアスを貸してもらうぞ。悪いことはせぬ」

 え?

 私が困っている所に助け舟を出したのはなんと父だった。

「そうだったのですか。なら仕方ありませんね」

 これにあっさりと納得するのがシャオである。が、勿論それで引かない人はいる。

「親子揃ってだとますます怪しいですわね!」

 勿論イシュタル王女である。ネクロマンサーを敵と思っている王女にとってネクロマンサー二人の用事など信用するに値しないのだろう。

「まぁ儂たちで無ければ出来ぬことじゃ。ここいらの死霊を出来る限り招集し、昨日の動向を全て知ることが出来れば早期解決に繋がるじゃろう。その為にはメリアスの力も必要になる。すぐに帰りたいのであればそれが一番ではないか?」

「ひっ。近づかないでくださいませ! わかりました! わかりましたわ!」

 父上の言葉には私なんかよりも遥かに説得力があった。勿論顔込みで。

「うん。それならいかない方がいいわね……」

 無論クリスは来ない。死霊の集会になる場所に飛び込むことほど酔狂でないことは私がよく知っている。

「できることが無いなら仕方がないな。いい結果を期待しているぞ?」

 アーチェも納得したらしくそれ以上質問を投げかけることはしようとしなかった。

 そしてすんなりと私は皆と離れることとなった。

「支配人殿の心配をしておったのじゃろ?」

「ばれてましたか」

 まぁわかりやすい以前にそのことを知っているのは私と父上だけだから必然的にそれが頭に浮かんだのだろう。それでもこの助け舟は嬉しかった。

「ならばすぐに向かうが良い。既に疲弊しきっていた支配人が右往左往しておったぞ?」

「あっ。そうですよね! 皆の分作ってたらもうやっていないと間に合いませんよね!」

「足元には気を付けよ」

「どぇぇっ‼」

 もう少し早くぅ!

 そして私も早くぅ。


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