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第2章-7 アイドルの父爆走

 その説明を受けた後聴力に全神経を集中させると、真夏の唸るような熱気を妨げるには心もとない風に吹かれた木の騒めき以外の音が耳に入る。

 あーだこーだと色々言いあっていたにも関わらず、私たちは野生の勘でいつの間にか川の方に歩いていたようだ。

「本当ね。近くに川が流れているわね」

「助かったわい。何でか喉がからっからやったしな」

 それはあなたが持論を熱弁していたからです。

「いいですね! さぁメリアスさん、一緒に私と水浴びを」

「してる暇は無いわよ。喉を潤したら魚がいないか調べるわよ」

 先ほどの熊狩りから格段にランクの下がった魚狩りが次の目標となる。これに関しては以前の無人島での旅行でクリスとアーチェがその実力を惜しみなく発揮してくれていたので寧ろ自分の出番はないと思われる。

 少しばかし歩くと結構な幅はあるものの透き通った水面からは比較的浅そうな底が見える。

 木々が減り、影を作る物が少なくなったものの水を求めたいが為に川の方へと駆け寄る。

「はぁぁ……冷たい」

 普段簡単に手に入る水が今では何にも代えがたい特別な物に感じる。

「ふぅ。それじゃまずは魚がいるかどうか見るわよ」

「はぁ~い」

 水の確保は私にかなりの余裕を作ってくれ、普段なら文句を言いそうなその発言にも素直に応じることができた。

 クリスやアーチェは濡れても遜色がないブーツなのか、そのまま川の中に入っていくが、私は学園指定のシューズの為、確実に濡れるから川の淵から水の中を覗く。

 比較的視力の良い私の目から見えるのは流れによって綺麗に尖れた丸石が底にぎっしり詰まっている光景。その合間から砂らしきものも見える。

 が、肝心の物は。

「いませんね」

「いないわね」

「おらへんがな」

「いませんねぇ~」

「いないな」

 満場一致の悲しい報告。

 意気揚々と臨んだ結果がこれで重い空気が流れようとする。

「でもまだよ。ここだけいなかっただけかもしれないし、上がるか下るかしましょう」

「まぁまだ可能性はあるわな。でや、どっちにいくんや?」

 ここは外れ地帯だったと言う結論に達し、早々に移動することに決めた。ただ、ここが大きなポイントになる。

「うーん……とは言ってもね。あたし魚なんてこの前の海で初めて獲ったし」

「初めてであれなら素質あるであんさん……」

 騎士廃業になってもやっていけそうな量獲ってましたからね。

「アーチェはどう? かなりやり慣れてたし」

「まぁな。もちろんのことだがエルフは海よりも川での漁の方がうまい。時期にもよるが今が産卵時期であれば比較的天敵の少ない上流、それ以外なら下流にいるのではないか?」

「で、今はどっちなの?」

「ここにいる魚次第だな。或いは」

 結論を出そうとアーチェは水が流れてくる方を見て、続けて流れてくる方を見る。

「ん?」

 そこでアーチェが何かに気付く。

「何かあったの?」

「うん。あったにはあったが」

 何らかの展開が伺えそうな何かに気付いたみたいだが、あまり口調はよろしくない。

「あまりよくはないな」

 私の想像通りの答えを出した後、アーチェが送る視線の先で私は見てしまう。

「やっぱりあなたたちでしたわね、ネクロマンサー‼」

 見たくは無かったものを。

「んげっ……」

「空腹にこれは流石に気ついで……」

 私のげんなりする声に同調してくれた人が一名。声には出してないが他三名も同じ思いなのだろう。

「貴様らか! 俺たちの食糧を根こそぎ盗んでいった野盗は!」

 声を荒げるも疲れの色が見えているみたいですぐさま近寄ってこないイシュタル王女に代わり、アグロスが声を張り上げて近づいてくる。

「誰が野盗や! こっちは盗みが大っ嫌いなんや!」

 その怒号を煽り文句と捉えたディーナがプライドを傷つけられ怒鳴り返す。

「そんな見栄だけで欺けると思うなよ! 現にこっちの方には魚一匹すら見当たらないではないか!」

 だが、アグロスも負けてはいない。

 どうやらイシュタル王女たちも魚を探していたようではあるが、どう見ても探しているのは川に足の付け根位までしか入っていないゼノなのだが。

「ってことは下流にもいないのね。じゃあ今は産卵時期ってことかしら」

「それはいいことだ。産卵時期と言うことは大人の魚だ。獲れれば質量は十二分に獲れるぞ」

 その争いごとを元にクリスとアーチェは答えを導き出す。無駄な時間を作らずに済んだことに感謝である。

「王女様はもちろん俺だって腹は減ってるんだ! ゴールドバーク家はここでも独占か! この独裁企業が!」

「んだと⁉」

 却下。時間の無駄を作ってますわ。

「じゃあディーナとメリアスが相手をしている間に私たちは上流に行って魚を獲りに行きましょう」

「ちょっと待ってください! 何で私なんですか⁉」

「あなたに用がある人がそこにいるじゃない」

 クリスが指す先には息も絶え絶えだがその目は普段以上に敵意むき出しのイシュタル王女の姿がある。アグロスとディーナが争っているように私もあれと争えと言う指示。

「どうせ追ってこないと思うのでこのまま行っても」

 ガスッ。

 私が訴えようと歩み寄ろうとした足は一本の氷柱の槍によって妨げられる。

「逃がしませんわよネクロマンサー!」

「人としての生死がかかるかもしれない状況何ですから休戦も考えるべきではないでしょうか⁉」

 そもそも私は戦争をしに来たわけじゃないですけど!

 魔法を使うのもやっとな体力で何故そこまでやるのか。ヘイワ一族の遺志、としては一番正しいのかもしれないが私としては大迷惑である。

「ほらやる気だからメリアス相手して――メリアス! その足元のって」

「はい?」

 普通なら怒りを露にするところではあると思うが、クリスの驚いた表情にその発生の元となった足元を見る。

 足元にはゆったりとした川の流れを妨げるように氷柱が刺さっている。それについてクリスが驚愕している訳じゃないことはすぐに分かった。

 その氷柱の先に引っかかっている魚がいた。

「いた⁉」

 両手で掬い上げると相当な大きさであることがわかる。

「やっぱりあなたが私の食べ物を根こそぎ奪っていたのですねネクロマンサー!」

「何だと⁉ ほら見たかディーナ! お前らはやっぱりうぼ⁉」

「いたんか! でかしたで! 今日のお昼は焼き魚や!」

 何だかいらぬ語弊が生まれつつあるが、食糧確保? と言っておくべきだろうか?

「おかしくないか?」

 が、この状況で渋い声が漏れる。

「何がおかしいんですか?」

「その魚死んでるのか?」

「死んでる――と思います。動いてませんし」

 アーチェの疑問に魚を差出して答える。

「気絶か? ともあれそういうことか」

「どういうことよ?」

 アーチェの疑問にクリスも食いつき、こちらに寄ってきた。

「こいつは既に事切れた状態でここに流れ着いたんだ」

「へっ? これってイシュタル王女が偶然氷槍を当てた魚じゃない訳?」

「あ、でも確かに刺さってはいなかったですね」

 魔力で作られた氷柱なら例え頑丈な岩でも突き刺すことは可能だから魚に穴が空くのは容易い。

「じゃあ流れ着いたってこと?」

「そう。恐らく――取りこぼしだ」

「取りこぼしって! うちらよりも上に乱獲してる奴がおるってことか⁉」

「そういうことだな」

「そいつらがうちらの魚を! はよいくで、メリアスはん!」

「えっ! 何で私⁉」

「お待ちなさいネクロマンサー! あなたとそれは私の獲物ですわ!」

「同格にしないでください! 欲しいならあげますよ!」

 どうせ上にいっぱいいる――先客付きで――魚だから一匹など惜しまずにイシュタル王女の方へと投げる。腕力の無さの為川に落ちてしまった魚は力なく水面に浮かび下流へと運ばれていく。

「どこへ逃げますの⁉ 大人しく降伏しなさい! アグロス! 私の為にその魚を調理しなさい!」

 結局同格なのか私を追うことも魚を食べることも諦めない。二兎を追う者はなんとやらって言いますから片一方に、できれば魚だけにしてもらいたいです。ところでアグロスが魚を捕えようとせずに魚と一緒に流れているのは何なのでしょうか?

「はよいくで! 独占しようとする奴をふん縛ってうちらが取りきるんや!」

「痛い、痛い! 言ってることが野盗みたいですよ!」

 ディーナが私の腕を引いて上流の方へと走り出す。言ってることが完全に悪役なのはいいのだろうか。

 アーチェとクリスが後方で何か伝えようとしているのが見えるが、ディーナは一切止まる気配がない。

「クリスさんたちが何か言ってますよ! 戻った方が」

「戻ってる暇はないんや! 今逃したら稼ぎ時を失うで!」

「主旨変わってませんか⁉」

 合宿してるのに何か普段通りになってますよ⁉ 商売相手が違うだけでやってることが普段と変わらないですよ⁉

 私と同じでやる気の欠片もなく空腹も限界だったはずなのに体格が上の私を地面に足がほとんど着かない勢いで引っ張れるのはドワーフと言う力自慢な種であるということだけが関わっているとは到底思えない。

「そもそも私たちだけでどうやって奪うんですか! ここはクリスさんたちを待った方が」

「待ってたら持ち逃げされてしまうかもしれんやろ! それに、競争相手はうちらだけやないんや!」

「は?」

 またよくわかないことを、と返す前にその解答が返ってくる。

「お待ちなさい私の食糧を奪う不届き物とヘイワ街を脅かす不届き物!」

「んげっ」

 後方から聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら案の定いつもの人でした。

 どうやってと言うことは振り向いた瞬間に失せ、まるで船のように上に行くにつれ強くなる川の流れを苦にもしない前進を続けるゼノがこちらに迫ってきていた。その背中、襟元を手綱のように引くイシュタル王女の姿は正に猛獣を操るビーストテイマーのようである。

「まずいな。あっちは川の中心を行くショートカットでうちらは岸を大回り。おまけに歩幅が全然ちゃうやないかい!」

「もう諦めてさっきの一匹取りに戻って皆で分けた方がいいんじゃないですか?」

「んならあんさんをあいつらの餌にするまでや!」

「囮ですか⁉」

 社員になんて扱いを! 今更過ぎるけどやっぱりこの会社ブラックです!

 今の限界王女ならゼノを使って私を川の底に沈みかねない。それは流石に困るので首を振る。

「んならあいつよりも早く走るで!」

「それも無理でずぅぅぅ‼」

 そんな体力はもうとっくのまに使い切ってます!

「泣き言言うんならあの追手に投げつけるで!」

「それも止めてください! あんなところに投げられた時点で溺れてしまいます!」

 ゼノの巨体だからこそ進めるのであって私だったら足が着きません!

「んならあんさんも――なんやあれ?」

 御託は許さんとばかりのダメ出しの中、ディーナが前方の何かに気付く。

 後ろから迫りくる脅威が気になりながらも前方を見る。

 そこは川が狭まっていて、例えゼノであっても足を取られるんじゃないかと思わせるほどの激流が流れていた。が、それは自然に作られたものではなかった。

 川の右半分以上が大小いくつもの岩で堰き止められている。それが原因で行き場を失った水流が左半分に押し寄せ、激流が生み出されていた。

「変な形の川ですね」

「変な形や無い! あれはどう見ても人工的なもんや! つまりはあそこに誰かいるんや!」

「え、そうなんです――あ、そんな先走らなくても⁉」

 恐らくあれが目的の場所、そう勘づいたディーナは我先にと走り出す。

「追いつきましたわネクロマンサー! ディーナも覚悟をおし――てどこへ行くのですか! それは私の物ですわ!」

 そこへ遂に追いついたイシュタル王女たちであったが、私を無視してディーナが目星をつけた上流に行ってしまう。空腹が使命を上回るという残念なシーンに出くわすことになってしまった。

「はぁ、追いついた。あの体力を他で使う考えはないのかしら?」

「大丈夫ですかメリアスさん! まぁ酷い汗⁉ さぁ私が背中を流してあげますからそこで服を」

 そこに更に三人が追い付く。人気が無いとは言え野外で露出はやめてほしいです。

「ディーナたちはどこへ行ったの?」

 クリスが訊ねたディーナたちの中にはイシュタル王女も含まれているのだろう。何故あの人たちも含まれるのか謎ではあるが、私は行き先を指さすことにする。

「あれね。どう思う? アーチェ」

「あれは明らかに人工物だ。だが、それがいつ作られたかは定かじゃない」

「だとすると。可能性はあるわけね」

 そこを見るなり深刻な顔をして確かめ合うクリスとアーチェ。川を堰き止めている岩場についての話であることは私もわかったが、それ以外は疑問である。

「とりあえず慎重に進むか?」

「いえ、ディーナとイシュタル王女が先行したなら急ぐべきよ」

 そして起こる謎の対立。

「あのー。あそこに何かあるんですか?」

 流石に理解が追い付かなくなった私はこの先に何が待ち受けているのか聞いてみた。

「熊の可能性だ」

「へぇ。熊がいる。――熊⁉」

 ここでまさかの振り出し。

 狩ることを否定して魚に辿り着いたはずなのに最終的にまた出てくるという悲しい運命に至る。

「そんな危ない所にメリアスさんを行かせる訳にはいきません! ここはあの人たちに餌になってもらいましょう!」

「い、一応王女様ですよ?」

 一般市民扱いもされていない存在の更に下って。

「ディーナは仲間だ。何かあったらそれこそ評価どころの問題じゃない」

「じゃあ早く向かった方が」

「熊か狼かもわからない。まずは様子を伺った方が」

「「――――っっっ!!!」」

「そうも言ってられないようね!」

 今後の方針は二人の声にならない悲鳴で強制決行に移った。

 大量に積まれた岩場を登っていく二人に対し、私とカトリナは回り道をする。必死に私の腕にしがみついてくるのは行かせないようにしているのか、単にしがみつきたいのか、とにかく熱苦しいです。

 岩が積まれていたのは下流へ行く道だけだったのでその光景はすぐさま映し出された。

 熊。

 のような大男。

 全身鋼のような筋肉に覆われ、胸毛が生き渡った胸部から腹部にかけていくつもの割れ目が見える。

 下半身は帯状の布を腰及び股に巻き付けており、川に潜っていたのか湿り気を帯びている。

 両腕にはその際に得た魚を抱え、鋭い眼はディーナとイシュタル王女の腰を岩場に押さえつけるのに十分な威力を発揮している。

「儂に何用じゃ? このような山中で小綺麗な装い。騙しの賊ではあるまいな?」

 圧倒的威圧力はクリスやアーチェにもひしひしと伝わっている。そして思っているはず。

 只者じゃない。一体――。


 …………。


 無理だ。


 これ以上戯言を思い浮かぶのも。

 これ以上虚偽を並べることも。

 これ以上目を反らすことも。


 どうやっても無理だ!


「な、何で軍曹がここに!」「ち、父上ぇぇぇぇぇ⁉⁉⁉」


 嘆きが一瞬にして広がる。


「…………」


 静寂が訪れる。


「……お、おおおおおおぉぉぉぉぉぉ‼ わが愛しの娘よ‼」


 歓喜に舞う。


「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉⁉⁉」」」


 驚嘆が巻き起こった。


 〝拝啓 母上へ

 何故この野獣を野へ放ってしまったのですか!〟


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