第3章-3 アイドルの父会合
父上。騙されています。先ほどの教えをもう一度音読されてみては。
「ディーナさんわかりましたか。メリアスさんのアイドル活動もいいけど、しっかり休みをあげてお父様の手紙を書く時間を増やして、私のレッスン時間を増やして休憩時間を増やして私と二人っきりの打ち上げの時間を作ってプライベートルームの予約をしてください」
「まぁせやな。前者だけな」
「全部でお願いします」
「前者だけや」
こちらは騙せませんね。
「で、これで良かったわけメリアス」
「さ、さぁ……」
「もしかしてあたしの家に来たのって」
「ご想像にお任せします。大体正解だと思いますが」
ここまで見せたのだからクリスの観察力なら正解を導き出しているだろう。
「ディーナ殿。何卒娘をよろしくお願いします。それと――」
「将来に支障が出るようなことはせえへん。約束や」
「いつまで保つ――うぐっ」
「今は黙っていた方が吉よ」
すみません。いつもの癖みたいで。
「そろそろ焼き具合がいい感じに、いや少し通しすぎているようにも見えるが」
「む。儂としたことが乱心で失念しておったわ。すまぬな、客人に世話を焼かせるとは」
私たちがいろいろやり取りをしている間にアーチェは火の番をしていたらしく、焚火を囲む魚たちからはいい匂いが漂っている。
「では、品も無いが詫びの品として受け取ってくださらんか?」
木の棒に貫かれた魚をまるで宝剣の如く丁重な扱いでディーナに授ける。
「僕たちもいいのか?」
「是非ともだ。我が娘の友たちよ」
その言葉を受け、皆魚を取る。よっぽどお腹が空いていたのだろう。
その中にはイシュタル王女とゼノも含まれており、ゼノは図体に匹敵するような食欲を見せ、イシュタル王女は食べ方がわからないのか、他の人たちを見て頑張ろうとするが、そもそも皮から身に到達することさえできない。
「何の味付けも無いけど、お腹空いていると自然の味が本当においしいわね」
「こういうのには高級なアカン湖の塩とか使うと更に味が良うなるんやけど、これもこれでありやな」
こっちのメンバーもそれぞれの感想は違えど満足しているようだ。
「どうしたメリアス。食べんのか? 何ならお父さんが昔のように食べやすく」
「結構です」
「それなら私が口うつ」
「結構です」
二回言うのは骨が折れます。
とりあえず父上が納得? してくれて安心した。まさかの二人が繋がるという面倒な展開にはなってしまったけど。
これで前代未聞の危惧は去っていった。後はお腹を膨らませて――。
「ぬ?」
「ん?」
反応は二人からあった。
「どうしたのですか?」
「どうかした?」
唐突な発声に私とクリスが父上、アーチェ双方に問いかける。
「誰か近づいてくる」
それに答えたのはアーチェであり、父上はその客がくるべき方を向いている。
一体何がわかったのか。父上が向いている森は風に揺れるだけだった。
が、次第に何かが擦れる音が聞こえ始める。そして声も聞こえる。
「こっちだったよな! そうだよな!」
「おい待て! ここは森の中だぞ! そんなのいるわけが!」
荒げ語り合う二人の声が聞こえる。気のせいかこの二人の声どこかで聞いたことがある。
「あっちだな」
「と言うかあいつらやないか? ヤンとシャオやないか?」
「えっと……」
「イシュタルのパーティー、騎士道の二人だ」
あ、そうだった。確かそんな名前。
でもあの二人って確か馬車を追っていったのでは?
疑問に思うも、肝心のその二人が森の中から出てきたことによって真実と化す。
「やっぱりだ! いたぞ! あれがかの侍だ!」
「ま、まじかよ……確かに刀っぽいもの持ってるぞ。疲れてんのか俺?」
そのうちの一人、青髪の人。こっちがヤン? だっけが、私の父上を指さして叫ぶ。一方のシャオはそれに驚愕する。あれ? 私の曖昧な記憶では赤髪の人の方がうるさくて、青髪の人の方が冷静じゃなかったっけ?
「あなたたちなんでここに⁉」
「げっ。イシュタル様」
勿論イシュタル王女も黙ってはいない。渡り舟を託された漕ぎ手がこんなところで油を売っているのだから仕方のないことだ。
「失礼いたします! あなたはもしや島国にいる伝説の侍と呼ばれるお方ですか⁉」
それに返事――をせず、父上の方へ真っ先に向かう青髪少年。
「む。確かに昔はそのように呼ばれていたことはあったが今はただの一児の、メリアスの父だ」
「はっ⁉ こいつネクロマンサーの父ってネクロマンサーじゃねえかよ!」
腰に備えていた得物に手をかける。
「礼儀を知れヤン! 武士道の掟で敵であろうとまずは名乗るのが礼儀なんだ!」
「何で果し相手に名前教える必要性があんだよ! おいもしかして騎士道ってその武士道から取ってきたのかよ⁉」
「いや、確かに果し合いや申し込みでは名乗ることはあると思うが、この場合は――」
何かよくわからないけど、父上をお侍さんと勘違いされているようだ。昔の名残でこの服を着ているから間違えられるのは致し方が無いことではあるけど。
「話をお聞きになりなさい! あなたたちは何をしているのですか!」
「うっ……」
赤髪の、どうやらこっちがヤンらしく。ヤンは困った顔をする。先ほどは無茶ぶりをするイシュタル王女とアグロスに応対していたシャオは現在父上を見て目を輝かせる始末。こうなったら事の本末を説明しなくちゃいけなくなるのはヤンになる。
「俺とシャオは馬車の後を追って戻っていたんすよ。けど、行けど行けど、全然追いつく所か何か離されている感じがして、このままじゃ足が動かなくなると思って森を抜けて回り道をすることを提案したんすよ。それが仇になるなんて……」
「で、その途中でメリアスの父を見つけた訳ね」
「まさかネクロマンサーの父が侍とか思う訳ねえだろ! シャオが島国とか武士が好きなのも悪いけど。何でお前の親父侍の恰好してるんだよ!」
「それは私に言われても……」
闘技大会とは違う威圧を感じながら目を反らす。
「で、戻ってきたと言う訳ですか! せめてあなただけでも追いかける考えは無かったんですか⁉」
「すみません! いや、でも馬車に追いつくこと自体が」
「む。馬車とはあの行列を成していたあれか?」
ヤンがイシュタル王女に怒られる中反応したのは意外にも父上だった。
「え? あんたそれ」
「何と先に見られていたのですか⁉ 私たちはあれを追っていたのですが、何かご存知なのでしょうか?」
ここぞとばかりに話せると思ったシャオが一気に喋り倒す。
「何を隠そうあの者たちからメリアスのことを聞いたからな」
「え? 父上は私がここにいると館の者たちから聞いたのではなかったのですか⁉」
「ここまで来たのは単純に勘。後、気配だ」
〝拝啓 母上へ
父上が今ものすごく怖いです〟
「タナカ以上やな……」
「メリアスも苦労してるのね……」
「クリスさん。お互い様でしょう」
苦労しますね父には。
「それでその馬車は?」
「メリアスと言う名ではわからぬかったから紫色の髪の生徒がいたか問うたら騎手の一人が乗っていたと答えたからどこに行ったか答えさせてなここら辺だとわかった」
「それで応えさせた後、騎手の人たちは?」
「うむ。それなんだが――」
父上が首を傾げ、くぐもった声で答える。
そこでなんとなく嫌な予感がした。
「儂を見るなり『軍曹が追っかけてきたんだ! 俺たちも巻き込まれるぞ!』と叫んで、ものすごい勢いで馬に鞭打ち出したのだが。あれは何事だったんじゃ?」
…………。
「本当に似ているんですね」
「よ、よく見たら確かに似てるかもな」
これについてはヤンも同意してきた。
「てことはつまり」
「そういうことやな」
クリスとディーナは顔を合わせ互いに同じ答えが出たことを確認しあう。
「馬車は帰ってしまったというのですか⁉」
誰もが辿り着いた答えにイシュタル王女は嘆いた。




