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第3章-1 アイドルの父会合

「新参もいることなので改めて。拙者シダ・メリアスの父、志田源十郎と申す」

「ほ、ほんま島国が混ざっとったんやな……」

 父上の謝罪にディーナが嘆息する。

 人工の生け簀状態となった岩場にはここにいる人数には十分な量の魚が閉じ込められていた。それだけの食糧を確保していたところを見るに、父上はここで何日も私を探す気だったのだろう。

「本当にこいつは軍曹じゃないんだよな⁉  俺は何度も見てきたんだぞ!」

 父上の紹介にアグロスは激昂する。

 けど、その内容はネクロマンサーの父親が出てきたからと言う訳ではなく、父上が軍曹なのではないかと言う疑問によるものである。私からしてみれば似ている部分は男性であるとか大柄であるくらいしかないのだけど、他の皆も初対面では完全に見間違えてしまうほどだったという。

「……」

 父上の出現によってイシュタル王女は更に躍起せねばならぬ事態であるというのに萎縮してしまっている。

 アグロスが怯えを隠すために怒鳴り散らすように、王女にも軍曹への畏怖があった為、下手に討伐だなどと発しにくくなっているようだ。私からしてもこれはありがたい傾向で、ここで王女が私をつけ狙っていることを察しられたら父上の強行は防げなかっただろう。

「お前相手が誰だかわかってるのかよ⁉」

「当たり前だ。かの侍に決まっているだろ!」

「ちげぇだろ! ネクロマンサーの親ならネクロマンサーだろ!」

 そして――何故かここにいる馬車を追っていった赤髪と青髪の生徒二人。名前は――タンとシオ?

 この二人が戻ってきた理由には父上が深く関わっていて、それが今夜の私たちに大きく関わっていく。

 そのことに頭を悩ませながら、囲炉裏よろしく焚火で焼かれた魚を頂くのであった。


 話は父上と遭遇した少し後に戻る。

 皆が軍曹と間違うなか、私が根気よく説明をした。裸で挨拶ははしたないと父上を叱責し、普段見慣れた古臭い感じの着物姿に着替えてからは違和感を覚えたのか、皆信用してくれるようになった。イシュタル王女を除いて。

「お嬢様……今お食事の方をお持ちに――て何故お前がいるんだ軍曹‼」

 そしてアグロスもまたその一人。

 男女で罰の重みが変わるのかどうかは知らないが、アグロスはタナカ並みに軍曹への恐怖心が高い。

「遅いですわよアグロス! 今まで私がどれだけ散々な目を――て何ですかその死骸は⁉」

 散々とは言うが別段父上は何もしていない。睨みを効かせた問いかけではあったが別段脅していた訳ではない。島国では戦人であった父上であったが、無駄な殺生を拒んだ父上は戦地でもできる限りは負傷、気絶、最悪重傷で済ませるようにしていたという。そのようなプライドを持ちながらも戦闘狂のカムシンとは主従を組めたのは単純に父上の実力があったからなのだろう。

「予期はしておったが、はてまだこれほどの人がこの森に迷い込んでおったとはな。今この物たちを焼こうからしばし待たれよ」

 既に大量に上がっていた魚に目を配らせた父上はそういうと川から少し離れた木々の方へ向かい。

 ――あぁ。

「クリスさん」

「え? 何。何であたしの目を隠すの⁉」

「見ない方がいいからです」

 私はさりげなくクリスの目を手で覆い隠す。これから起こることを理解し、尚且つそれがクリスにとっていいことではないことを私は知っていたからだ。

「盟約行使。ザギリ」

 父上が召喚陣を行使し半人半蛇のような死霊を行使する。

 呼び出されたザギリは与えられた使命をまるで理解していたかのように大きな木へと向かい、下半身の蛇の部分を使い、獲物に巻き付くように木の上へ上へと上がっていく。

 やがて生い茂る葉の中に入る。

 刹那。

 ボトボトボトボト。

 大量の木の枝が地面に落ちてきた。

「ご苦労であった」

 その一言で木の上から感じた強力な魔力は消え去った。元は類まれな暗殺者であったと言われるザギリでさえこの従順さ。改めて父の凄さを思い知らされる。

「クリスさんもういいですよ」

 こんなところで気絶させられても困るしこの前の島みたいに暴れられると更に困るから目を閉じさせていたが、ザギリが冥界に戻ったので目隠しを解く。

 ……。

 返事がない。

 まさか、と思うまでもなくその応酬が否応なく襲い掛かる。

「えっ⁉ まさか気配だけで気絶⁉ ちょっと待ってください! クリスさん起きて! 重い! 潰れる! 潰れ!」

 自分の意思で立つことを止めたクリス――大半は鎧――の全体重が私に覆いかぶさるように迫りくる!

「ディーナさん! 例の呪文を!」

「嫌やわい! 全く何やっとるんや」

 ディーナが呆れた声をあげ、一緒にクリスを押し上げる。

 単純に人数が二人になった以上にドワーフの力を借りることができたおかげでクリスを押し戻すことができた。

「クリスさ~ん。戻ってきてください~」

「え? っは? あたし何してたの? と言うか何でメリアス疲れてるの?」

 カトリナが何らかの治癒的魔法を使ってクリスの正気を取り戻す。説明するのも面倒なので無視する。

「さて、後はしばし待てと」

 そんなことをしている間にも父上の作業は終わったみたいで、焚火の周りを魚がぐるりと一周している。先ほどの枝は薪の代わりと魚を突き刺して固定する物だったようだ。

「一瞬だったな。何も手伝う暇がなかった」

「野生児みたいですからね……」

 居と言うものを持たなかった時代が長かったせいかこういうことには長けているのが父上である。だからこそこんな暴挙にも出られたのだろう。

「では……」

 隣に薪を積み上げてある岩の上に父上が腰をつける。ここで火の番、と言うだけでは無いことを私は察する。文のことを知っている私だからこそ次に起きることがわかる。

「ディーナ殿はここにおられるのか?」

 予想通り。回りくどいことはせず、大本にケリをつけにきた。

 ただならぬ雰囲気はディーナに限らず、ここにいた全員が気づいただろう。

「うちや」

 が、その空気を払うかの如くディーナは勇猛に前へと出る。下手な血を流したくない父上がこれから行うのは恐らく交渉。それならば豪商の娘であるディーナにも分がかなりある。

「ん……。まず初めに、このような何もない席で申し訳ない」

 話し合うには全く持って相応しくない野外であることを父上が詫びる。私を立場上雇っている人物が娘である私よりも幼い容姿に声を詰まらせたようであったが、見た目に惑わされることはなかったようだ。

「それと、娘が何らかの不手際をしたことを詫びたい」

 そういうと父上は立ち上がり、砂利が敷き詰められた河原に両膝を折る。

「誠に申し訳なかった!」

 そして両手を地につけ、前頭部すら地につけ謝罪した。所謂土下座である。

「い! いやいや! そ、そんなのうちは望んでへんで! 頭上げいていや!」

 この状況に普段なら強気で行くのではないかと思われたディーナも毒を抜かれ、慌てふためくという新鮮な姿を見せる。

「ぐ、軍曹が。あの軍曹が頭を下げ――天変地異か! いや、今こそ反逆の時! 往年の恨みここで晴らさせてもらうぐっ⁉」

「話がややこしくなるから眠ってなさい」

 アグロスが何か訴えていたみたいだが、それをクリスが一撃で沈める。

 そのことをイシュタル王女はもちろんゼノもお咎めしない。寧ろ父上とディーナとのやり取りの方が気になるようだ。

「かたじげない」

 大男の太い腕をドワーフ少女の細腕が引いて起き上がらせる。

「謝ることないんやで。うちもメリアスはんには世話になっとるし」

 そのことについては間違いではない。ある程度の改変がなされ、かなり美化された文ではあるが、そのように書かれている。

「では。ディーナ殿にお聞きしたい。最近娘からの手紙が少ないのは如何ほどの理由なのだろうか?」

「え。あ、あぁぁ……それは最近忙しかったもんでな……。色々行ったり来たりで。島の方にも何日かがかりで行ってもきたしなぁ……」

 まぁ実際その通りで夏休み入る前はもちろん。夏休みに入ってから、この合宿以降は忙しくなる予定である。

「では、娘が行っている活動、『アイドル』と呼ばれる物についてお聞きしたい」

 これについてはだいぶ初めの方に伝えたことであってヨミガエルへの物資運搬をしながら――実際私がやっているわけではないが――ディーナの元でアイドルをすることになったと書いた。理由については私が普段使っていた運搬業者がディーナの会社だったということになっていて、そこの備品を壊したから弁償という体で偽っている。

「あいどるとは人前に出て歌や芸当などを披露する代物だと娘から聞いておるのだが、舞子ないし踊り子とみてよろしいのだろうか?」

「ん~……実際に見たことはあらへんけど、同じもの何か――な?」

 疑問文で答えられると怪しまれますよ。実際に投写水晶の販売とかグッズ販売とか少しばかしおかしなところとか、後は客人の異常さとか。

「メリアスはまだ年端の行かぬ娘。もしものことがあってはならない。古巣の方では裏で踊り子を水商売に使っていた輩もいた訳だが」

「いや! 流石にそこまでは行かんで!」

「そこまで?」

 ぼろが出た! 例の貝殻水着とか見せていたら父上ご乱心だったかもしれない。

 何らかの裏があると見た父上はディーナをじっと見る。睨むではなく見るの表現が正しいが、普通の人よりも少しばかし細目で強面の父上にディーナは汗をかきながら向き合う。

「娘は――その、人見知りが激しくあまり人前に出る子では無い。学校にもあまり行きたがらなかったこの子に色々教えてくれたことを感謝する」

 ネクロマンサーである私が何故ここヘイワにいるのかはディーナ以外知らない。そのことを知られない為に父上は逸話を作り上げる。

「しかし、娘は世間知らずの田舎者。このまま都会に染まって危ない橋を渡ってしまうのでは無いかと父親として不安でならない」

 父上の声は静かだった。が、それを保っていられるのはいつまでか想像できない。

「故にメリアスを連れ戻しに来た」

 遂に本題を口にした。

「そ、それはこっちとしても困るわ! メリアスはんにはまだ返し切れてない物が!」

「それについてはこちらで話し合おう。そもそもどれだけの損害を娘が出したかは知らぬ。物を見てそれ相応の対価を支払おう」

「う、そ、それはもう直してもうて」

「ではその時の証拠品を見せていただけぬか? かめら、と呼ばれる物があるのであればふぃるむ、が残っているはずじゃな」

 今度は無い証拠を求められた。私が投写水晶を送ったせいか、父上は妙な所で最新の物に詳しくなってしまった。

 …………。

 …………。

 これは気まずい。と言うよりもやばい。

 ここでディーナが変に口を滑らせれば嘘がばれてしまう。

 もちろんここでディーナがヨミガエルのことをばらすと言ってもいい。都合のいいことにイシュタル王女もいてこの二人の協力関係が生まれる。

 そうなると本当の戦争だ。

 けど、それがうまくいかないのがこの立地。ヘイワ街を担う若き騎士たちがこの土地には勢ぞろいしているが、その土地がいかんせん広すぎる。

 招集をかける術もない。今の面子で太刀打ちできるかと言われれば微妙。クリス、カトリナ、アーチェが王女側に加わったとしても七人。父上が契約している死霊たちの数には到底及ばないし、私が使役している数にも達しない。

 そして――私はそんな結末を望んでいない。

 確かにディーナの扱いは酷いがそれ相応の新しい発見もあった。出会いもあった。

 それにディーナ自身が今ここで私に関する詳細を出汁にする気が無いのもわかる。そうでなければあれほどの誤魔化しを並べる理由がない。

 一番は父上が引いてくれることなんだけど。それも難しい話である。

「待ってください」

 そこで透き通った声。それには一切の迷いが無く、父上の首を動かすにはそれ相応の力があった。

 父上に対峙するのは赤髪の少女。

 互いに人生の大半を戦いに身を置く(投じる)存在。張り詰めた空気が漂うのも致し方ない。

「私はクリスと言います。メリアスの文の中にも書かれているかと思われますがヘイワ街の騎士――の卵です」


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