第3章-2 アイドルの父会合
クリスはネクロマンサーを前にヘイワ王族の騎士であることを告白する。
この告白が意味することは――敵対。
普通は告げないことを果し合いの名乗り同然に名乗ってみせる。
「うむ。確かにその名には覚えがある。ディーナ殿の次、いやそれ以上にその名がしたためられていることが多かった」
父上からの返事に少しばかし驚いたクリスがこちらの方を向く。私の方に優しく微笑んだ後、すぐさま真剣な表情に戻り父上へと向き直る。
「ディーナの件についてあたしは何も知らないんですけど、メリアスのことについてはよく理解しています」
その言葉がすごくありがたかった。現に今私が困っていた所に助け舟を出してくれたのも彼女である。
「メリアスはお父さんがおっしゃられていた通り世間知らずで、よく勘違いもしますしよくわからない行動も起こします。引きこもりがちで運動神経良くないから面倒事を起こすこともあります」
泣いていいですか。自覚はありますが。
「それでもある程度の一線は避けていますし、もし危ないことがあればあたしが止めます」
「ほう、止めるとなそれは何故にだ。騎士と言う名を持ちながら」
普通は相対しなければならない者の守護。それの意味を父上は問う。
「簡単です」
それにクリスは言い返す。
「騎士以前に友達だからです」
単純でありながら説得力のある一言は父上を黙らせるには充分だった。
「ふっ。なるほどな」
その一言に父上は初めて柔らかい表情を見せた。
「そうです! クリスさんもそうですけど、私も友達、いえもう家族みたいなものです!」
ここで勝手に聖職者の家族が仲間入りする。
流石に聖職者の発言は動揺したらしく父上の顔が固まる。大丈夫です。本人の妄想なので。
「まぁ元は何より、今は友達と言う形で正しいんだろうな、ディーナ」
「ん、ま、まぁそうやな」
アーチェもその発言に加わりディーナも同意する。
「「「…………」」」
流石にイシュタル王女たちの同意は無い。と言っても一人は無口で、一人は未だに気絶中である。
「メリアスは今人前に出てアイドルと言う活動をしています。その活動はディーナ主導で動いていますが、あたしたちも関わったことが何度もあります。もしディーナが信じられなくてもあたしたちは信じて貰えないでしょうか?」
ディーナのようなたどたどしさが無く、凛としたクリスの発言が父上に通ったか。父上は閉眼し、口を噤む。
「父上……」
心配するように父上を見る。
私のいくすえはこの父上の発言にかかっている。
「駄目だ」
「なん!」
「何故ですか?」
父上の返答はNo。
ディーナが愕然とする中で、クリスは毅然と問う。
「信用できないのであれば」
「信用はしている」
「しているのですか? では何故」
「儂が、」
あ。これは。
「? 一体」
「もう限界なんじゃぁ‼」
あ、あぁぁぁ。父上の限界がきてしまった。
「娘が! メリアスが恋しいんじゃ! 今生の大半をもう離れ離れで暮らして! 儂は! 儂は!」
まだ一年ちょいなんですけど。
「あ、あの……これは」
「すみません。父上の病気みたいなものです」
前半できる限り穏便に済ませようと努力していたのだろうけど、とうとう決壊の時が来てしまったようだ。
普段は死霊からも村の人たちからも頼りにされている存在なんだけど、私のことになると何故かこうなってしまう。
「儂は反対じゃったんだ! 娘をわざわざきけ――、生活の為のじゅ――、テリ――、まっもうぉぉぉぉぉ――‼」
我慢した。我慢しすぎて爆発してしまった。
ひた隠しにしてきた私はもちろん、それを盾に色々やれているディーナも内心不安になるが、ホッとする。
「え、ぇっと。どうすれば――」
まぁこれが困るのは今まで真剣に立ち会っていたクリスである。
「儂はど、ど、どうすればいいんじゃ!」
「逆にどうすればと言われたな……」
普段クールに物事を解決してくれるアーチェすら戸惑わせる父上の嘆きは止まる気配を見せない。
仕方がない。こうなったら甘えた演技でもして宥めるしかないか。
「父上……」
「おぉぉ、我が娘よ……」
「私は――」
「わかりますその気持ち‼」
私の渾身の劇は熱意のある同意で遮られた。
「私だって会えなくて会えなくて辛いんです! 本当なら毎日会いたいのに、家で一緒に食事したい、一緒に歌を歌いたい、一緒にお風呂に入りたい、一緒に寝たいのに、いつも皆が、特にディーナさんとクリスさんが邪魔をしてきて! 皆わかってないんですメリアスさんから溢れ出る愛らしさに! けど、私は知っています! お父様が嘆くほどのメリアスさんへの愛が私にはひしひしと伝わってきます! その悲しみ、私が受け止めてあげます!」
聖職者がネクロマンサーに教えを与えるんですか。それとお父様って。
「お、ぉい、あんさん。今そんなこと言うとる場合やないで」
「いえ! メリアスさんを愛してやまない人が今ここにいるんです! 皆さんはメリアスさんを蔑ろにしすぎです! もっと愛しましょう! そして私に愛しさせてください!」
それは蔑ろにしているのではなくカトリナが愛しすぎているのだと思います。
と言うか聖職者がネクロマンサーを愛すこと自体おかしい話で、ネクロマンサーである父上がカトリナに同情するなど。
「わかってくれるかぁぁぁそなたよぉぉぉ‼」
「同情したぁぁぁー⁉」
「今はよくなった。投写水晶と呼ばれる素晴らしい物が私の元に届くことが多かった。昔は娘からの文だけ……それを見ながら娘の元気な姿を想像していた。それが今じゃほとんど届かないんじゃ……。儂は、儂は、それがとても辛くて。娘が変なことに巻き込まれているのではないかと不安になって飛び込んできて娘を見た瞬間、どうしても連れ戻したくなって」
「解りますその気持ち。メリアスさんがかわいいから近くにいたい、寧ろ置きたいと言うのは私も痛いほどわかります。けど、メリアスさんはお父様の物でもありますけど、皆の物でもあります。お父様がメリアスさんを連れて帰ってら悲しむ人がこっちにもいるんです。メリアスさんからの贈り物は私が必ず一度楽しんでからお届けいたしますので安心してください」
「そ、そうじゃな。――娘よ。うぅぅ。いい友を持ったな!」
〝拝啓 母上、里の皆さんへ
父上が堕ちました。聖に〟




